テレビドラマ・渥美清の『泣いてたまるか』

独立プロ系の映画をみつづけていて、テレビドラマ・「渥美清の『泣いてたまるか』」で今井正監督が演出している作品が三作品みつかった。その内の二作は主人公の渥美清さんがきちんと恋愛し、良い方向へ進むのである。渥美清さんといえば『男はつらいよ』の寅さんのイメージが強く、片想いか、寅さんが相手の想いを信じられず逃げてしまうという印象である。

ところが、こちらの渥美清さん女性に正面からぶつかり、とても新鮮であった。それも一歩一歩静かに確実に周囲を固めつつ進んで行くのである。その渥美清さんの演技も好感がもて自分なりの信念を守りつつ生きている姿がこれまた幸せな気分にしてくれる。

泣いてたまるか~ある結婚~』(脚本・光畑硯郎)。靴屋の主人公(渥美清)は、15歳の時父に死なれ父に代わって靴職人の修行をし、やっと自分の店を持つ。そのため結婚が遅れてしまった。友人(小沢昭一)の結婚式で花嫁(長山藍子)の会社の交換手(久我美子)と会う。

主人公は結婚願望はあり集団見合いに参加。約束の相手を待つ交換手と偶然に出会う。彼女は、戦争で家族を失い一人で生きてきたがつき合う相手にいつも去られてしまう。彼女の靴のかかとがとれ、靴屋は自分の店で修繕してあげる。そして靴を作ってあげると告げる。靴屋の母(浦辺粂子)は、彼女に対して疑り深く靴を作ってもらうのが目的だという。

傷ついた彼女は、靴をプレゼントされウソをつく。靴が欲しかったのだと。心のづれはあったが、靴屋は彼女の本心を見抜き、母を説得するため彼女と歩きはじめる。

久我美子さんというと今井正監督の映画『また逢う日まで』が浮かぶ。自分の境遇に押しつぶされそうな久我美子さん。この女性だと確信してからの渥美さんの強さがいい。浦辺粂子さんは息子の結婚を望みつつ近所の人が息子夫婦に追い出され疑心暗鬼になっているのがよくわかる。浦辺粂子さんや飯田蝶子さんは生活者の心の動きを演じるのが上手い役者さんで、その物語にすっぽり入っている。

泣いてたまるか~ああ軍歌~』(脚本・山田太一)。営業課長(渥美清)は母(賀原夏子)が変わり者だからと心配するほど自分の信念を曲げないところがある。会社に親会社の重役(山形勲)が赴任してくる。重役は自分の軍隊時代が誉で宴会は軍歌でみちあふれる。

営業課長は軍歌を歌わない。兄は学徒出陣で戦争に行き戦死している。母は東京大空襲のため片足が不自由になっている。今では交通事故ですかと聞かれるとなげく。兄には恋人(小山明子)がいて命日には毎年お参りに来てくれ23年になる。母は彼女にそろそろ自由になってもらおうと息子に話させる。そんなことから弟は兄の恋人とゆっくり話す機会を持ち、会って話すようになる。

宴会の席でついに課長は軍歌を歌う。歌う前に彼は自分も戦争にいっておりその経験を話す。斬り込み隊としてジャングルの中をさまよった。戦友が亡くなる前、自分はコメを持っていてそれをやるから歌ってくれと言われコメ欲しさに歌った自分がいた。コメは無かった。課長は今日は歌いますと歌う。重役はクビだと口走っている。

次の日、母は心配してたことが起ってしまったという。息子があやまりに行くからというと母はお前は悪くないのだから謝る必要はない、自分からそんな会社辞めなと言ってくれる。さらに、兄の恋人との付き合いを反対していたのだが賛成してくれるのであった。素敵なお母さんである。

彼は会社に辞表を出し彼女と合う。そして、語る。懐かしさだけで軍歌を歌って若い人に聴かせていいのか。死んだものは何もいわない。生き残った者がせめてあの頃の苦しさを忘れてはいけないと。彼女はうなずく。彼は、さあ仕事を探すぞと張り切る。

今井正監督は純愛を描くとさわやかである。いつも女性に対しておたおたする寅さんに慣れているので、渥美さんはこういう設定の役どころいいなあと見つめる。英霊になる前に、人として語りたいこと、もっと生きたかったというあふれる想いが兵隊さんたちにはあった。後の世代は時にはそれを感じて立ち止まらなければと思う。

もう一つの今井正監督の作品は『泣いてたまるか~兄と妹~』(脚本・家城巳代治)。兄(渥美清)と妹(寺田路恵)の二人でで生きてきた。兄は自分が工員で苦労したから妹にはサラリーマンと結婚させたいとおもっているが、妹には工員の恋人(原田芳男)がいる。いつも飲みに行く居酒屋の女将(岩崎加根子)と喧嘩しつつ妹の恋人を認めることになる。工員の仲間に蟹江敬三さんも出ていた。皆さん若い。

泣いてたまるか~ぼくのおとうちゃん~』(脚本・光畑硯郎、演出・高橋繁男)は、渥美さんが縁日で傘を売っていて寅さんの口上をほうふつとさせてくれ、こういうところにも寅さんの原型がみえる。色々な役の渥美清さんがみれ、脇がしっかりした演技の役者たちで固められていて、『泣いてたまるか』はこれから少しづつ楽しんでいこうとおもう作品である。

ひとこと・テレビ『ぶらぶら美術館・博物館』

明治神宮創建100年。「神宮の杜芸術祝祭」が開催されている。BS日テレの『ぶらぶら美術館・博物館』(11日夜8時~)で放送される。あの森にどんなものが出現するのであろうか。わくわくする。

https://www.bs4.jp/burabi/#about

神宮の杜を歩いた時のことを思い出しつつ楽しませてもらうことにします。

明治神宮の森から映画『三月のライオン』場面の散策

ドラマ『半沢直樹』から歌舞伎雑感

堺雅人さんとなればドラマ『半沢直樹』である。続編に入ったが、歌舞伎役者さんが増えて濃い。半沢直樹のあの屈託のない笑顔を奥さんの花ちゃんに向けるのはいつの事であろうか。次回も満面の笑顔は見れない可能性が高い予感。

