伊藤若冲(2)

若冲』(澤田瞳子著)。小説を読みつつ若冲さんの絵を眺め、旅の思い出などもフル回転しつつ刺激的な新たな旅をさせてもらった。チラッ、チラッとテレビドラマも浮かぶ。『若冲』も史実では書かれていないことを大胆に話の中心に持ってきていて、どうしてこの絵が描かれたのかというところに物語性があって若冲さんの絵の強烈さからくる発想であった。そのことによってより若冲さんの絵に視線がいく。

若冲』ではその絵に描かれている鳥、魚、動物の視線にも注目している。仲の好い鴛鴦(おしどり)が視線を合わせることがない。それも、雌のほうは水に上半身を沈めているのである。雄の方は陸で雌を無視したようにはるか先に視線がいっている。小説は若冲さんが妻をめとったことがあるという設定となっているのである。非常に大胆である。そして雄鳥の視線にも関係してくるのである。

次々と若冲さんの一つ一つの作画の動機が明らかにされていく。推理小説の動機は何かの探求とも類似していてそれが若冲さんの40歳から始まって、若冲さんが亡くなって四十九日の法要まで書かれているのである。そこまで若冲さんの絵は関係者の心の中で渦を巻き続けるのである。語り手は母の異なる妹である。ぐんぐん引っ張ってくれる。

若冲さんの家族は、法名しかわかっていないため異母妹なのかどうかはわからない。ただこの妹さんは後家となって子供一人と共に石峰寺で晩年の若冲さんと暮らしていたようである。若冲さんは、自分の生まれた錦高倉市場から離れた、深草の石峰寺に移ってそこで亡くなっている。

若冲さんは、相国寺の大典さんとの交流から黄檗宗(おうばくしゅう)の大本山萬福寺の僧とも交流があり、萬福寺の住持から道号を与えられている。在家ということであろうか。そして石峰寺に五百羅漢の石仏を造像するのである。相国寺に生前墓を建てているが明和の大火で錦町内と相国寺との永代供養の契約を反故にしている。そのため、相国寺と石峰寺の両方にお墓がある。

京都を旅した時、石峰寺で若冲さんの五百羅漢に出会った。すぐそばで眺められたが肩透かしをうけたような感覚であった。あまりにも近くに無防備にそこにあり、石像は素朴な表情なのである。それは伏見人形の影響のようにおもわれる。萬福寺は満腹の様子の布袋像と僧たちが食事をする建物の前に掲げられていた大きな木魚が記憶に残っている。黄檗宗のお寺は中国的な雰囲気のお寺である。

若冲』には、円山応挙、池大雅そして与謝野蕪村、谷文晁(たにぶんちょう)も登場し、さらに応挙の息子・応瑞(おうずい)も登場する。テレビドラマ『ライジング若冲 天才 かく覚醒せり』で、大典との淀川下りの時に大典さんが『上方萬番付(かみがたよろづばんづけ)』に載っている絵師の番づけを紹介する。実際には『平安人物志』と思うが応挙、若冲、大雅の順番はもっとあとに発表された番づけで、若冲さんが60歳の時のものである。4番に蕪村さんの名前がある。応挙、若冲、大雅、蕪村の順番は若冲さんが67歳の時も同じであった。

応挙さんが一番というのは、犬の絵を観ればわかる。応挙さんの描く犬は、観る人が可愛いと思う犬なのである。人が見て可愛いと思わせる犬を描いている。ところが、若冲さんの描く犬は、仲よくじゃれ合っているのだが視線が微妙にずれていて、何か考えているのと聴きたくなるのである。一匹一匹が自己主張しているようなのである。題名は「百犬図」で60匹ほどいるが、主人公がいないというより、一匹一匹全部が主人公なのである。

観る者にシリアスにも見え、見方によってはユーモアとも受け取れるのである。一つの観方で満足するような絵ではないのである。

小説『若冲』もテレビドラマ『ライジング若冲 天才 かく覚醒せり』もそんな絵から派生し、動機づけを模索したくなる力がある絵ということである。

小説『等伯』(安部龍太郎著)もあると知った。これまた惹きつけられる。

テレビドラマ『ライジング若冲 天才 かく覚醒せり』 16日(土)BSプレミアム 夜9時~10時30分「完全版」 放送あり

追記: テレビドラマ『ライジング若冲 天才 かく覚醒せり』の放送を紹介した友人たちの評判がよかった。七之助さんを久しぶりでみた歌舞伎ファンは上手くなったと絶賛。絵を描く姿がきたえられた女形の美しさだと。

追記2: 若冲大好きなひとは。久々にドラマたのしんだ。脚色してあるのだろうが良い意味で面白かった。キャストもあっていた。時間内によく収まってもっと見たかったがあれでちょうどよいのかも。コロナでなければランチしながら若冲の事話したい。

追記3: ある人は。なかなか深い。芸術家ならではの心の純な処が(若冲と僧)いっそう前に進ませる物があり~同じ志の者が自然に集まり、より良い絵を作りだしていく。凄いなぁ~日本人にも、こんな絵を描く人がいたんだなぁ~と感心して見ていました。色彩が鮮やかで、どこが創作で、どこが史実かは、私にはわかりませんですが、そのまま心にはまりました。

追記4: 身体的表現者の方々の体調不良のお知らせを目にします。この時期ですので経験以上の精神的負担が大きい事でしょう。過剰なプロ意識は避けて充分に休養されることをお願いします。