歌舞伎座七月『あんまと泥棒』『蜘蛛の絲宿直噺 』

七月の歌舞伎座第一部は二作品とも再演です。『あんまと泥棒』は2018年に上演され、あんまの中車さんと泥棒の松緑さんのコンビです。

前回よりも肩の力が抜けられているであろうと予想しましたがその通りでした。あんまの秀の一の声からして自然で、前回は姿が見えないだけに調子も強調していたように思えましたが、その力みがなく、登場しても声だけで充分聞かせるセリフの流れでした。そのためか、外の暑さから涼しさにホッとしてセリフを子守歌にコックリされる方もいました。

ゆっくりと秀の市をという人物を理解していきます。犬を追い払ってから、いや足を噛まれて怒鳴り込めば幾らかにはなると考え直すあたりは、全てお金に換算して生きている人なのです。

そのことが、泥棒とのやり取りでもどんどん出現します。泥棒の権太郎はおどすしか能のない男です。その差が秀の市と権太郎のやり取りでわかってきます。二人のやりとりから、コックリの方もお目覚めですっきりとされたのか観劇に参加され笑っておられました。

買い置きの焼酎も泥棒に呑まれてはいません。しっかり飲み終わっています。さてっとどこから攻めようか。ところで泥棒さん、あなたの稼ぎはどのくらいですかときます。そして、借金の取り立てだって頭を使うんですよときます。さらに10両盗めば首が飛ぶんですよ、泥棒なんて割に合わないではないですか。

もと八百屋の泥棒は、島送りになって帰ってみると女房は死んでいて、秀の市が女房のお墓のためにチビチビお金をためていると聞くとどっと情にはまってしまう男なのです。秀の市の話術以上に権太郎は泥棒に向いていない男なのです。

泥棒に向いていない男と、金貸しに向いている男の話しでもあります。お勤めの太鼓の音にも情をかきたてられる泥棒さんだったのです。

中車さんのこざかしいあんまに、見栄えは立派な身体でも泥棒に向かない松緑さんがコロリと騙され本性をさらけ出され、本性をさらけ出すお芝居でした。

蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)』は<再びのご熱望にお応えして>とつけられています。

昨年、2020年11月に4部制で一演目づつ公演したときの第一部でしたので、はや再びということになります。

今回は配役も少し変わり、源頼光の四天王も昨年は2人だけの登場でしたが、今回は4人揃い、さらに平井保昌の押し戻しが挿入されるという豪華さです。

そして、猿之助さんの役どころの衣裳も前回と変わるところがあります。太鼓持彦平の羽織が変わり涼やかになっています。傾城薄雲が実は女郎蜘蛛の精であったということで、この衣装とカツラと顔のつくりも変えて今回は6役として一つ増やしています。

女郎蜘蛛の精の墨の濃淡のような隈取りと平井保昌の茶の隈取りの違いが映えていました。ラストが豪華な絵で、白の蜘蛛の糸とバックの滝のような白が外気の暑さを忘れさせる華の色どりです。

松緑さんの平井保昌が押し戻しの豪快なのに、セリフは出演者の名前づくしや内輪話というご愛嬌も。源頼光の梅玉さんに傾城薄雲がたおやかな色気でせまります。

太鼓持彦平の踊りも軽快さにゆったり感も加わり、番新八重里は前回よりも古風さを感じました。前回は早変わりの軽快であっというまに終わりましたが、今回は早変わりはもちろんですが、しなやかさと豪快さと涼しげさを堪能しました。

坂田金時(坂東亀蔵)、碓井貞光(中村福之助)、ト部季武(弘太郎)、金時女房八重菊(笑三郎)、貞光女房桐の谷(笑也)、渡辺綱(中車)