歌舞伎って隈取が派手で見得を切って顔力が強く、顔で演技するように思われる方も多いかもしれませんが、歌舞伎は身体表現です。顔の演技は抑え気味で、身体全体でその役柄を観せる芸能です。猿之助さんや中車さんも歌舞伎では顔芸はおとなしい。時には新歌舞伎で披露する場合もあるが。猿之助さんは、今回は思いっきり楽しんでいるふしがある。

こちらは「ルフィ~、どこへいったの。もしかしてルフィまでどこかに閉じ込められてしまったのか。伊佐山め!」である。

他に注目度の高いのは、及川光博さんの渡真利である。京マチ子さんの映画を観ていてドラマ『晴れ着、ここ一番』に出会った。及川さんは京マチ子さんの孫で、祖母の教育方針の締め付けから失語症になってしまっている。その役がぴったりで気に入り、偶然テレビで及川さんを見た時は今度はどんな役か注目する。なるほど、微妙な演技差で役柄を現わしていますなと納得している。ただしそのドラマを見続けると言うことは無い。前作の『半沢直樹』は一気に観たので、今回も、半沢直樹を助ける情報源の収集役には満足。

金融庁・黒崎の愛之助さんもこれからの出演なので、どうなることか。ねっちりくるんでしょうね。松也さんを含めてテレビでの演技の濃さは別として自然です。かつては歌舞伎役者さんがテレビに出ると間やセリフ回しに違和感を覚えることもあった。浮いてしまうというか。近頃は浮くどころか鳴門の渦です。

さて歌舞伎は『新版 雪之丞変化』について。このフラウヤーを観た時、中車さんが5役でこれは無理であろうと思った。いくら玉三郎さんが特訓をしてもそれほど簡単に習得できる歌舞伎ではない。さらに、浪路の名前がない。橋蔵さんの映画では浪路は大川恵子さんで、長谷川一夫さんの映画では若尾文子さん。重要な役である。疑心暗鬼のわくわくドキドキ感である。

中車さんの顔が映像で大きく映った時には笑ってしまい納得でした。そうきますか。それなら5役も務まります。顔芸は得意ですから。今まで玉三郎さんと共演して出来上がった役どころは身体と台詞で勤めあげられた。そこらへんは玉三郎さんもぬかりはありません。浪路も役者としては出現しませんでしたが話しとしてはきちんと登場し押さえられていた。

そしてもう一人映画では登場しなかった秋空星三郎の七之助さん。中村雪之丞の玉三郎さんの役者より上になる役者で、色々芸について雪之丞に教えるのである。「はい、はい」と神妙になって聴く雪之丞。七之助さんやりずらいのではと内心思いましたがしっかりと雪之丞に自分の役者魂を伝えてました。

親の仇をとってそこで役者として終わりではなく、その後も役者として雪之丞は立派に精進していくということになるのである。上手く3人の役者さんでまとめたなとの感想であった。ただ名前がないが狂言回しのような役を若い役者さんがつとめられ、なかなかの力演であった。これを書くにあたり捜したら玉三郎さんが語られていた。その中でお名前を知りました。(鈴虫・尾上音之助、坂東やゑ六のダブルキャスト)どちらの方だったのかはわからないのであるが、いいお役をもらったとおもいます。

玉三郎が語る、『新版 雪之丞変化』|歌舞伎美人

新版 雪之丞変化』が昨年の8月なのである。ふり返ってみればコロナのこの時代、出演人数を制限しての新作歌舞伎がすでに試みられていたと言うことになる。昨年は若い役者さんも沢山出演されていた。

その後、染五郎さんと幸四郎さん、團子さんと猿之助さんは、『連獅子』に挑戦された。染五郎さんはそのたくましさにいまだにあれは染五郎さんのバーチャルとしか思えないのである。友人が染五郎さんがテレビに出ているのを見て色気があるという。舞台ではおっとりとしたマイペースかなと思っていて色気は感じられなかった。見方はさまざまである。そこで、『連獅子』を勧めたら大満足で観劇後はいつものところでカンパイだったそうである。

團子さんと猿之助さんの『連獅子』を観た友人は感想のメールがこない。2日後に会う予定なのでと会ったとたん開口一番「メールではなく直接言いたかった。年齢的にも最強の組み合わせ。」と超興奮であった。こういう時は勧めた方も一安心である。「いつもの『連獅子』と違っていたわね。」澤瀉屋型である。この二つの『連獅子』を並べてシネマ歌舞伎かDVDにしてほしいものである。こういう時代なのでDVDがいいですね。

前回の『半沢直樹』を観ていた友人は、2019年6月の『封印切』の丹波屋八右衛門の愛之助さんについてドラマと重なったみたいである。黒崎のねちねち感が八右衛門にも出ていて押さえた演技でよかったとのこと。わたしは悪くはないが、八右衛門の我當さんのあのテンポの可笑しさと憎たらしさにはかなわなかったと。友人は我當さんのは観ていなかった。ドラマって見る眼に影響するのだと知る。

女車引』は初めてで、松王丸の妻・千代(魁春)、梅王丸の妻・春(雀右衛門)、桜丸の妻・八重(児太郎)の舞踏なのである。児太郎さんが魁春さんと雀右衛門さんに囲まれて大丈夫であろうかと少しはらはらして観ていたが、なかなかしっかりとつとめられていて次第にゆったりと鑑賞した。友人は、雀右衛門さんの後ろの襟首に色気を感じてずっと雀右衛門さんを眺めていたそうである。これまたそれぞれの見方で面白い。

