映画『告訴せず』『黒い画集 あるサラリーマンの証言』

映画配信はすぐ観れて便利であるが、DVDは特典映像が含まれていたりするので意外な情報を貰えることがあり、今のところDVD派である。

映画『告訴せず』は特典映像に堀川弘通監督のインタビューがあり、気さくに話される内容が大変参考になった。しゃべってもいいのかなという感じで『告訴せず』の映画の欠点を話される。それが、こちらが観たときのなぜかストンと落ちてこない原因がそこなのかと納得させてくれた。

映画『告訴せず』(1974年・堀川弘通監督)は、松本清張さんの社会派推理小説が原作である。江戸川乱歩さんが推理小説を世に広め、子供にも愛される広範囲な読者層を獲得された。そこへ松本清張さんは社会派の大人対象の推理小説の道を加えられた。江戸川乱歩さんは傾向の違う松本清張さんに次の推理小説の担い手として高く評価した。

木谷(青島幸男)は大衆食堂の厨房で働いている。木谷の妻(悠木千帆・樹木希林)は兄・大井(渡辺文雄)が保守系の立候補者として選挙中でそちらにつきっきりである。木谷の妻は兄が勝つためには選挙資金を大臣にお願いすべきだと提案し大臣の承諾を得る。その資金を受け取りに行く役が目立たない木谷にまわってくる。

3000万円のお金を受け取りに行く木谷。受け取ったお金が大井のもとに届かないが大井は当選する。木谷は温泉宿にいた。お金は相手が告訴できない選挙違反の金である。木谷は宿の仲居のお篠(江波杏子)と一緒になり小豆相場にお金をかける。木谷は逃げきれるのか。

政治資金、狂乱マネー、暴力の世界が一人の男を通して描かれている。未だに同じような選挙とお金の関係である。

堀川弘通監督によると、松本清張さんから、自分の作品の上を言った映画は『張込み』(1958年・野村芳太郎監督)と『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(1960年・堀川弘通監督)で、また撮ってくれと言われた。プロデューサーの市川喜一さんが『告訴せず』を青島幸男さんでやろうということで、先ず青島幸男ありきではじまった。三枚目の主人公ということでコメディさも入れている。周囲の俳優陣は自分で決めていった。欠点は、火事の場面からダレてしまい、木谷が金にまみれてだまされていた本当の主犯の出し方が弱かったという点である。なるほど、まさしくそうなのである。

松本清張さんがほめた映画『黒い画集 あるサラリーマンの証言』は、かなり前に観てこれは面白いと『黒い画集シリーズ』を観たがそれぞれの作品の展開に満足した。『黒い画集 あるサラリーマンの証言』を再度観たが、細部まで目にはいったが、ミステリーは筋を知ってしまうと新鮮味を保つのは難しく、そうであったとの確認となってしまい最初の満足度は下がってしまったがテンポといいどうなるのかという先への引っ張り具合は計算されている。

平凡でそこそこの会社の課長・石野(小林桂樹)は部下の梅谷(原知佐子)と愛人関係にあり、家庭も上手くいっており満足の日常であった。ある夜、梅谷のアパートからの帰り道、隣人の保険外交員をしている杉山(織田政雄)に会い挨拶をする。普段も出会えば挨拶する程度の関係であった。石野は彼女のことがバレないかとちょっと不安になる。

その不安は杉山が向島の若妻殺しの容疑者として捕まり、杉山は犯行時間には新大久保で石野と会っていて向島にはいなかったと主張する。検事が会社に尋ねて来る。石野の「あるサラリーマンの証言」が重要になって来るのである。

堀川弘通監督は、セットが嫌いで、現場で苦労して作るのが好きであるといわれている。夜の情景もつぶしではなく、その時間に撮るようにしている。『黒い画集 あるサラリーマンの証言』は映画ができあがってどうしてもラストが気に入らず撮り直し、それも気に入らず再度撮り直した。ラストを三回撮ったことになる。あの頃映画会社もお金があり、スタッフも燃えていたからできたといわれる。そのラストの2つのシーンに似た場面が、特典映像の予告編にもでてくる。やはり撮り直したラストがベストだと納得である。

黒い画集 ある遭難』(1961年・杉江敏男監督)

黒い画集 第二部寒流』(1961年・鈴木英夫監督)