歌舞伎座8月『東海道中膝栗毛』『雨乞其角』

  • 東海道中膝栗毛』 再伊勢参? YJKT! (またいくの こりないめんめん) 筋はなるべくさらにしてどう観せてくれるのかという愉しみかたをすることが多いのだが、今回は前もって読んでおいて、ここではこの役者さんをとチェックしておいた。筋を読みつつ笑ってしまった。そう来るのかと。筋を知っていても実際の芝居は立体的になるわけで、もっと笑ってしまった。

 

  • 呼び込みの一つは、猿之助さん、獅童さん、七之助さん、中車さんの早替わりである。早変わりも多すぎると何だったのということになるだけで逆効果のときもある。4人もの役者さんが早変わりである。ここを上手く考えた。獅童さん、七之助さん、中車さんの三人をセットにして6役受け持たせたのである。昨年の弥次喜多のパロディあり、歌舞伎の演目のパロディあり、老若男女あり、将軍・武士・商人・庶民ありで、短時間にこの役になって観せなければならないのであるから役者さんにとては忙しいのと同時に難易度である。観るほうは、意表をつかれつつその役に身体が表現されているかをチェックしつつ笑うのである。

 

  • 猿之助さんの喜多八は亡くなっているのであるから大きな遺影と幽霊だけではちょっとということなのであろう。赤尾太夫の二役である。弥次郎兵衛の幸四郎さんが喜多八の死をあまりにも悲しむので、忘れさせてあげるには、美しい太夫が一番との設定である。それも『籠釣瓶花街酔醒』の八ツ橋と佐野次郎左衛門との出会いのパロディである。場所は神奈川宿。弥次さんを元気づけようと、賢い二人の梵太郎の染五郎さんと政之助の團子さんがお伊勢参りにさそったのである。五代政之助?あっ!團子さん五代目なのだ。気がつくのが遅すぎ。「ボーッと生き てんじゃねえよ!」チコちゃんに叱られそう。

 

  • 赤尾太夫は今宵は箱根五日月屋とのこと。上手い。泣きつづけの弥次さんじゃ箱根まで登れません。赤尾太夫がいるならなんのそのでしょう。追いかけてくる幽霊の喜多さん。五日月屋は前の伊勢参りの時幽霊の出た宿。そのためお札がはられている。番頭の廣太郎さんが主人になっていた。お札をはがしてくれるのが犬と猫。幽霊の姿の見えるむく犬(糸あやつりの弘太郎)と三毛猫(糸あやつりの鶴松)。幽霊との言葉も通じ合う。

 

  • 五日月宿では、お金のない弥次さんを可愛いいとして、身請けをしようとしていた阿野次郎左衛門(あの)の片岡亀蔵さんは怒り、女将・おさきの米吉さんも赤尾太夫の勝手さに怒る。女将怖い。二人を殺すようにそそのかす例の早替わりの三人組。さてこの三人の本当の正体は。これだけの人数のだんまりも初めてであろう。

 

  • 三人の正体は地獄への使者。獅子堂獄之助(獅童)、鬼塚波七(七之助)、暗闇の中治(中車)だ!冷静な梵太郎と政之助は、例の名刀・薫光来でむく犬と三毛猫の言葉を理解、地獄へ落ちた弥次さんと喜多さんを助けるため、地獄につながる洞穴に飛び込む。

 

  • 地獄の閻魔庁では、年に一度の祭りの日。観客も好い日に閻魔庁を見学でき、楽しい歌舞音曲に閻魔大王の右團次さんと楽しめました。赤鬼(橋之助)、青鬼(福之助)、黄鬼(歌之助)、大鬼(鷹之資)、中鬼(玉太郎)、小鬼(市川右近)、さらい女歌舞鬼(千之助)がひきいる一座の華やかな踊り。これをひとりひとり確認するのが大変である。キラ星のごとく三鬼踊り、大中鬼踊り、座長の「藤娘」ら次々とつづく。

 

  • 歌之助さんは久しぶりである。鷹之資さんには富十郎さんの踊りを引き継いでほしい。右近さんの阿波踊りも愛嬌たっぷり。もう一人のチョッパーの猿さんもいて可愛い舞妓である。(『ワンピース』<チョッパー登場 冬島編>から見始めた。チョッパー、本当にトナカイだった。)少しだけ先輩格の舞子さんもいます。最後は、にぎやかに阿波踊りである。さすが話題は逃がしません。