壽式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』は、松江さんの千歳が抜群に良かったと一致。松江さんはこういう雰囲気が合っているのかと再認識。幸四郎さんと松也さんの三番叟は、やはり踊り込んでいるかどうかの差が出たと思う。松也さんは少しテンポが遅れていた。幸四郎さんは、操り三番叟の動きが所々で垣間見えていた。踊りは役者さんの踊り方があって、その踊り方が好きというお客さんも多い。たとえば松緑さんはきちんと基本が決まっていて好きであると言うお客さんの声をきいたことがある。友人も幸四郎さんの踊り方も好きで松緑さんの踊り方も好きだという。

吉右衛門さんと仁左衛門さんは別格。そんな感想を勝手気ままにしゃべりまくるのも観劇の楽しさである。出来れば数日おいてしゃべる方が冷静になって話題が増える。

生の身体表現がみたくなる。八月の歌舞伎座は迷いが増す。無事に迎えて無事に終わって欲しい。

映像ではドキュメンタリー『マイヤ・プリセツカヤ』が神業であった。こんなバレエであったのかとじっくり観れたことに歓喜である。これからも映像での時間が続く。DVDの紹介にアニメ映画『ワンピース フイルム ゴールド』が映った。これ観なくては。そして『ワンピース フイルム ゴールド』映画連動特別編『シルバーマイン』があった。さあこれからかたずけなければ。

半沢直樹がんばれ! 奥の手は伊佐山へのルフィからのパンチと大和田のポケットに新種の昆虫をもぐりこませること。

テレビドラマ『BG~身辺警護人~』の最終回に海老蔵さんが出演とのこと。観た事が無いので最終回みてみよう。テレビ朝日 30日(木)夜9:00~

追記

歌舞伎座の中の観劇は安心です。松竹さんも最大限に注意されています。その前から行き慣れた劇場ですので、一幕で休憩も無いので静かに入って静かに去ればいいことと思っていました。多分観劇されるお客さんは、そこまでの行き帰りの途中と道を検討されると思います。車でいければ安心度は高いです。そうできない時は悩みます。外にいる時間の長い、人との接触の少ない移動を検討。そのため乗る電車のいくつかのシュミレーションを検討。あとは暑くなりますので観劇者の自己体調との対話です。家を出て家に帰るまでが、今は観劇の作法ですから。

これからの観劇の一つの目安となることを願っています。

追記2

5日の歌舞伎座の三部が公演中止になったようです。即対応されました。舞台関係者の方々が自分の体調について言いやすい環境であってください。今はそれが大切です。この時期の重圧に押し潰れませんように。

追記3 歌舞伎、演劇など無観客舞台無料配信や動画などで愉しませてもらい、愉しませてもらっている。近頃あやしいコロナの動きなので、無観劇観客へ方針転換も考慮し始める。そこにいなくても誰かが潜んでいます。夏の怪談話。ただし、おあしは払いましたので足はあります。油断大敵。

テレビ『英雄たちの選択』

ハードディスクの録画容量が満杯になってしまい整理した。その中に『英雄たちの選択 ~水害と闘った男たち 治水三傑の叡智』(NHKBSプレミアム)があった。この番組は興味ありそうと思った時に録画していて3月である。おそらく治水三傑に魅かれたと思う。水害に立ち向かった人はたくさんいたわけで、治水三傑はどんなことを成したのであろうか。今回は海水温度の上昇に伴い被害増大で痛ましく心折れる状態である。

これは映像で見てもらわねば文章で説明できないが、傍若無人に試みる。三傑にあげたのは、武田信玄(山梨県)、津田永忠(岡山県)、金原明善(静岡県)である。

武田信玄の戦国時代には、川は縦横無尽に甲府盆地に流れ込んでいた。特に御勅使川(みだいがわ)と釜無川(かまなしがわ)の合流点で氾濫が起るため、その合流点を堤(信玄堤等)などで一箇所に集めるようにした。根元を抑える。

津田永忠(つだながただ)は江戸前期時代の岡山藩士である。岡山城は旭川を堀として利用していたため川があふれ出し大洪水となった。旭川から城下と領民を守るために百間川を作った。分流部にしかけがあり巻石といわれている。花崗岩でかたい巻石を通って旭川の水は流れ、百間川は放水路となるのである。さらに新田開発もした。

金原明善(きんぱらめいぜん)は明治時代前期の人で浜松の実業家である。「暴れ天竜」といわれた天竜川を治めるため私財をなげうって堤防工事を計画。天竜川で生活している人々もいて反対もあり頓挫。乱伐の山に目が行き、これでは堤防も決壊すると考えた。治水から治山へ。森を守り川を守る。さらに林業で人々の雇用を生み出していった。天竜美林。

時代時代によって、さらに地形によってさらなる考え方が変化していくのが興味深い。水は越えるかもしれないが壊れない堤防(床下浸水まで)。現代に問われているようだ。

15日、今日の午前8時からNHKBSプレミアム『英雄たちの選択  鬼か?仏か?その後の新撰組土方歳三~宇都宮城攻防戦の真実』の放送がある。再放送である。気がつくのがおそかった。

宇都宮城址に行った時、土方歳三さんが宇都宮城を攻めたジオラマがあった。どんな攻め方をしたのかわかりやすい解説を期待したいが、どう展開されるのか楽しみである。そして鬼か?仏か?

