歌舞伎座5月『鶴寿千歳』『絵本牛若丸』『京鹿子娘道成寺』『御所五郎蔵』

鶴寿千歳』 昭和天皇御即位の大礼を記念してつくられ作品だそうで、箏曲が中心となっていて、新らしい時代を寿ぐ舞踏である。宮中の女御(時蔵)、大臣(松緑)、男たち(梅枝、歌昇、萬太郎、左近)が優雅に踊りをくりひろげる。そして雌鶴(時蔵)と雄鶴(松緑)が目出度く舞い納めるという設定である。箏曲の音色がゆかしくて、夫婦の鶴が平和な世を愛でている。時蔵さんはゆったりとたおやかで、松緑さんの身体の動きの角度やそのゆるやかに流れる速度に品の良さが映し出されていた。そういうことなのかと袖の扱いかたなどに見惚れる。

絵本牛若丸』 七代目尾上丑之助襲名の初舞台である。菊之助さんが六代目丑之助襲名の初舞台のときに作られたそうで上手く出来ている。(村上元三脚本)『鬼一法眼三略巻』の人物背景と義経の牛若丸時代の鞍馬山とを組み合わせている。鬼一法眼(吉右衛門)と吉岡鬼次郎(菊五郎)に伴われて牛若丸(丑之助)が鞍馬山にやってくる。修業のあかつきには兵法の三略を授けるという。平家の郎党が牛若丸暗殺のためあらわれる。これを牛若丸はやっつけてしまう。実は郎党は源氏側で牛若丸の腕をためしたのである。牛若丸は弁慶(菊之助)をともない、源氏再興を目指し奥州へと旅立つのである。

牛若丸が弟子入りする東光坊の蓮忍阿闍梨(左團次)、お京(時蔵)、鳴瀬(雀右衛門)、山法師西蓮(松緑)、山法師東念(海老蔵)などの役どころで役者さんが一同にそろう。『鬼一法眼三略巻』を思い出させつつ鞍馬での牛若丸の立ち廻りで、その後の義経の活躍を思い起こさせる構成となっていて、菊五郎劇団の立ち廻りを披露する新丑之助さんにふさわしい活躍ぶりであった。

(楽善・休演、彦三郎、坂東亀蔵、松也、尾上右近、権十郎、秀調、萬次郎、團蔵)

京鹿子娘道成寺』 菊之助さんの白拍子花子である。期待して楽しみにしていた。ところが、可愛らしくて甘い娘道成寺であった。怨みを伝えるために道成寺に来るわけである。所化たちをだましても鐘のそばへ行きたいと思っているのである。所化たちをその愛らしさで煙に巻いてもいい。しかし、鐘のそばで踊っているうちに心の中に変化が強まってそれを静めたりする内面の葛藤があるはずである。しかしそれをみせない芯が身体から、どこか踊りの中に出てこないであろうかと鑑賞していたが、可愛らしさと甘さの雰囲気を持続された。最後にその恨みを爆発させるということだったのであろうか。何か考えがあってのことかもしれないが、印象が薄くなったのが残念であった。

所化の役者さんたちは手慣れていて安定していた。(権十郎、歌昇、尾上右近、米吉、廣松、男寅、鷹之資、玉太郎、左近)

曽我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ) 御所五郎蔵 』 御所五郎蔵が松也さんで、星影土右衛門が彦三郎さんである。声の良いお二人なのでどう変化をつけて河竹黙阿弥ものに挑戦されるかと楽しみにしていたが、良さを生かしきれていなかった。力みが前面にでていた。良い所を生かすということも難しいことであると思わせられた。

彦三郎さんは、悪役である。顔の作りがどうも気になった。声で悪を表現できる声質なので、もう少しかっこよくしても良いように思えた。あくまでも彦三郎さんの場合である。松也さんは、神経質な五郎蔵になっていて、仲之町での出会いでのつらねも沈んでしまった。とめに入る坂東亀蔵さんに落ち着きがあった。

五郎蔵が、女房でもある皐月に愛想づかしをされるがずっと線の細さが目立ってしまうのである。五郎蔵は今は侠客なのである。侠客と傾城である。梅枝さんが古風で地味で、五郎蔵のためなのだからと、引き加減である。しかし、心を隠して傾城として女房としての意地の見せ所があってもよいのでは。侠客と傾城という立場の見せどころでもある。

その分、逢州の尾上右近さんのほうが艶やかに見える。逢州は旧主の恋人でもあるからこういう位置関係もありかなと思ってしまった。

逢州を皐月と間違って殺してしまう場面が、若い役者さん同士でもあることから勢いがあり、見せ場となってしまった。やはり、見せ所はその前の場面であろうと思えた次第である。

若い役者さんが、大きな役を演じる機会が多くなった。それをどうこなしていくかが、今の歌舞伎界に課されているように思える。また歌舞伎を観ていない友人から上から目線だと言われそうである。

(吉之丞、廣松、男寅、菊市郎、橘太郎)