劇映画『沖縄』・ドラマ『ニセ医者と呼ばれて~沖縄・最後の医介輔~』

劇映画『沖縄』(1970年・脚本・監督・武田敦)が、DVD化されていて観ることができた。沖縄のアメリカ軍統治下時代の映画は観ていなかったのでとても参考になり勉強になった。戦争の悲惨さは映画『ひめゆりの塔』などで観ていたがその後から日本復帰までは実感として自分の中では希薄であった。

山本薩夫監督が製作にあたっている。山本薩夫監督の映画の中でストーリー性があり印象的な作品も多く、『華麗なる一族』(1974年)、『金環食』(1975年)、『不毛地帯』(1976年)などは豪華俳優陣で俳優さんたち一人一人の演技をみているだけで惹きつけられ、さらにドラマ展開に釘づけにさせられる。

武田敦監督は、主に山本薩夫監督に師事していて、初監督作品は『ドレイ工場』(1968年)である。劇映画『沖縄』でメッセージが映る。「この映画は、『ドレイ工場』の土台の上にみんなでつくりみんなでみる運動としてさらにひろい人々によってつくられました。」

ドレイ工場』には次のようなメッセージが映る。「この映画は、1000をこえる団体と個人の呼びかけによって10万人の労働者が資金をだしあい、専門家と一体となってつくりあげました。」

劇映画『沖縄』に入る。<劇映画>としているのは、沖縄の歴史的事実を調べましたが、実証を細かくやっていくのは時間のかかることなので、<劇映画>と規定しますとの製作側の誠実さのように思える。この映画をもとに知りたければ各自が書物などで調べてみるのもよいであろう。

映画は第一部「一坪たりともわたすまい」(昭和3X年)、第二部「怒りの島~太平洋のかなめ石~」(昭和4X年)からなりたつ。一部の十年後が第二部の時代設定で、父母時代から父母の背中をみて育った子供世代に話は進んでいる。

第一部は、アメリカ軍によってアメリカ軍用地として沖縄の人々の農地が強制接収されてしまう。一応借りると言うことであるが、煙草10円の時借地料は、ひと坪当たり1年間1円8銭である。代替地は石と砂利でさとうきびも育たないようなところで、代わりに軍の従業員として雇ってくれるという。

主人公の三郎(地井武男)は、20歳前で軍の従業員としても雇ってもらえず、アメリカ軍の物資をかすめ取ったり、危険を犯して基地内の演習後の砲弾の空やっきょうを盗みだしたりして生活費をかせいでいる。母とアメリカ人との間に生まれた弟と祖母を抱える朋子(佐々木愛)も野菜を売ったり、基地内の演習後の弾丸のやっきょうを集めてひたすら生活のために働いている。

父母世代は、農地を取り戻そうと闘う者と、アメリカ軍関係から残飯を払い下げてもらい家畜会社を設立する者など、それぞれの生き方が別れていく。一坪運動の中心になっているのが中村翫右衛門さんでまったく力の入らない演技と語り口でありながら存在感がしっかりしていて、抵抗する者の土着性を現わしてくれる。新しい事業を起こすのが加藤嘉さんで、その狡猾さも時代に乗ろうとする生き方のひとつであり、息子をアメリカ留学させるという目標もある。

朋子の祖母は、基地の鉄条網のすぐそばに借りた畑を細々とたがやしている。演習の飛行機が飛べば身をこごめる。そしてその実弾射撃演習の弾をを受けて亡くなってしまう。基地の中にある先祖伝来のお墓に骨を埋めて朋子と弟は親戚に引き取られ、若者たちもそれぞれの道を歩むのであった。

第二部では、若者たちの10年後である。三郎は、軍用地の従業員として働いていた。従業員たちは組合を結成していた。ベトナム戦争もあり、従業員たちの仕事は残業続きで危険性もあった。そんな中で三郎は朋子と再会する。彼女はスクラップを集めて売る仕事を立ち上げたくましく成っていた。

父と一緒に一坪運動を続けた息子は、買い取った土地にサトウキビを植えていた。アメリカに留学した息子は、高校の教師となって赴任してきた。三郎は朋子の弟のわたるとも再会する。わたるは高校三年生になっていた。わたるは、スナックをやっている母と一緒に暮らしたくないので朋子の元には帰らず、山城運輸でアルバイトをして学校は長期欠席である。担任になったのが新興企業のアメリカ帰りの山城の息子であった。

三郎は、パスを取り上げられ働けなくなった二人の従業員の嘆願をする。ところが助ける条件としてアアメリカ軍側は三郎に組合の情報を提供するように持ちかける。三郎は拒否するが、朋子を手伝った密輸の現場写真を突き付けられる。船をかした仲間も同罪だとおどされる。組合はストを計画していて三郎は苦しい立場に追い込まれる。

わたるは青信号で渡ったのにアメリカ軍の自動車に轢かれてしまう。その車には拘束された三郎が乗っていた。目撃者の山城教諭は軍の裁判で証人として立つが認められず運転していたアメリカ軍人は無罪になってしまう。山城教諭は沖縄の現状を知る。

