加藤健一事務所 『If I Were You~こっちの身にもなってよ!~』

『あとにさきだつうたかたの』『請願~核なき世界』 二回続けてシリアスではあるが、時には立ち止まって考える必要のある問題をテーマとした作品を上演してきたが、今回はコメディである。しかし前半は、イギリスのある家庭の、いや何処にでもあるような、家庭上の問題が、それぞれ我慢の限度を越えようとしている状態での、突然の出来事。

劇作家のアラン・エイクボーンはこの壊れそうな家族に、夫婦が入れ替わるという手法を試みた。身体が変わっただけで、その身体の動きはそのままである。それは、役者への挑戦状でもある。男女が入れ替わる。夫と妻の役割が入れ替わる。妻は夫の愛人と夫として電話で話す。妻の好みなど知らない夫が妻の洋服を着る。ところが、これが妻のほうが上手くやってしまうのである。

舞台装置は一つである。夫・マルと妻・ジルそして息子・サムの住む家で、ダイニングルーム、リビングルーム、ベッドルームが設定されている。この舞台が、マルの職場である、家具店のショールームとしても使われる。上手い発想である。夫妻にはもう一人娘・クリッシーがいて、その夫・ディーンは、マルと同じ職場である。マルと ディーンが同じ職場で、家の様子と職場の様子が観客に見せれるわけで、マルとなったジルが職場でどのような行動をとっているかもわかるわけである。このことは、マルとジルが入れ替わってどう行動するかの役者の大変なところでもある。

妻のマルは、意外や職場を夫のマルより上手くまとめてしまう。夫のジルは悪戦苦闘するが、娘と婿の問題を上手く解決の方向に持っていき、自分の理解していなかった息子のこともわかりかけるのである。娘はマルのお気に入りで、利発である。夫婦が入れ替わる前から母に仕事に出るように勧めていた。それが、入れ替わることによってジルは自信を取り戻す。娘は利発なだけに自分たち夫婦の問題は隠していた。ところが、入れ替わることによって、その問題も表面化し解決へと向かうのである。

結果的にこうまとめあげれるが、それは、ドタバタしているようで、それぞれの人物像、人間性はきちんと演じられているからである。前半は丁寧に問題点を時間をかけて見せ、突然の事件と困惑も夫婦二人の力で乗り越えた達成感へと持っていく。

一つ問題は、マルは自分がいなければと思っているタイプである。それを、妻のマルがことも無く自分の仕事をこなしてしまうのであるから、プライドが傷つくのではと思う。そこを、息子に対する婿の態度に怒り、それがお気に入りの娘に助力するという形で、マルは達成感に浸れるのである。ここのところを役者さん達の人物像がきちんとしていてくれたからこその成果である。アルと ディーンに対するサム。そうではなく一人、一人の人間性があるのである。

入れ替わることによって見えてきた、人間の長所と短所、見たくない部分だけが増幅していく人間関係。 <こっちの身にもなってよ!>

作・アラン・エイクボーン/訳小田島恒志 ・小田島則子/演出・高瀬久男/出演・加藤健一(アル)、西山水木(ジル)、加藤忍( クリッシー)、石橋徹郎( ディーン)、松村泰一郎(サム)