メモ帳 5 ← に宇都宮城のことがメモされていた。

追記

宇都宮城の攻防戦よくわかりました。北側を厳重に警護していたのは、伊逹藩への守りであったということ。南東からなら侵入しやすかった。そして、宇都宮二荒山神社から大砲で攻めれば北側も打ち破れた。確かに神社は高いです。地形をよく偵察していたわけである。満足であり、一つ整理がついた。歳三さんの組織論はかわらないと思う。自ら先頭に立って戦うからそこは揺るがなかったであろう。

治水から映画『箱根風雲録』に続く予定であったが、歳三さんの宇都宮攻防戦の番組があることを知って急きょ変更した。「メモ帳 5」をみたら、箱根神社と三島の旅も宇都宮城址の旅と並んで書かれてあった。忘れていたので驚いた。道筋は出来上がっていたようである。

テレビドラマ『黒井戸殺し』『名探偵ポワロ ~アクロイド殺人事件~』

アガサ・クリスティーの原作、「アクロイド殺し」。『黒井戸殺し』から観るべきだったのか、『名探偵ポワロ ~アクロイド殺人事件~』から観るべきだったかは、今となっては検証すべきもない。ミステリーであるから結末が解っていると、どうしても後の方が不利のようにおもえるが、やはり『黒井戸殺し』が先で良かったと思う。なぜなら、ミステリーと知っているのにそのドラマの運び方が出演者の個性的な演技力とテンポに乗せられて、ミステリーなしのドラマのように観始めていた。

黒井戸殺し』は三谷幸喜さん脚本で2018年に放送されているがその時は観ていない。題名が面白い。黒井戸って何。黒い井戸、いわくつきの古井戸かな、井戸を殺してもなあとつまらぬことを考えていたら、黒井戸とは人の名前(苗字)であった。こねくり回しすぎていたがこのこねくりがなかったら観なかったであろう。原作は、「アクロイド殺し」、アクロイドが黒井戸に変換されていたのである。

先ず、大泉羊さんが野村萬斎さんに原稿を読んで貰うことから始まる。殺人事件に遭遇するなどめったにないのでと。三谷幸喜さんの話しの進め方には色々トリックがあり先に進んで出会う些細なヒントがちらっとでてくるのでこちらもそれなりに頭の中でチェックを入れるのであるがそのサラリ感が憎い。

医者である柴平祐(大泉羊)と隣に住む名探偵・勝呂武尊(野村萬斎)との出会いは勝呂(すぐろ)が家庭菜園で育てたカボチャが平祐の足元に飛んで来て始まる。

昨年ご主人を亡くした唐津佐奈子(吉田羊)が自殺し、医者の平祐が呼ばれる。平祐の姉のカナ(斉藤由貴)が村の情報屋でこの姉と平祐の話しの受け答えのテンポが非常に観る者を楽しませてくれる。ミステリー感を失くしてしまう条件の一つとなる。

もちろん殺人事件は起こる。自殺した唐津夫人と婚約していた黒井戸禄助(遠藤憲一)が短刀で殺されていたのである。さて名探偵勝呂の出番となる。勝呂は、平祐にシャーロック・ホームズのワトソン役を頼むのである。平祐も悪い気がしない。黒井戸家にいる人々の話しを勝呂と一緒に聞くのである。そんな立場から平祐はこの殺人事件を記録しはじめていた。出来れば出版したいとも望んでいた。

そうした中で、姉のカナさんがやはりいいキャラをしていて、なべ焼きうどんがのびると平祐に電話してくる。平祐は今捜査中で帰れないというが、勝呂の分もあると聞きつけた勝呂は、なべ焼きうどんが大好きだという。

なべ焼きうどんがのびないうちにと平祐は自転車の後ろに勝呂をのせて自転車をこぎ、無事なべ焼きうどんを口にすることができるのである。このなべ焼きうどんが非常に役立つのである。カナさんのキャラは素晴らしいはめ込みかたである。さらにミステリーを忘れてしまうキャラは登場人物すべてにある。そのキャラを楽しんでいるうちに突然謎解きは訪れるのである。

他のキャラを紹介しておく。

兵藤春夫(向井理・殺された禄助の義理の息子で金銭感覚に問題があり、東京から帰って来たのに黒井戸家に顔を出さない。)

黒井戸花(松岡茉優・禄助の姪で春夫と婚約)

黒井戸満つる(草刈民代・禄助の義理の妹で花の母、金欲強い)

袴田次郎(藤井隆・黒井戸家の執事で盗み聞きの名人)

冷泉茂一(寺脇康文・黒井戸家の秘書でミステリー好き)

蘭堂吾郎(今井朋彦・録助の友人で女性関係の評判が悪い作家)

来仙恒子(余貴美子・黒井戸家の女中頭で感情を表情に出さない)

本田明日香(秋元才加・黒井戸家の女中で禄助から解雇されていた)

袖丈幸四郎(佐藤二郎・警部で名探偵勝呂のファン)

茶川建造(和田正人・不審な復員兵で事件当日平祐に目撃されている)

鱧瀬(はもせ・浅野和之・黒井戸家、唐津家の顧問弁護士)

これだけの興味深い人々が名探偵勝呂の頭の中で考察され、平祐の記録に記されるいるのである。さて犯人は誰なのであろうか。

犯人が解って『名探偵ポワロ』のほうをみる。観る眼は登場人物が『黒井戸殺し』とどう違うかをみているが、流れとしては名探偵ポワロを追う形となっている。登場人物も『黒井戸殺し』ほど個性的でないのでその点でものめり込み度は低い。

最初は、ポワロが貸金庫から手帳を出し読み始める。回想的な始まりとなる。医者の足元に飛んでくるのはカボチャではなく冬瓜である。医者には姉ではなく妹がいる。情報通であるがカナよりテンポはゆるい。

ワトソン的役割は、ジャップ主任警部がになう。作家と復員兵にあたる人物はでてこない。そして大きな違いは、殺人がもう一件起こるのである。そして、アクロイドを殺す動機が違い、さらに犯人がピストルで撃ちまくるというアクションつきであり犯人の凶暴性がはっきりしている。

黒井戸殺し』には興味深いことがエンディングロードに記されていた。桑名市六華苑と静岡市旧マッケンジー邸である。六華苑は黒井戸家の屋敷であり、旧マッケンジー邸は名探偵勝呂の住まいである。こういうおまけも嬉しい。

