映画『女殺し油地獄』・シネマ歌舞伎『女殺油地獄』

図夢歌舞伎 弥次喜多』との出会いで(アマゾンプライムビデオ)で、堀川弘通監督の映画『女殺し油地獄』(1957年)を観ることができた。弥二さん喜多さんありがとうである。

脚本が橋本忍さんで、映画『黒い画集 あるサラリーマンの証言』同様、スキのない筋立てであり、歌舞伎の『女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)』の流れと同じである。映画のトップは罪人が馬に乗る市中引き回しの男を写す。字幕 「河内屋与兵衛 罪科に依り市中引廻しの上 千日前処刑場で磔刑さる 享保六年七月二十三日」 

与兵衛がどんなことをしでかしたのかそのことが描かれ、ラストの場面がトップの画面となる。与兵衛は油屋の息子であるが、同業者の豊島屋の女房・お吉を殺してしまうのである。なぜそういうことが起きてしまったのか。映画では、与兵衛が自首する時ふた親と妹に自分の事をかえりみて語るのである。近代的解釈によって構成されている。

歌舞伎『女殺油地獄』は近松門左衛門が書き下ろしたものをもとにしている。近松さんは人形浄瑠璃の作者である。享保七年に竹本座で上演されている。ところがこの作品江戸時代の人々には人気が無かったらしい。明治なって坪内逍遥さんが『女殺油地獄』を取り上げた文章を書く。その影響もあってか歌舞伎では明治四十二年大阪で初演されるのである。それから歌舞伎でも人気演目となり、映画でも作品化されるわけである。

歌舞伎をまだ観た事のないかたは、アマゾンプライムビデオで映画『女殺し油地獄』とシネマ歌舞伎『女殺油地獄』を観ることができるので時間があれば観て歌舞伎に触れていただきい。与兵衛は幸四郎さんで、お吉は猿之助さんである。

映画『女殺し油地獄』と歌舞伎の『女殺油地獄』では解釈も違い、演技も大きく違うということがわかるとおもいます。歌舞伎の与兵衛は近代人ではないのである。明治時代に上演した人たちは、近代人であったが、おそらく苦労してどうやろうかと考えて考えて身体表現にかえっていったのであろう。そして型となり、されにその型の中でそれを継続することによって役者さんによって違う空気を観客に送ることになるわけである。女方というものもしっかり観てもらいたい。

映画の方は、歌舞伎の『女殺油地獄』をよくわかってられる二代目中村扇雀(与兵衛)さんと二代目中村鴈治郎(継父・徳兵衛)さんが演じられていて、映画の構成にきっちりはまっておられる。映画俳優としての素材として臨まれている。そこがまた映画の見どころでもある。お吉は新珠三千代さんである。継父という設定も重要なカギである。

歌舞伎での与兵衛は、お吉を殺した後花道を去るというかたちで終わるのである。それゆえに与兵衛の人物像は、それまでの登場場面で思い至ることになる。もしくは役者の演技に満足して終わるということになったりもする。そこが近代演劇とは違うところかもしれない。ただ現代ではアイドルという分野もあり同じ現象は起きている。

江戸の人気者弥二さん喜多さんは現代においてもお二人さんの人気度を継続され面白い旅をさせてくれました。めちゃくちゃ忙がしい思いをさせられていますが。

もし観てつまらなかったときはクレームは弥二さん喜多さんにお願いいたします。こちらは舞台も劇場でのシネマ歌舞伎も観ていますがこれってお得とおもいます。

もう一度歌舞伎の『女殺油地獄』の本を読み返そうとおもいます。

女殺し油地獄
シネマ歌舞伎「女殺油地獄」

追記: 銀座ナイルレストラン監修のカレーにスーパーで出会う。全然期待していなかったのにタイミングよすぎ。もちろん購入。お家で歌舞伎、そろいすぎ。

追加2: 1月31日 NHKEテレ 午後9時から 『古典芸能への招待』で『女殺油地獄』があります。与兵衛が仁左衛門さん、お吉が孝太郎さん。同じ作品でも役者さんによって違うということがわかると思います。これまたタイミングの良さの継続です。

追記3: 浅草関連の映画『人生劇場 新飛車角』をついに見つけられた。浅草のやくざ吉井角太郎(鶴田浩二)が戦友を殺した相手との死闘に油まみれの場面が出現。沢島正(忠)監督は歌舞伎からヒントを得たのではないだろうか。

追記4: 2月7日 NHKBSプレミアム 午後11時20分から「プレミアムステージ」で、『四天王御江戸鏑(してんのうおえどのかぶらや)』があります。初春に国立劇場で公演されたものです。娯楽性にとんだものとおもいます。歌舞伎の多様性をおたのしみください。