 

  • 無事、洞穴から現生に戻った弥次さん、喜多さん、梵太郎、政之助。弥次さんしこたま頭を打つ。喜多さんの言葉が通じる。それってもしかして。えっ!基督の門之助さんが。確か喜多さんのお葬式のときはお坊さん。基督の横には日光天使(染五郎)と、月光天使(團子)。もうひとつの呼び込みの幸四郎、猿之助、染五郎、團子の4人宙乗り。2人プラス天使2の行先は・・・・

 

  • この芝居の川は富士川でした。今月の芝居で舟が足りないのか、歩く舟もありました。そしてとっておきは、そもそも喜多八はなんで死んだのか。それは高麗屋さんの襲名に関係していたのです。そして、幸四郎さんと猿之助さんにも関係していました。まあ喜多八がドジであったのが一番の原因ですが。しかしこれは一番笑えます。

 

  • 舞台番・虎吉(虎之助)、舞台番・竹蔵・閻魔庁の書記官(竹松)、茶屋娘お稲・閻魔妻(新悟)、閻魔庁・泰山府君(片岡亀蔵)、町名主伊佐久(寿猿)、後妻お紀乃(宗之助)、家主七郎兵衛(錦吾)

 

  • 休憩時間のロビーでは、筋書を開いて今のはここで今度はここへいくわけで、あれはだれだれさんでと確認しておられるご婦人たちもいる。ご家族で観劇なのであろう。お父さんが娘さんに注意されている。聞くともなく耳にしたが、どうやら娘さんが遅れてきたらしい。役者さんも集中できないし観ている方にも迷惑だし、この時間に入るためにはどのくらいの時間をとったらいいか計算できるでしょう。ごもっともです。インターネットに頼ってかえってぎりぎりな計算になるときもある。幕間まで立っていてもいいのだが、親切に案内してくれるので、ごちゃごちゃ言っても仕方がないとそれに従ってしまう。いやいや、余裕をもってである。

 

  • 雨乞其角(あまごいきかく)』も初めてであったのでたのしみであった。『三囲神社』に碑があるが、それを題材にした舞踊があるとは。俳諧師宝井其角さんは、歌舞伎では『松浦の太鼓』でお馴染みで忠臣蔵がらみでの登場であるが、『雨乞其角』は「夕立や 田をみめぐりの 神ならば」の句を詠んだところ雨が降ったということに由来している。隅田川の様子を彷彿とさせる舞踏である。

 

  • 舟遊びをする其角のそばを大尽の舟なども通り過ぎる。三囲の土手に上がれば、弟子たちが雨が降らず困ったことですと。そこで其角が雨乞いの一句を献ずると雨が降り、皆踊り出すのである。其角の扇雀さんと船頭の歌昇さんと虎之助さんがお酒を酌み交わしてののどかさ。大尽の彌十郎さんは芸者の新悟さんと廣松さんをお共に楽しんでいる。土手に上がるとおおぜいの弟子たちがまっている。

 

  • 雨が降って、橋之助さん、男寅さん、中村福之助さん、千之助さん、玉太郎さん、歌之助さん、鶴松さんら弟子たちの総おどりである。今度は閻魔庁とは違った江戸の粋さのなかでの踊りで、気分を変えて楽しませてもらう。

 

  • 三囲神社には、其角さんの「山吹も柳の糸のはらミかな」の句碑もある。また老翁老嫗の石像がある。元禄の頃、三囲稲荷にある白狐祠を守る老夫婦がいて、願いごとがある人に変わって狐を呼び出し願い事をかなえてもらっていた。この夫婦の呼び出しにしか応じなかったのである。その老夫婦の死後、像が建てられた。それを其角さんは、「早稲酒や狐呼び出す姥が許」と詠んでいる。コケが綺麗なところがあり、草取りされているかたが、手をかけなくてはと言われていた。何事も陰の力あっての美しさである。ただ人手が少なくなっているのは現実である。

 

  • 其角さんは芭蕉さんの弟子であるが、お酒も好きだったようで、ヒナよりも江戸の粋な風俗を好んで詠まれたようである。鷲神社には「春をまつことのはじめや酉の市」の句碑がある。