浅草散策と映画(1)

  • 戯作者・四世鶴屋南北から、浅草を舞台とした映画に飛ぶ。南北さんにちなんで脚本家と脚本家修業中の出てくる映画とする。『笑いの大学』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』。『笑いの大学』は知名度あり。『ばしゃ馬さんとビッグマウス』私的にはノーマークであり映画名すら初めて知るが、面白かった。探索経路を時々変えないと掘り出し物と巡り合えない。

 

  • 笑いの大学』は、テレビの舞台中継で西村雅彦さんと、近藤芳正さんのコンビで観ていて、三谷幸喜さんの作品の面白さを知る。映画では二人だけの閉ざされた中での会話の面白さをだすのは無理であろうと思っていたので観る気分にならなかったが、浅草の芝居小屋の脚本家ということでみた。映画『笑いの大学』は、 役所広司さんと稲垣吾郎さんで、笑ってその笑いが哀しさにつながる流れは見事に成立した。世の中が戦争に向かう時代、芝居台本は検閲官の検閲が必要であった。上演中止の赤印を押すために、じりじりと脚本家を追い詰めていく検閲官と脚本家のやりとりである。

 

  • 検閲官の向坂睦夫(役所広司)は、時局に合わない台本には書き直しが出来なければどんどん上演禁止にしていく。浅草にある劇団『笑いの大学』の座付作家の椿一(稲垣吾郎)の書いた『ジュリオとロミエット』もなぜ外国物なのだとツッコミが入る。椿は、『ロミオとジュリエット』のパロディで笑わせるためで作者は英国だが舞台は同盟国のイタリアだと説明するが、向坂はこの時代に笑う事自体がけしからんとくる。お宮と寛一に直せと言い渡す。これが一日目で二日目、三日目と書き直しを言い渡される。ところが、笑ったことがない向坂のどこが面白いのかの疑問で、どんどん書き直していくうちに面白いものになっていく。

 

  • 苦しみつつも椿は書き直し、動きを向坂に頼む。向坂は身体を動かすことに寄って次第に本つくりにのめりこんで行きついに七日目に完成する。相対立するからこそ妥協のない作品になったともいえる。椿は引きつつ向坂を引き入れていたのである。しかし、椿には赤紙がきていた。向坂は、椿が去る廊下に出て「生きて帰ってこい!」と叫ぶ。向坂は椿との警視庁の一室の中でつくりあげた本を通して、味合う事のなかった交流を体験してしまったのである。『笑いの大学』は劇団名であるが、椿が向坂から笑いについて大学で学ぶように教えて貰ったことをもかけているのである。向坂が訪れる劇団『笑いの大学』の劇場は浅草にある。全てセットである。映画の中の舞台ともいえる。廊下に座る老警官・高橋昌也さんのさりげなさもいい。〔2004年/監督・星護/原作・脚本・三谷幸喜〕

 

  • じゃじゃ馬さんとビッグマウス』は、シナリオライターを目指す女性と、その年上の女性に恋をした男性が出来上がることのなかったシナリオを書きあげるまでとその後である。真面目な馬淵みち代(麻生久美子)は、一生懸命時間を惜しんでシナリオを書いて応募するが落選ばかりである。また、シナリオ教室に通い始める。そこで、自信だけはビックな天童義美(安田章大)と出会う。天童は馬淵に一目惚れである。このふたりのやりとりがテンポよく天童の大阪弁が上手く自信過剰に愛嬌を加える。バカバカしい、時には笑わせる映画かなと思ったらこれが軽いが息と間と人物の性格がよくできている。

 

  • 馬淵みち代はばしゃ馬さんで落ち込むときも真面目で軽口をたたいていながら気分が変わったのが分かる。するとビッグマウスはそれを察知して気分を回復させようとする繊細さも持ち合わせていて、このあたりがビッグマウスのわけのわからない魅力でもある。いうことはいうが実行がなく、有名になった時のためにとサインの練習をしてそんな暇あったらシナリオ書けと友人にいわれる天童。こういうありふれたネタを可笑しくさせてるのがこの映画のあなどれないところである。ばしゃ馬さんはシナリオのために介護体験に行き真面目に対応するが、自分の甘さが露呈し、また落ち込む。

 

  • 浅草の商店街がいい。飲み会の待ち合わせが大衆演劇の劇場・木馬館の横である。その横に、浪花節の常席・木馬亭なのであるが映らなかった。残念。木馬館と木馬亭は今回の浅草散策で入館したので、映画で出てきて嬉しくなった。それでなおさらこの映画が気に入った。エンドロールには、奥山おまいりまち商店街、六区ブロードウェイ商店街、浅草西参道商店街の名前があり、飲食店も浅草ではないが、下町的雰囲気で明るい店の閉まった浅草の商店街に包まれているようで楽しい映像となっている。ばしゃ馬さんは、浅草の芸能の街から去ることになるが。ばしゃ馬さんとビッグマウスのラストが浅草でないのが気になる。しかし、呼び出したのがビッグマウスであるから、あれはビッグマウスのばしゃ馬さんへのシナリオの場所設定なのかなとも考えられる。見せないが繊細で優しいのである。〔2013年/監督・吉田恵輔/脚本・吉田恵輔、仁志原了〕