映像無料配信『新版オグリ』映画『CATS』映画『ライオン・キング』

3月京都南座で公演中止になったスパー歌舞伎Ⅱ『新版オグリ』の無料配信(松竹チャンネル・YouTube)が始まった。新橋演舞場で2ケ月、2月博多座、3月南座で中止となり南座での無観客舞台の映像配信となった。  気ままに新版『オグリ』

博多座は新橋演舞場から少し変わり、南座はさらに変わったと言うことで観劇したいと思っていたので歓喜である。天馬の宙乗りが、南座は一箇所だけということで、オグリ一人かなと想像していたが、鬼頭長官が手綱を引き受けオグリが後ろに乗る形となった。天馬なので、制御は鬼にまかせたのであろうか。二人乗りなので天馬が大きく、南座でのインパクトの強さを考えたのかもしれない。確かに新橋演舞場では、小さくて可愛らしくうつった。

一幕での照手姫の輿入れの時、照手姫の登場がなく「待てー!」の一声でおわった。その後、横山家の家来の登場で、照手姫がオグリ一門にさらわれたことがわかってくるのである。ここは、えっ!照手姫出ないと思ったが二回目観ると入り込めた。新橋版を観ていない人はスムーズに理解できたであろう。そしてオグリの登場となり、オグリを印象づける。

テーマ曲が出てくるとやはり心が踊ります。そうそうそう!パソコンでイヤホーンで観ているので、台詞がよく耳に入り込み、その強弱、抑揚などがよくわかる。パソコンで映画など観るのは嫌いなのであるが、歌舞伎の台詞を聴かせるような舞台芸術には有効であった。若手も感情だけの発声から工夫して身についてきたなと思わせてくれる。反対にまだ感情に頼っているなと思わせるところもある。新しい一郎もおだやかにすんなり仲間になっていた。

もろこしが浦の場面は噂話ににぎやかな老女たちが大幅にリストラされて、志村けんさんのひとみばあさんらしきホヤ婆だけが残こった。志村さんの芸がつながっていることを知らしめることになり、舞台の映像のなかで志村さんを偲ぶことになってしまった。

地獄の鬼兵士もさらなる活躍をしていて、花道での立ち回りでの細かい動きも観ることができて満足である。さらにバックに鏡を使った回り舞台では、半円に並んだ鬼兵士が一つの円に見えるという演出は上手く使ったとうならせてくれる。映したカメラの位置にもよかった。

舞台は生きものである。昨年の秋に耳にした台詞の意味が今もっと強く響いてくる。自分のためだけに生きる、それでいいのか。ただオグリが地獄で自我を爆発させなければ閻魔もオグリを選んで旅出たせなかったわけである。オグリと閻魔と遊行上人と仏たちの巡り合わせであり、さらに照手姫にかけたオグリの言葉が照手姫からオグリにもどるということにもなっている。

自分の体験から熊野を目指すのがいいと指し示してくれた人。多くの生き方がありそれを通過した考え方がある。そこに耳を傾けてくれた人がオグリにとって良い選択であろうと道を開いてくれ、それを次の人に手渡してくれる。それを静かに聴いていることしかできないオグリ。それがオグリにとって一番必要なことであった。

新版オグリ』の前に1998年版の映画『CATS キャッツ』を観た。『CATS』は強いメッセジー性があるわけではない。『CATS』からは、猫たちのメーキャップと動きが大きくはっきりと観れるのでそこが興味深く、楽しんで観た。「メモリー」の歌はやはり優しくズシンとくる。スーパー歌舞伎の場合、古典歌舞伎の衣裳の継続性とは違ってドンドン変化するという愉しみもある。今回は猿之助さんと隼人さんのダブルキャストなので顔のメイクと衣裳の違いなども楽しむことができる。

もう一つ映画『ライオン・キング』(2019年)も観ていた。これは映画館で観たかった。アニメなのであるが実写さながらの映像である。2019年版に出演している声優さんや歌手のかたは子供時代にアニメ映画『ライオン・キング』(1994年)で大好きになっているかたもいた。1994年版は観ていないが今回の映画は実際の動物が演じているようで楽しかった。凄い技術的進歩である。

新版オグリ』は今回映像を使った。この映像が人の生きる世界の広さ雄大さを感じさせてくれた。『ライオン・キング』(2019年)の映像と重なってしまった。YouTubeの無料配信でミュージカル派の人や海外の人々が眼を止めてくれるのを期待したい。19日までですので要注意!この後、歌舞伎座3月歌舞伎公演無観客映像が配信される。(17日16時~26日)古典歌舞伎である。さらに国立劇場でも『義経千本桜』の無料映像の配信をしている。(30日15時まで)歌舞伎の入口を利用してみてはいかがであろうか。