内田けんじ監督作品

映画『鍵泥棒のメソッド』(2012年)が気に入りました。人と人が入れ替わるのだが人格がいれかわるのではない。偶然に遭遇した出来事で一人の人間が記憶をなくした人に成りすますことで入れ替わるのである。

入れ替わってもその人の性格や生活に対する考え方は変わらないわけで、そこが俳優さんの腕のみせどころであり、観るほうのたのしみでもある。桜井武史(堺雅人)は銭湯に行く。そこで一人の客がせっけんで足をすべらせて思いっきり転倒して気を失ってしまう。そのどさくさに紛れて桜井はその客のロッカーのカギを自分のとすりかえてしまう。

病院に運ばれた客は、持ち物から桜井武史となる。彼は記憶喪失となってしまうのです。記憶喪失の男は山崎信一郎といい裏の生き方があり、コンドウと呼ばれるプロの殺し屋(香川照之)であった。

山崎は自分が桜井ということらしいので、桜井としての自分について記憶をよみがえらせられるように材料をさがしていく。山崎は非常に几帳面なところがあり一つ一つメモしていく。桜井はどうやら役者をめざしていたらしい。

山崎になりすました桜井は、いい加減な性格で、山崎が記憶がないのをいいことに山崎の様子を見にいったりして二人は一応顔見知りとなる。

もう一人自分の計画通りに生きる女性・長嶋香苗(広末涼子)が先に登場している。結婚相手もいないのに、この日が結婚式ときめる。そんな女性が絡むのであるから、可笑しいことにならないわけがない。

3人が上手く難局を乗りきる展開がテンポよく違和感なく運んでくれる。

映画『アフタースクール』(2008年)こちらはかなりややこしいのであらすじは省略する。ラストそうだったのかと種明かしとなる。ただこの作品はかなり先に観ていたのであるが内容が思い出せず観なおしたが、かなり進むまで思い出せなかった。堺雅人さん、大泉洋さん、佐々木蔵之介さん、常盤貴子さんなどがでるので俳優さんで決めた映画であった。裏をかかれる意外性が気に入ったがそこで止まっていた。

映画『鍵泥棒のメソッド』で、これは内田けんじ監督のほかの作品を観なくてはの流れとなった。

映画『運命じゃない人』(2005年)。レストランで一人の女性が座っていて、突然後ろ向きで前に座っていた男性が振り向いて一緒に食事しませんかと声をかける。そういうことありなのかなと思っていたら女性は了解する。えっー!ありえるの。そこから素人的な変な映画とおもったがこれがそれぞれの登場人物にとって必然的な結びつきとなっていた。

一つの流れがあり、その流れに幾人かの人々が乗っていた過程を順番にみせてくれる。この人はこういう状況からこの流れに乗ったのかということがわかるようになっている。そこが予想外の展開になっていく。全然関係なかった者同士が思惑に関係なくつながっていくプロセスが笑える。これはまずいことになっていくなと思わせられて打っちゃりをかけられる。笑いで見事に投げられます。

これと似た方法に、三谷幸喜さんの脚本であるテレビドラマ『オリエンタル急行殺人事件』(2015年)がある。この殺人事件は複数、それもかなり多くの人々が心を合わせ復讐を成功させる作品である。それを二部仕立てにして、二部目は、復讐殺人に参加する人々がどうやって心を合わせておう計画して成功させたのかを、ドラマ仕立てにしたのである。名探偵勝呂の謎解きだけではなく、そこまでの一人一人のプロセスを映像化したのである。これもなかなかのアイデアであった。ややこしさをすっきりさせてもらえた。蛇足とは思わせなかったのである。

一方映画『運命じゃない人』は友人関係はあるが心あわせていないのである。別々の生き方である。それも相手はこちらが考えているような人でなかったり、見抜いていたのにもっと上手であったりしていて、そのずれがまた見どころでさらに観る側の想像を裏切ってくれるのである。これが内田流の手なのである。その手が面白いのです。発想が新鮮。

内田けんじ監督の初の自主映画『WEEKEND BLUES ウィークエンド・ブルース 』(2001年)は荒削りであるが、これが内田ワールドの原点なのだと射止めた感じである。

男性が友人のアパートを友人の恋人と出て自動販売機で水を購入しているときから記憶を失ってしまう。気がつくと男性は路上で目を醒ます。どうしてここいるのかわからない。自分の住んでいる場所よりもかなり遠くに来てしまっている。

彼も自分の記憶を探し始める。この映画には内田けんじ監督も出演しています。

特典映像で内田けんじ監督がインタビューに答えておられる。この話を思いついたきっかけは、18歳の時バイト先の先輩がヤクザからもらった薬を飲んで気が付いたら2日たっていたという話から怖いとおもったのがきっかけだと。そのほか、友人たちとの撮影の様子も話されている。

これらの4作品は、脚本も内田けんじ監督です。楽しい時間でした。

追記: 『鍵泥棒のメソッド』をリメイクしたのが韓国映画『『LUCK-KEY/ラッキー』(2017年・イ・ゲビョク監督)。記憶喪失の男性が映画の撮影現場にいき、次第にアクションの演技がみとめられる。撮影になれないところは、映画『エキストロ』(2020年・村橋直樹監督)を思い出し笑えます。撮影現場とアクションを生かしたコメディとなっていて、それに対し『鍵泥棒のメソッド』のほうは寄せ木細工の感じでしょうか。

追記2: 『運命じゃない人』も韓国映画でリメイクされていました。『カップルズ  恋のから騒ぎ』(2011年・チョン・ヨンギ監督)。『運命じゃない人』を先に観ているとその手法が新鮮味に欠けてしまう。カップルを増やすことによってつながりがもっと多かったというサービス精神とテンポの良さにはリメイクへの挑戦は感じられます。

追記3: テレビアニメ『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 ~史上最悪の2日間~』(2014年12月・監督・山本泰一郎)の脚本が内田けんじさんということでみました。映画『鍵泥棒のメソッド』の登場人物や同じ場面もでてきて、これは映画を観てからのほうが楽しめるとおもいます。名探偵コナンとの出会いには絶好の機会だったかもしれません。アイちゃんの活躍が見逃せません。そういえば海老蔵さんが参加するとかしたとかいう情報もかつてありました。その時はコナン君に興味ありませんでしたのでスルーでした。

追記4: 『名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件』(2016年1月)の1年後にスペシャルとして放送されたのが『名探偵コナン コナンと海老蔵 歌舞伎十ハ番ミステリー』です。新橋演舞場での初春歌舞伎公演の演目・『七つ面』にちなんだミステリーになっています。公演で使われる高価な面が盗まれ殺人が起こります。コナン君は歌舞伎座に近い場所の地下に閉じ込められますが海老蔵さんも大活躍し無事事件は解決します。

七つ面』に関しては次のサイトが参考になると思います。

https://hikaku-lifestyle.com/geijutsu/nanatumen/