映像無料配信・三月歌舞伎座

三月歌舞伎座の無観客舞台の映像も無料配信されいる。大幹部の役者さんたちとその後を一生懸命追いかけられている次の世代の役者さんたちの出演なので、観ていて安心である。

雛祭り』。そういえば雛祭りの時期には、女の子いない友人たちにお雛様の絵葉書を送っていたが今年はすっかり忘れていた。映像でおそい雛祭りである。

男雛、女雛も美しく品よく鎮座され優雅な立ち振る舞いである。左大臣、右大臣もご機嫌に飲み踊り、若手の多い五人囃子も軽妙な踊りを披露してくれる。晴やかな気分にさせてくれる演目である。

新薄雪物語』は、役者さんが揃わないと公演できない作品である。歌舞伎には子供が親の主従関係から犠牲になるという演目があるが、この作品は、親が子供を守るために命をかけるという物語である。若さゆえに周囲の状況など目に入らず恋愛一直線の息子と娘を、それぞれの親がお互いに子供たちの窮地をどうすり抜けさせ命を守ってやれるのかという親心の葛藤が描かれる。

若い二人の恋心の場面、それがとんでもない罪をかぶせられ、詮議をされることになり、親子の関係を入れ替えての預かりとなる。それぞれ自分たちで詮議し罪をあきらかにせよということになる。姫を預かった夫婦は、姫を大切に預かり逃がしてやるのである。ではもう一方の親はどうするのか。ここからは父親同士の心の探り合いとなる。父親同士が繰り広げる駆け引きの見どころでもある。そしてどう見せてくれるのか期待の高まるところである。

衣裳のさばき方から、身体表現による立ち姿、歩き方、上半身の動かし方、首の回し方、傾け方、手の位置など、そうくるのですかとじっくり見させてもらう。物語と同時にすんなりと役者さんの動きや台詞を堪能させてもらった。

梶原平三誉石切』は、これまた観ていて面白かった。名刀が主人公のようなところがあり、刀を通じての物語である。さてこの刀は名刀なのかどうか。梶原平三は刀の鑑定人としては一流である。ところがその鑑定を認めない兄弟がいた。

梶原の鑑定の際の刀の扱い方など興味深い。そして気が付いた。鑑定し終わるとじっとしていた左右の家来が動くのである。彼らも息をつめていたということである。そしてこの左右の家来のひざに置く手の形が違うのである。兄弟側は握っている。梶原側は開いている。これって悪役側と善役側では違うのであろうか。今まで気にかけなかった。

罪人の酒名づくしの台詞、梶原の名刀を証明する驚くべき行動などバラエティーに富む。そして、義太夫節が耳に入りやすい作品でもあり登場人物の動きが音楽に乗るのに気が付くであろう。

赤っ面の悪役も出てくる。『新薄雪物語』に出てくる奴や違うタイプの悪役などもパターン化している。役者さんはそれぞれのパターン化した動きを習得している。お姫さまと、普通の娘のちがいなども今回かなり詳細に鑑賞できる。身についた役者さんたちで観れたのは幸いである。

新薄雪物語』や最後の『沼津』などは、悲劇にともなう親子の情愛を主題にしていて少し重い作品となっているので、『高坏』などの楽しい踊りが入っているのは歌舞伎の演目の並べ方としては観客の心持ちを上手くコントロールしてくれる。特に『高坏』は下駄タップが入るので軽快で気分を軽やかにしてくれる。『雛祭り』では雅なあでやかさをとそれぞれの愉しみ方ができる演目で歌舞伎の変化に富んだ趣向を感じとれる。

沼津』は、客席を演者が道中として使い、観客を喜ばせる場面であるが、無観客となればそうもいかない。キャメラがお地蔵様に見立てられて拝まれていたが。まさかこの後悲劇につながっていくとは思えない雰囲気で始まる。人の縁というものはこのようなめぐり合わせをするのであろうか。

そのめぐり合わせに父と息子のそれぞれの立場の違いの説得がある。情は十分すぎるほどある。しかしそれぞれが持ちこたえなければならない位置づけがある。お互いに親子であると知りながら口にださず、その情に頼らないのである。父はその息子の義に対して義で臨む。雲助であるにもかかわらずその義を心中に秘めていたとは。庶民の中に武士に劣らぬ腹構えがあった。

新薄雪物語』でも悪に対して、笑ってやろうという心意気がある。これは親心が庶民とは変わらないというところまで視線を下げる歌舞伎の観客を意識していているように思える。刀を持たぬ者たちの、権力に対して笑ってやるという何とも手の込んだ逆説とも思えるのである。命をかけて。

全てを観て、自分の好きな演目を見つけるのもいいでしょう。お気に入りの役者さん目当てでも。またそれを見つけ出すのも。歌舞伎座が新しくなった時、テレビなどでみて、歌舞伎には興味ないけれど新しい歌舞伎座にいきたいという人がいて驚いたことがあるが入り方は自由である。

追記1: 行定勲監督によるショートムービー『きょうのできごと a day in the home』(YouTube)面白かった。観てない映画がドンドン出てきて観なくてはと思わせられた。最後に観た映画が一本出てきた。う~ん、感想ちがう。うむ、好きなタイプということ?いや~こういう撮り方もありやな。私を映画館に連れてって!

追記2: 無料配信を紹介した友人の一人は『新版オグリ』は長すぎて女方さんの美しさのみに目がいったようなので、『雛祭り』と『高坏』を再度プッシュ。「飾っているはずの人形が、酔って踊るのは、不思議な現実感がありました。」「お酒の飲み方が、スッゴク美味しそうで、私も~あのお酒を飲んでみたい(笑)とおもいましたよ。幸四郎さんの演技が、素晴らしいなぁ~と感心しました。」ではお次は、幸四郎さんが出ている『新薄雪物語』と『沼津』をプッシュ!