映画『記憶にございません』にも斎藤由貴さんが出られていた。『黒井戸殺し』ほどの活躍ではないが、驚く食べ物を提供してくれる料理人なのがつながっている。よくこういう発想が出てくるものである。

テレビ・『緊急対談・パンデミックが変える世界』

友人が、NHK・ETV特集『緊急対談・パンデミックが変える世界~ユヴァル・ノア・ハラリとの60分~』を視聴していろいろ考えさせられたと知らせてくれた。

再放送を探していたらPCで『緊急対談・パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~』を視聴できた。三人の方が発言されていてその一人がユヴァル・ノア・ハラリで、この方の考えをもっと聞きたいという視聴者の要望があり『緊急対談・パンデミックが変える世界~ユヴァル・ノア・ハラリとの60分~』となったようである。

『緊急対談・パンデミックが変える世界~ユヴァル・ノア・ハラリとの60分~』の再放送がわかり録画して視聴した。友人の言う通り考えさせられた。そして、新型コロナを一時的にせよ克服した国があるならその情報を収集し検証する必要があると思う。科学者や知識人の考え方が必要な時期なのではないだろうか。

さらに再放送があるようなので下記参照。

Eテレ 第1回5月2日(土)午後2時~『緊急対談・パンデミックが変える世界~歴史から何を学ぶか~』 第2回5月2日(土)午後3時~『パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~』

NHK BS1 第1回5月4日(月)午前10時~『緊急対談・パンデミックが変える世界~歴史から何を学ぶか~』 第2回5月5日(火)午前10時~『パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~』 第3回5月6日(水)午前10時~『緊急対談・パンデミックが変える世界~ユヴァル・ノア・ハラリとの60分~』

この友人からは、4月13日NHK総合で放送された『逆転人生』も紹介された。友人を通じて連絡があったらしい。視聴したことのない番組であった。

田中宏明さんが幼い次男の異常に気がつく。そしてやっと命を救ってもらえた高橋義男医師に出会うのである。その医師の診察室には所狭しと沢山の写真が貼られていた。高橋義男医師は自分が携わったこどもたちのその後の成長を、見続けていたのです。田中宏明さんは何んとか高橋義男医師のことを世の中に知らせたいと思い、自分がかつて漫画家志望であったことからマンガで表現することにする。そして漫画『義男の空』を自費出版。

全然知らなかったので、世の中にはこんなお医者さんがいるのかと心強さをもらった。他の友人たちとも交信し合い共有しました。知らせてくれた友人にありがとう。そして、日々、命の灯りを消さないように医療にたずさわれている方々に感謝。

上野の動物園通りから清水坂に向かう左手に森鷗外さんが住んだ鷗外荘がある。「水月ホテル鴎外荘」として公開されていたが、ここも新型コロナウィルスの影響で閉じられることになった。ここは温泉でもあり、友人たちと泊って歓談したことがあった。友人に電話するとテレビ報道ですでに知っていた。泊った次の日『横山大観記念館』に寄り、そこから『旧岩崎邸庭園』へ行ったことが話題になった。そんな旅もいつ再開可能であろうか。

鴎外さんは海軍中将男爵赤松則良の長女・登志子さんと結婚する。赤松中将は19歳で勝海舟らと咸臨丸(かんりんまる)でアメリカへも行った人である。ここは赤松家の持ち家であった。当時は寂しい場所で動物園のすぐそばでもあり、猛獣のほえ声にお手伝いさんが怖がったと言うはなしもある。この頃鴎外さんは東京美術学校(現東京芸大)の講師で、幸田露伴さんなどがよく訪れていたらしい。登志子さんとは離婚することになり、その後、本郷千駄木に移る。千駄木の家には後に夏目漱石さんが住む。

いつかまた、鴎外荘が公開され訪れる日のくることを願いたい。だがその前に閉じてしまうところがないように強く願う。

さてそんな話の中で、友人の知人が、すみれを持ってきてくれたと言う。そろそろすみれも終わりかけているので抜いてしまったのだが、根子のついているままガラスの容器にいれておくとまだ楽しめると花好きの友人に渡してくれたらしい。こういうのって嬉しいねと声が明るく響く。窓辺に飾って眺めている友人の姿が伝わる。こちらもそのすみれを眺めている。

追記: 友人が慢性骨髄性白血病と診断された。短い時間、身体の右側に異常があった。口が歯医者で麻酔をされた感覚で右手がしびれた感覚。すぐおさまったが次の日、脳神経内科を受診。検査ではっきりしたことがわからなかったが血液検査で数値が異常。血液の専門に回され、慢性骨髄白血病と診断された。薬のことなど色々説明を受けたらしい。急性になる前に見つけられてよかった。早期発見早期治療が医療の原則なのではないのか。新型コロナも早期発見早期待機(隔離)ではないのか。補償欲しがりません勝つまでは、いつの時代の政策なのか。

菅原道真公

学問の神様である菅原道真公は、実は政治改革にも着手していたのである。NHKの『その時歴史は動いた ~天神・菅原道真 政治改革に倒れる』で知ったのであるが、2月の歌舞伎と文楽のためにDVDを見直した。政治改革について知られるようになったのは近年ということで、学者の方によると、道真は敗者のため勝者によって資料が消されてしまったのではないかということである。勝者とは時の左大臣・藤原時平である。

道真公が時平に落とし入れられ九州太宰府に左遷されて亡くなってから、京の都は転変地異が起る。時平は39歳で世を去り、その子供や時平の血をひく天皇も若くして亡くなり、人々は、道真公のうらみのせいであると言い合う。

藤原氏は、道真の怨霊を鎮めるため北野天満宮の社殿を増築するのである。

道真公は怨んで亡くなったのであろうか。太宰府では罪人として役所に出所することを禁じられ、食べるものにも不自由するような生活であったが、季節の移ろいを詩に詠むことをなぐさめとした。

