ドキュメンタリー映画『はじまりはヒップホップ』『ジェイン・ジェイコブズ ニューヨーク都市計画』

テレビで72歳のご婦人がお孫さん二人からヒップホップの特訓を受け、しっかりとリズムに乗りラストもきめるられていました。二人のお孫さんの女性はダンスのプロということです。この映像を見て思い出したのがドキュメンタリー映画『はじまりはヒップホップ』(2014年)。ヒップホップ関連映画を観ていたときに遭遇した。

こちらも高齢者のヒップホップで、66歳から94歳までの男女である。車イスのかたもおられる。場所はニュージーランドの東のワイヘキ島。公民館で行われていたヒップホップ教室。指導員のかたはヒップホップを踊れないのである。YouTubeや本で手探りで勉強される。

さらに目標として2013年のラスベガスのヒップホップ選手権大会に申し込み、特別出演を果すのである。クルー名は「ヒップ・オペレーション」。メンバーの多くが腰骨の手術を受けているからである。

ラスベガスに行くにはダンスだけではなく医者の許可や、行く費用など問題が生じるが皆で話し合い何んとか実行に移すことができ、若い参加者から拍手喝采をあびる。そこまでの道のりがメンバーたちの生きてきた姿を通して描かれている。

指導員のビリー・ジョーダンはメンバーの家を訪ね、食事やお茶をしつつそれぞれの生き方や歩いてきた道を尋ね、耳を傾ける。そしてその生き方に共鳴し、自分の生き方の栄養とし、尊敬の念を積み重ねている。メンバーたちは、自分の人生をおごることなく、身体をうごかして表現者となり、若者たちとも交流し、生き生きと人生を謳歌する。

ドキュメンタリー映画『ジェイン・ジェイコブズ ニューヨーク都市計画』(2018年)は、街の人々のコミュニテイーを大切に考え、大開発の流れに異議を唱えたジェイン・ジェイコブズの考え方と行動を伝えてくれる。

この映画の内容を言葉で伝えるのは難しいのであるが、何んとかやってみよう。伝説のパワーブローカー、ロバート・モーゼスがスラムを撤去し、モダニズムの街に変えようと強引に実行していく。ジェインはグリニッジビレッジに住み皮膚感覚で街というものをとらえていた。さらにそこに彼女の直感と観察を加えて考え行動する。

「ニューヨークは大好きな街だった。通りを歩いてうろつくだけで楽しかった。どの通りにもどの地区にも個性がある。色んなことが起きている。」

「ニューヨークは豊かでない者も受け入れてくれる。広い土地を持っていなくても立派な開発計画などなくてもいい。それに新しいことや面白いことをする必要もない。あらゆる人を受け入れる場所なの。」

治安や衛生面から、人があふれる街路をなくすことが解決策だという考えが浮上し、団地を建設することでたむろすることを防ぐと考えられ、古い建物は壊され団地ができる。

「低所得者向け団地は非行や破壊行為や絶望の温床となり以前のスラムよりもひどいものです。」これはヒップホップ関連映画でどうしてこの離れたところに高層住宅があるのであろうかと疑問に思った。ゴーストタウンのような不気味さがあった。誰の目も届かないように思えた。暴力、ドラッグなどの諸問題をかかえることとなる。

モーゼスのビジョンには街路が消えていた。さらに地域コミュニティに無関心だった。

「街路には見守る人が必要である。人々の目が店番になる。住民と見知らぬ人々の安全を保障できる建物は通りに面していなければならない。」

「歩道には利用者が継続にいる必要があり街路に向けられる有効な目を増やして街路沿いの建物は人々が歩道を見るようにする。」アメリカのニューヨークを舞台した映画によくでてくる。住宅が長屋のようにつながり、階段がありドアがある。スラムといわれる場所には、ドアの横のベンチに座って歓談している老人などがいる。あるいは窓から暇そうに歩道で遊ぶ子供たちを眺めていたりしている。老人たちは、地域の子供たちの成長をよく知っている。

ジェインは、モーゼスがワシントン公園広場に道路を通す計画を知り市民運動にたずさわり、多くの著名人の賛同をえる。さらに、自分の住んでいるウエストビレッジがスラムの指定候補となり都市再生計画にくりこまれる。ジェインは、古いものを補修し修繕して住み続け、街の秩序を守り愛していた。ニューヨーク市を相手に訴訟をおこし都市再開発中止、スラム指定解除を勝ち取る。

モーゼスはさらにローワマンハッタン高速道路を計画するが白紙となる。実行されればソーホーの大半は壊され、世界的にも貴重な19世紀の素晴らしい建築物を失っていたのである。

「無秩序に見える古い都市の下には、その古い都市が機能している場合、街路の治安と都市の自由を維持するための素晴らしい秩序があります。」

その後、秩序を失い要塞化した各地の公営住宅などは解体される。一瞬で崩壊される映像に、あの時壊されたスラムの建物はもう戻らないのだと今更ながら思い知らされる。そこに住んでいた人が見ればなんだったのであろうかとその喪失感に虚無を感じるかもしれない。

このドキュメンタリーはジェイン・ジェイコブズは著書『アメリカ大都市の死と生』をもとに彼女の考え方を紐解いてもいるらしいが、私的には本を読んだだけでは駄目だったかもしれない。映像があってこそ納得できたのかも。

新型コロナウイルスは、人の大切な命とともに大切なコミュニティをも破壊しようとしている。そのことを意識しつつ新しい生活に立ち向かわなければ神経も傷つけられてしまう。

追記: 検察庁法改正案に抗議します。