映画『マスカレード・ホテル』・小説『マスカレード・ナイト』

映画『マスカレード・ホテル』(2019年)は、ホテル・コルテシア東京で連続殺人事件の次の殺人が起ると予想した警察が潜入捜査に入る。刑事とホテルマンのプロとしての意識の違い、ホテルに来るお客の装いと素顔の違い、殺人という複雑さが交差して物語が展開される。原作は東野圭吾さん。鈴木雅之監督は『本能寺ホテル』も監督されていた。

ミステリーであるから殺人事件を追う形になるが、ホテルという設定によって生じる二つの視点が面白い。刑事が人の素顔を追うのに対し、ホテルマンはお客様の装う仮面の方を大切にする。ホテルという場所でお客は違う自分を装ったり、それを楽しむために訪れる人も多いのである。ホテルマンはその気持ちを尊重して見なくてもよい素顔が見えても気がつかない事として接するのである。

刑事は、自分が殺人犯である素顔を隠しているのであるからその装いをはがして素顔を一早く見抜くのが仕事である。刑事とホテルマンのその違いが、ホテル業務を介して展開されるのが面白さを増してくれる。

ホテルはお客様数が多いので、その中から怪しいと思われる人物をピックアップし、白か黒かのグレーゾーン段階で追跡していく。それを主に担当するのが、フロントクラークの山岸尚美とフロントスッタフとして潜入する刑事の新田浩介であるが役目は正反対である。新田浩介は帰国子女で英語ができるために選ばれたのである。

フロントはチェクインの時、名前や誰と宿泊するのかなどチェックでき、これまでの殺人事件関係の人物や防犯映像に映った人物がいないか観察できる。さらにチェックインの様子から不審さを察知できるのである。そのため新田刑事の眼光は鋭くなるが、そうしたホテルマンとしては相応しくない態度を山岸尚美から注意される。ふたりはお互いに、それぞれの仕事の大変さを思い知らされることとなる。

殺人事件に関しては明かさないことにするが、もう一人、外関係を足で捜査し新田に知らせる刑事がいる。この能勢刑事の役割は新田にとっても事件解決のためにも非常に重要である。能勢刑事はあるところで殺人と関係しているのではという人物のポスターを発見する。その場面はもう少し時間が欲しかった。映画『砂の器』で刑事が映画館で一枚の写真に注目する場面がある。その映画館の支配人が渥美清さんでかなりインパクトがつよかったのでちょっと比較してしまった。映画を撮るほうはそのことも計算済みだったのかもしれないが。

多くの俳優さんが出演していてあえてそれを探らずに観たのであるが、エンドロールで明石家さんまさんの名前があった。出番は見過ごしていました。これから観られるなら注意されたほうが楽しみがふえるかも。

映画の後でミステリー小説『マスカレード・ナイト』を読む。ホテル・コルテシア東京のカウントダウンパーティーに殺人犯が現れるという密告があったのである。そうなれば映画『THE 有頂天ホテル』に殺人事件が加わり、ホテル・コルテシア東京のカウントダウンは仮装パーティーなのでもっと大変なことになるわけである。そもそも「マスカレード」とは「仮面舞踏会」「仮装大会」などを意味するのだそうである。ホテルのお客様はある面、皆さま仮面をしているということで、『マスカレード・ナイト』となれば、少なくとも二重の仮面をしているという複雑さが加わる。

マスカレード・ホテル』のその後なので、山岸尚美はフロントクラークからコンシェルジュになっている。「コンシェルジュ」は映画『グランド・ブタペスト・ホテル』ではじめて知ったので、来ました!と嬉しかった。今回は、この「コンシェルジュ」にお客様が相談されたり依頼されることが盛りだくさんなのである。それをどう解決するのかも楽しみの一つである。映画『マスカレード・ホテル』の山岸尚美役の長澤まさみさんの様子が浮かぶ。

小説『マスカレード・ナイト』からの新田刑事は色白のように思え、帰国子女のイメージが強い。映画『マスカレード・ホテル』の新田刑事役は木村拓哉さんで、日焼けしていて、刑事・デカであるという雰囲気をリアルに出そうとしているようである。刑事とホテルマンに変装しての違いを映像で伝える変化をかなり意識されているのであろう。あっ、刑事も装うのである。キーワードがなかなか手が込んでいる。

もう一人意識されてるように映るのが老女役の俳優さんで、この老女も新田刑事は不審に思うのであるが、こちらも舞台女優さんが演技をしているような違和感を感じて気になった。そんなわけで、色々不審に思ったり素顔が見えて違っていたりと犯人捜しは続くのである。

小説『マスカレード・ナイト』では、コンシェルジュの山岸尚美がお客様に相談され様々なことを紹介する。カウントダウン・パーティのあと年始のプランをホテルは計画していてその中に、「日本橋七福神巡りツアー」というのがあって紹介していた。映画『『麒麟の翼』を思い出してしまった。

その他、日本橋室町のシネコンでの映画や日本橋三越本店の本館七階のイベントなども紹介している。ホテル・コルテシア東京にはモデルがあってロイヤルパークホテルなのだそうである。

そうそう、小説『マスカレード・ナイト』で新田刑事とフロントで組むのは、フロントオフィイス・アシスタント・マネージャーの氏原である。氏原はがちがちのホテルマンで、刑事がいるなんて知られたらどうなるのかと憤慨し、フロント業務などもちろん任せられないとして新田は手を出すことができないのである。そんな中新田たちは犯人を捕まえることができるのであろうか。

小説のほうは読む気がなかったのであるが、こうなれば小説『マスカレード・イブ』も読むことにした。これからであるが。新田浩介と山岸尚美が出会う前のそれぞれのことがわかるらしい。

よろしければ映画『本能寺ホテル』はこちらで。→ 織田信長関連映画(1)

追記:公演中止となった歌舞伎関係の映像無料配信のお知らせ

(1)3月国立小劇場での『義経千本桜』の舞台映像。(詳しくは 国立劇場 で検索)(2)明治座『三月花形歌舞伎』の出演者による座談会映像。南座3月スーパー歌舞伎Ⅱ『新版オグリ』の舞台映像。歌舞伎座『三月大歌舞伎』の昼夜演目の舞台映像。(詳しくは 歌舞伎美人 で検索)

明治座の出演者座談会見ました。明治座での次の機会には見逃さないぞと思わせてくれる内容です。その時はロイヤルパークホテルでフレッシュオレンジジュースも飲まなくては。