「京にいるとき、古い友は自自分の食事を分けて食べさせてくれた。家の者たちは私の衣服を洗ってくれた。私はこれまで苦しいながらも、生き続けるよう励まされてきた。死にたいなどと思ってはならない。私は生きるのだ。」

「私の功績が石の柱に刻まれて後世に伝えられることはないであろう」

道真公の政治改革とはどんなものであったのか。菅原家は代々学者として朝廷に仕えてきた家柄で、道真公は33歳で文章(もんじょう)博士に任ぜられる。ところが42歳のときこれを解任されて国司(いまでいう知事)讃岐守(香川県)に任ぜられる。自分は学者なのにと道真にとっては不本意であった。

讃岐に着いて見ると干ばつや疫病で荒廃していて民は国を捨てよその国にのがれていった。当時は実権を藤原氏が握り、税として納めた絹を品質が悪いととがめられる。道真は都人は民の実情をわかっていないと意見書をおくる。それが宇多天皇の目にとまり、46歳のとき宇多天皇近くに仕えることとなり、中央政界に登場するのである。

唐が内乱のため、まず遣唐使を廃止する。そして日本の財政の困窮の原因を考える。当時土地は国の物で一人一人に土地を貸し与え、人から税を徴収していた。ところが、戸籍に登録した成年男子(17歳~60歳)だけに課したので男子でも女子と登録するものが増えた。

有力な貴族や寺院は私有地をもつことができた。そこに目を付けた豪族たちは開墾した土地を貴族たちに寄進し名義料をおさめ実際には自分の土地とした。さらに民衆は苦しいため豪族に土地を売り渡し耕す土地をもたない農民が増える。当然これでは税も入ってこなくなっていたのである。

そこで道真は、人ではなく土地に税をかけることを考えたのではないかと推測されている。そうなると私利私欲に満ちた貴族たちが納得するわけがない。宇多天皇は子の後醍醐天皇に位を譲る。その二年後道真は右大臣に任命される。

藤原氏の勢力を盛り返そうとしていた時平は道真の反対勢力の中心となる。そして、天皇を退けようとしているとして道真だけを呼び出さずに天皇の命令として九州太宰府転勤を左大臣・藤原時平は読み上げるのである。道真、57歳(901年)であった。

902年、時平は実権を握り、改革をはじめる。道真が考えた政策の実行である。豪族の私的な土地の所有を禁じ、民衆にあらためて土地を与え、税は土地に応じてとりたてる。

道真公が亡くなるのは903年2月25日、59歳の時である。

道真公が考えた改革はそのまま時平が受け継ぎ実行するのである。そのことがその後の王朝文化をよみがえらせる。だれがその道筋を作ったのかは、石の柱には刻まれていないのである。

学問の神様としてこんなに多くのひとから親しまれるとは道真公は想像していなかったであろうし、自分の怨霊が彷徨うなどとも考えなかったであろう。怨霊は民衆の怨みが作り出すはけ口だったかもしれない。

ただ道真公は神頼みだけではなく知によって問題解決を考えなさいといわれるように思う。

道真公が江戸の人々の目の前に現れるときは、貴族世界と町人世界を混ぜ合わせたワールドにしないと納得されないのである。江戸時代の芝居小屋では。

追記: 最後の観劇から10日が経つ。その間、予定していた観劇などやめにする。お上のすることは信用できないので自主防衛である。やめれる者はまだいい。友人から仕事が無くなったとメールがある。そうなのである。収入が絶たれる人も出てきているのである。

追記2: 「TOHOシネマズは27日、体調不良や来場を取りやめる利用者について、当面の間、チケットの払い戻しを受け付けると発表した。発熱、せきなどの症状がある場合は、来場を控えるよう求める。」私もこういう方法はと考えていた。うつされるのもいやだが自分がうつすのもいやである。14日過ぎたら次の予定の観劇をと考えていたら中止となってしまった。それはそれで今の段階の決断でしょう。状況によっては実施して払い戻しも一つの方法であると思います。

アニメ映像『ワンピース』『NARUTO』

  • アニメ映像の『ワンピース』<チョッパー登場 冬島編>と『NARUTO(ナルト)』<巻ノ1~巻ノ12)とを観る。『ワンピース』ではト二―トニー・チョッパーの辛かった過去が知らされる。あの可愛いいチョッパーからは想像できなかった。涙、涙である。愛らしくて可笑しいのは、ものかげに隠れる時、頭隠して尻隠さずのドジちゃんでもある。サンジには食材として見られるし、ルフィには仲間、仲間、仲間として猛アタックされるしで、やっと船に乗ることになる。

 

  • 青いお鼻のトナカイさんのチョッパーを受け入れてくれたのが、ヒルクル。全ての医術の教えてくれたくれは。素敵な人たちであった。そしてボン・クレーが登場した。「マネマネの実」を食べていたのである。これから一波乱あって、ルフィとボン・クレーとのつながりが解き明かされるのであろう。芝居では、サンジは恰好をつけたキザな人に思えたが、料理人だから手が一番大切で闘いは足なのである。納得!。ウソップのキャラもわかってきた。

 

  • NARUTO』は、ナルトサスケサクラが忍者アカデミーを卒業し、下人としての任務には励むが、(はく)少年との遭遇が印象的で、実写・芝居なら神木隆之介さんで決まりとおもった。まだナルトとサスケの過去がはっきりしないので、白が先にその短い人生を披露し存在感を示す。ナルトとサスケの前哨戦のようで効果的な配置である。

 

