浅草映画『抱かれた花嫁』『喜劇 駅前女将』『キネマの天地』(1)

浅草関連映画も、浅草に興味を持つ前に観た映画を再び見返しているが、気がつかなかったことが結構発見されるものである。喜劇はさらにその傾向が強いかもしれない。笑いのそのタイミングやちょっとした仕草や無理して笑わせようとしていない自然な不自然さにほーう、へえー、やりますね、などと感嘆したりしている。

映画『抱かれた花嫁』(1957年)は、<山田洋次監督が選んだ日本映画名作100本>の喜劇篇50本に入っていた一本である。監督は番匠義彰さんで、番匠義彰監督の映画はこの映画が初めてと思う。

ここからは『昭和浅草映画図』(中村実男著)から情報をいただくが、映画『抱かれた花嫁』(1957年)がヒットして「花嫁シリーズ」となる。そして松竹最初のシネマスコープ作品である。浅草物として番匠監督は7本撮られている。『抱かれた花嫁』『空かける花嫁』『三羽烏三代記』『ふりむいた花嫁』『クレジーの花嫁と七人の仲間』『泣いて笑った花嫁』『明日の夢があふれてる』。残念ながら残り6本は今のところ観れる見通しなしである。

映画『抱かれた花嫁』の中に浅草国際劇場での松竹歌劇団(SKD)の映像が映し出されるが、これが今までみたSKDの映像のなかで一番インパクトが強いのである。シネマスコープのせいもあるのか、奥行きと巾があって団員のラインダンスには圧倒されてしまう。「さくら」のピンクの傘をもってのフィナーレも団員が小さく見えてこの劇場の大きさが伝わってくる。

知人はお母さんと叔母さんに連れられてSKDをよく観に来たのだそうである。その時愉しみだったのがキューピーちゃんの着ぐるみだったそうで、調べて見たら写真がありました。最初の登場が1951年で評判がよく以後定番になったようである。

抱かれた花嫁』は、浅草の寿司屋の看板娘・和子(有馬稲子)を中心にその家族や恋人などが織りなす家族劇ともいえる。母親・ふさ(望月優子)は未亡人で子供たちのために店を守ってきた。長男・保(大木実)はストリップ劇場の脚本家で、次男・次夫(田浦正巳)は外交官志望でまだ学生である。となれば、看板娘の和子に養子をとるしかないのである。しかし和子には上野動物園で獣医をしている福田(高橋貞二)という恋人がいる。二人の間に、養子候補(永井達郎)と福田の気を引こうとする女性・千賀子(高千穂ひづる)という人物が入って来る。

次夫には恋人がいて、国際劇場に出ている踊子・光江(朝丘雪路)である。それが母のふさにばれてしまう。ふさは「あんな裸踊りの子なんて。」と嘆くが、実は、ふさは若い頃、踊子だったようである。オペレッタの人気者であった恋人と泣く泣く別れた事情があったようで、保のつとめるストリップ劇場へ、かつての恋人である往年のオペレッタスター・古島(日守新一)が出演するというのでふさは聴きに行く。古島は『恋はやさし』を歌う。

浅草の場面がたっぷり観れて、さらに日光の風景も加わり、テンポよく話は進んで行く。最後は、家出して水郷の友人のところにいる和子を福田が迎えにいくのであるが、水郷を舟で進む福田の姿が途中で消えてしまう。和子が上からのぞくと、舟に穴が開いていたのか舟から水を捨てる福田の姿があった。題名は『抱かれた花嫁』と色っぽいが、抱かれることなく笑いで明るく終わってしまうのである。

寿司屋の職人として桂小金治さんが活躍し、歌手の小坂一也さんがレストランの歌手として、あの独特の声を披露してくれる。

松竹初のシネマスコープ作品として、野村芳太郎監督の予定だったが、野村監督は松本清張さん原作の『張込み』に賭けていてこれを断り、番匠義彰監督となったそうである。(『昭和浅草映画図』)二つのタイプの違う映画が誕生したわけでそれぞれに楽しみ方が違い、映画ファンとしては幸いなりと言ったところである。

浅草物映画『ひまわり娘』(1953年)は、有馬稲子さんと三船敏郎さんがコンビであるが、三船敏郎さんが、松屋屋上のスカイクルーザーに田舎から出てきた母親と乗る場面があって、たっぷりスカイクルーザーを見せてくれる。

映画『喜劇 駅前女将』(1964年)は、浅草が舞台ではなく、両国と柳橋が舞台である。両国の酒屋・「吉良屋」の主人が森繁久彌さん、奥さんが森光子さん。柳橋の寿司屋・「孫寿司」の主人は森光子さんのお兄さんである伴淳三郎さんで奥さんは京塚昌子さん。伴淳三郎さんの弟で腕の悪い寿司職人がフランキー堺さんで恋人が芸者の池内淳子さん。両国のクリーニング屋には三木のり平さんで奥さんが乙羽信子さん。

この組み合わせにさらに加わるのが、森繁久彌さんのもと恋人で、夫に死別し両国に帰ってきた淡島千景さん。淡島千景さんは池内淳子さんのお姉さんでかつては芸者であった。森繁さんがお気に入りのバーのマダムが淡路恵子さん。伴淳三郎さんも淡路恵子さんが気に入ってしまう。

その他、淡島千景さんと池内淳子さんの姉貴分の芸者に沢村貞子さん。淡島千景さんはお店を開く予定で、当然、森繁さんが手を貸す。そして、淡路恵子さんのバーと淡島千景さんの開店したお店が隣同士で、二階からお隣の私的な場所が丸見えである。

さらに、中華料理屋の主人に山茶花究さん。池内淳子さんのクラスメートに大空真弓さん。森繁さんの叔父さんが銚子に住む加東大介さん。その息子に峰健二(峰岸徹)さん。そこのお手伝いさんが中尾ミエさんで、これまた歌を披露してくれる。

凄い配役で、それぞれの喜劇性が生かされている。観ていればこれだけ複雑な人間関係が無理なく受け入れられ、さらに、場面場面で関係ないような笑いを入れてくれている。フランキー堺さんの下駄タップ。フランキーさんが食べているラーメンのチャーシューを洗濯物の配達にきた三木のり平さんが間合いよく食べてしまったりなど、その動きがつなぎ目を見せず上手いのである。

佐伯幸三監督が、このシリーズでの初登場で、その後続けて監督を務めていて納得してしまう。軽快で俳優さん達の演技力をも堪能できる優れた喜劇映画である。浅草関連は映像は少なく、駒形橋や松屋の映像である。

両国なので、相撲取りの佐田乃山さん、栃光さん、栃ノ海さん、出羽錦さんも登場し、森繁さんは、鮨をご馳走することになるが弟子たちも付いてきていてその食べる量を想像しただけで歌うどころではなく退散である。もちろん森繁さんの得意芸のみせ場もありサービス満点の映画でもある。

<駅前女将>ということで、女性俳優も実力を発揮し、男性俳優と互角に演技をしていてそれがかえってバランスの良い喜劇となって成功している。

脚本は長瀬喜伴さんで駅前シリーズの常連であったということを知る。

映画『キネマの天地』(1986年)は、松竹大船撮影所50周年記念作品である。浅草の帝国館の売り子が映画スターになるという内容で、浅草六区や松竹蒲田撮影所のセットや映画撮影風景も見どころである。(山田洋次監督)