三郎は解放され彼のおかれた立場も仲間に理解されストに参加する。そこで三郎はかつてつるんでいたひろしに再会する。ひろしは一家でアメリカのボルネオに移住したが沖縄に戻っていた。7年間働いて貯めたお金を強盗によって奪われ、父母は殺されていた。ひろしの旅券は、琉球人と書かれ、発行責任者はアメリカ高等弁務官で、どこの国の保護も受けられない無国籍者で、どんな目にあわされても泣き寝入りだと泣く。山城も他の教員と共にストの応援にかけつける。

ストは大きな流れとなってうねりはじめた。それはアメリカ軍基地の完全撤去、沖縄の即時無条件全面返還要求の声となり、沖縄の本土復帰への道へと続く。その時沖縄と本土は一つとなっていた。

地井武男さんの映画初主演作品でもあった。演技がしっかりしていて、あの人なつっこい笑顔がやるぞーという元気を与えてくれる。朋子の佐々木愛さんは細い体でありながら何回も打ちのめされながらも立ち上がる芯の強さをみせる。三郎と朋子は寄りかかり過ぎず上手い具合に呼応し爽やかなコンビで前に前に進む。当時の沖縄の現状がよく映し出され、では現在はという問いかけをも観る者に考えさせる。

もう一つの作品はテレビドラマで『ニセ医者と呼ばれて~沖縄・最後の医介輔~』(2010年・脚本・遊川和彦、演出・国本雅広)である。

<医介輔>とは初めて聴く言葉である。沖縄は1945年、アメリカ軍に統治され日本から引き離され、深刻な医師不足であった。アメリカ国民政府は医師免許を持たない医療従事経験者(戦争中の衛生兵等)を離島や無医村地区に<医介輔>として医者の代わりに派遣したのである。

1951年に実施された試験に合格した126名の医介輔の方々は地域医療をささえることに一生を捧げられたのである。但し医者ではないので医療機器や薬などは限定され、何かあれば町の病院に回すということになる。それは医者でもそうしたことはあるが、<医介輔>ということで、患者さんの自分を見る眼を意識し、心のどこかに負い目があったようである。

実際に診療にあたっていた医介輔・宮里善昌さんをモデルにしてつくられたヒューマンドラマで、宮里さんは、60年間、87歳で引退するまで勤め上げられ沖縄最後の医介輔の道をまっとうされた方である。

宮前良明(堺雅人)はいつも患者に笑顔で接している。それは患者さんにとっては安心感を与えるものである。だが同時にそれは宮前医介輔にとっては、ニセ医者として思われているように感じている彼の心の闇を隠す笑顔でもあった。

診療所は小さく、時間があれば自転車で布袋にわずかな医療器具などをつめ往診にまわり村の人々の心の支えであった。農地をアメリカ軍に接収された患者もいて診療代を催促できず貧乏で、それを支えているのが妻のハナ(寺島しのぶ)であった。

娘が学校で作文にお父さんの職業を医者と書いて皆にニセ医者といわれ傷つく。ハナはニセ医者ならどうして診療所に毎日あんなに沢山の人がくるのかと説明する。心の内を明かさない夫をハナはじっと見つめているだけであった。

そんな時一人の妊婦・仲間由美(尾野真千子)が診療所にきて宮前医介輔は自分の心の闇と由美の闇を共有することになる。それはとてつもない闇を引き受けることになるが、いつかは白日の下に姿を現すことであった。悲しい結末となり、宮前医介輔はこの仕事を辞めると決心する。それをくつがえさせたのもハナであった。

町の病院に患者に付き添っていっても小さくなっている宮前医介輔と、村人に信頼されている宮前医介輔のいつも笑顔であるのが何ともつらくなるが、心から笑える日もおとずれるのである。そんな医介輔の複雑な心境を堺雅人さん流の笑顔の演技が效を奏している。本当の笑顔を引き出させるまでじっと見ていた寺島しのぶさんのハナさんの胆力も相当である。

沖縄の歴史の中で様々な事情がありその中で生き抜いてきた人々が映画やドラマなどフィクションの世界でも語られることは知らなかった者にとってはありがたいことである。美しいところだけに隠され続ける闇はその美しさと対等に語りつがれることが大切である。

追記

ドキュメンタリー映画『米軍が最も恐れた男 ~その名はカメジロー~』(2017年・佐古忠彦監督)。沖縄のジャーナリストで政治家であった瀬長亀次郎さんの生き方をえがいている。戦後のアメリカ統治時代からのことがよくわかる。アメリカは分析している。弾圧することによって瀬長亀次郎を英雄にしてしまったこと。

日本映画専門チャンネルにてドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』(2018年・三上智恵、大矢英代監督)。陸軍中野学校出身者が指揮した沖縄戦での少年兵の事、住民を守るのではなく秘密保持のために犠牲にしていく過程などを沖縄県民は話す。この時代まで知られなかった事実を知ることができる。話す方々の長い沈黙の時間と、死して語ることのできない魂が重なり合ったのである。

暑い夏に放送される番組は一から考えさせてくれます。

https://www.nihon-eiga.com/program/detail/nh10009159_0001.html