  • そして中忍試験で大蛇丸が早くも登場。あの長い舌。歌舞伎の大蛇丸のほうが格好良かったなあ。あのメガネのカブトが新作歌舞伎では大蛇丸側についていて冷静で気になる存在であったが、どうやらこれから何かが起こるらしい。アニメ映像を観つつ、三代目火影イルカ先生カカシ先生などが芝居の役者さんと重なって思い出す。ナルトとサスケはまだ子どもなので、特にナルトのその稚気さを出す度合いが難しかっただろうなと思えたが、脚本が上手い展開だったので、そのことにとらわれることなく物語の中に運んでいってくれた。歌舞伎には出てこなかったが三代目火影の孫・木ノ葉丸もどうなるのか興味あるところである。

 

  • このアニメを観て終われば全く違う他の事を考え、またアニメの世界にもどるということで、頭の切り替えの必要性を感じてその辺も面白い経験であった。それも、気分に任せて『ワンピース』『NARUTO』とごちゃごちゃに観たのである。さらに舞台のスーパー歌舞伎『ワンピース』と新作歌舞伎『NARUTO』が頭の中できちんと別物として存在していているのでそちらとも上手く切り替えられた。役者さんたちも二つの芝居で重なって出演しているのに、区別できたのは、しっかりその役を作り上げて別人物となっていたからであろう。

 

  • ただこの先を観る時は、ここまでは『ワンピース』を観終ってから『NARUTO』というふうに観る予定であるが、レンタルDVDの棚の前で溜息が出てしまう。数の多さに。さてどうなることであろうか。途中で挫折しそうであるが、スーパー歌舞伎と新作歌舞伎に登場した人物たちは観ておきたい。

 

織田信長関連テレビドラマ(3)

  • 織田信長となれば、明智光秀を外せない。ただ光秀がなぜ信長を討ったかというのは諸説ある。疑問の残る「本能寺の変」である。テレビドラマ『敵は本能寺にあり』(2007年)は、光秀の家来・三宅弥平次が主人公で、光秀の娘を妻とし後に明智左馬助を名乗る。原作は加藤廣さんの『明智左馬助の恋』である。明智左馬助は染五郎(十代目幸四郎)さん。

 

  • このドラマでは安土城がかなり重要な役をしている。そして、明智光秀が築城した琵琶湖に突き出た坂本城も出てくる。CGであろうが、湖面に建つ坂本城が美しい。琵琶湖に面したこの二つの城。その美意識が対抗しているようだ。当然安土城が坂本城を見下ろしている。あの時代、今の関東の富士山的象徴が琵琶湖だったようにおもえる。左馬助は馬の名手で、時には馬で琵琶湖を渡りますと信長に告げる。これもキーポイントである。

 

  • 左馬助の妻になった光秀の娘・綸(りん)は、左馬助と夫婦約束の仲であったが、信長により荒木村重の嫡男・村次に嫁ぐ。荒木村重の謀反により綸は離縁され光秀のもとに帰され、左馬助の妻となる。ドラマと離れるが、信長が送った使者・黒田官兵衛を監禁したのが荒木村重である。その後荒木村重は逃走し、そのため荒木一族は処刑され、この時乳母に助けられたのが村重の子・岩佐又兵衛である。後に絵師となり、歌舞伎・文楽『傾城反魂香』の浮世又平のモデルともなり、『山中常盤物語絵巻』を描いたその人である。光秀の娘が荒木家に嫁いでいたとは。この綸も戦国の中での数奇な人生である。

 

  • 左馬助は信長(玉木宏)に家来になるように言われるが、光秀(中村梅雀)にあての無い自分を救ってもらった恩義があると断る。信長は肉親や情など信じられない。信じられるのは力だと主張。左馬助のお館様の想いが詰まった城の中を見せて欲しいという言葉に信長は、見せない。見たくば奪ってみろと。左馬助は光秀の信長に対する複雑な気持ちを計りつつ光秀の心が晴れるよう御所の馬ぞろい、家康饗宴などを手伝い進言もする。しかし、左馬助の力ではどうすることもできない方向に事は進んでいき「本能寺の変」へとむかう。

 

  • 本能寺の焼け跡から信長の死骸はみつからなかった。抜け穴があり、その抜け穴は何者かに崩されていた。左馬助は極秘に阿弥陀寺の住職に呼ばれ、信長の遺体と対面し深く葬ることを頼む。静かに安土城の天主閣へ登って行く左馬助。光秀に加担した公家の近衛前久は天主閣を見て降りる時、見なければよかったと恐れた場所である。天主閣には狩野永徳が待っていた。陽の登る前にお呼びしたのはこれをお見せしたかったのですと東側の戸を少し開け陽の光を入れる。するとその一条の光が襖絵の皇帝を顔を照らしだした。帝をないがしろにしようという気持ちは無かったという意味であろう。

 

  • 左馬助は、信長にいつか琵琶湖を馬で渡るのをお見せすると告げていた。綸を残した坂本城へもどる道はふさがれている。お館様、ご覧くださいと左馬助は馬で琵琶湖を渡るのである。そして坂本城の炎の中で綸とともに最期をとげる。『時は本能寺にあり』とあるように、「本能寺の変」までが刻々と描かれている。左馬助はとらえきれない信長の魅力と、光秀の苦悩も推し測り、その間でみつめていた乱世。最後は清々しい気持ちで琵琶湖渡りをする左馬助である。

 

  • 個人的には、安土城の内部を知った時、仏の世界の上に人間世界の天主閣をもってきてそこに座すということは、信長は人として自分が支配者となると決めていた人であると思えた。そこを最後に違う光を与えた変化球にこのドラマの面白さがあり優しさが。信長さん金平糖食べていました。信長と家康が能の「敦盛」を見物し、その謡の中で、饗宴係りを降ろされた光秀が自分の進む道を準備しているなど、しっかりとそれぞれの思惑を見せてくれた。

 

  • 大河ドラマ『国盗り物語』(1973年/原作・司馬遼太郎)の総集編(前篇・後編)がレンタルできた。このドラマ、斎藤道三(平幹二朗)から始まり織田信長(高橋英樹)に続くという設定になっていて、斎藤道三という人物が知りたかったので好都合である。明智光秀(近藤正臣)が道三に仕えていて光秀のたどって来た道もわかる。ただ、総集編であるから展開が速い。

 

  • 坂口安吾さんの『信長』によると斎藤道三は <坊主の出身で、坊主の中でも抜群の知恵者で、若年からアッパレ未来の名僧と評判された腹の底の知れないような怪物だった。寺をすてて油売りの行商人となり、美濃の守護職土岐氏の家老長井の家来となり、長井を殺して代わって土岐氏の家老となり、さらに土岐氏を追い出し愛人をうばい美濃一国を手中に収めた> とあるが、そういう流れである。前篇で簡潔に見れた。

 

  • 信長』は、坂口安吾さんも数多く資料を集められたのであろう。登場人物が多数あって入り組んでいる。映画、テレビドラマを少し観ていたので、違いや、この映画のこの部分か。時間差をずらせて映画やドラマは面白く引っ張ているものだと場面や登場人物を思い浮かべる。複雑に裏切りや駆け引きがあるので、小説では、軽さを出そうとカタカナがでてきて、信長は頻繁にバカと称されている。テレビドラマ『織田信長  天下を取ったバカ』の題名も納得がいく。信長が濃姫と話すときも、オレ、オマエで現代の若者のような会話であったりして坂口安吾さんの工夫が感じられるし、信長周辺が大変参考になった。

 

  • 安吾さんは『信長』に対する作者の言葉として「信長とは骨の髄からの合理主義者で単に理攻めに功をなした人であるが、時代にとっては彼ぐらい不合理に見える存在はなかったのだ。」としているが『信長』を読むとそれがよくわかる。信長と道三を結びつけたのは平手政秀である。四面楚歌の信長を守ってくれたのが道三である。信長が織田家のトップにたつと、その弟は信長の家臣からも軽くみられる。だれも信長を認めないのであるから、弟たちの家臣たちは面白くない。家臣は弟をたきつけ、あわよくばその主人を操って自分が支配しようとする。信長の周囲はそんな城が幾つかある。それをおさめていくが、そのとき道三の後ろ盾が味方である。

 

  • ことが起れば、うつけのときに行動していたところが合理的に生きてくる。自分が身体をつかってしたけんかの手法。相手の戦隊を崩させ、自らそこに飛び込む。戦隊を崩させるのも長い槍隊。槍は一回確実につけばよい。そのあとは刀にかえろ。槍を抜いてまた使うなど時間の無駄。鉄砲隊は三列。時間差なく撃ち込む。これは相手の前列の兵にとっては脅威である。驚いているところへ大将が飛び込んでいくのであるからまたまた驚かされる。驚かせるのが好きである。

 

  • 道三との面談の衣裳で皆を驚かせた信長は、衣裳が驚かすことを発見したとおもう。その後の新しい物への興味とそれを披露したときの周囲の驚きを楽しんでいたところがある。驚いているうちに次を成す。ただそこまでの用意も面白い。茶もやるが、「茶の湯は貧富をとわず余人をまじえず膝つき合わせて交じりを結べる」。諸人と交わっても怪しまれず、間者たちとの情報も誰にも悟られず得られる。四面楚歌であるから誰も信用できない。子供の頃から見聞きするのは好きだから情報を得る方法がわかっていてさらに、誰にもさとられないように情報を得て、自分で考えるのである。突然動きだす。説明はないから皆驚く。

 

  • 信長』によると、尾張の守護・斯波義銀(しばよしかね)を国守とあがめ清洲城に招き信長は北矢蔵へ隠居。今川義元に使者をだし三河の吉良家を三河の国守とさせ、斯波家と吉良家を三河で参会させる。吉良家は力は劣っているが、足利将軍家に子がなければ三河の吉良家の子が継ぎ、吉良家に子がなければ今川家の子が将軍家を継ぐ定めがある。斯波家に権威を与えるためであり、信長が出陣の時、清洲城を斯波義銀の権威に守らせるためでもある。世間の権威を使う理も心得ている。

 

  • 道三は、土岐氏の愛人を奪うがそのお腹には土岐氏の子が宿っていて道三は息子として育てる。その息子・義龍は自分の出生を知り自分が正しい血筋とし、道三を討つのである。その時信長は道三を助けることができなかった。その後も信長の身内や家臣の謀反は続く。そして上洛する今川義元との桶狭間の戦い。大雨で信長軍の動向はさとられず、一気に義元の後方の陣地を襲い勝利するのである。運と信長の理とそれまでの経験が合体したのである。

 

  • 信長は、道三の築いた稲葉山城を奪い、新たに岐阜城とする。ここからは、最後の室町幕府将軍の足利義昭と信長の駆け引きが加わり、そこに明智光秀も関係し、さらなる信長の天下取りへの戦がはじまる。司馬遼太郎さんの原作『国盗り物語』を読むのがよいのであろうがもう少しあとにする。信長は、異国からの知識も理にかなっていると思えば受け入れ、地球が丸いのを地球儀で納得している。宗教なども、信じると他国にまで丸腰で布教にくる宣教師と武力を持つ我が国の寺社と比較したことであろうし、権威だけの貴族も信用していない。それにしても自分の死骸を残さなかったというのも信長の最後の理のようなきがする。驚いたか、どうだ謎を解いて見ろ。

 

  • 金平糖が気になり調べると、京都の老舗店が、銀座に昨年の12月に支店を出していた。制服で話題になった泰明小学校のそばである。歌舞伎座の下にある木挽町広場には大阪が本店の金平糖の出店があり試食させてくれた。粒の小さな塩金平糖は真ん中に赤穂の塩が入っているとのことで色も綺麗である。透明の小瓶に金平糖を入れ色と☆を愉しみながら、ときに口にほうりこむのがいいな。左向きの左馬は右に出る者がないとの意味があるらしい。福島の相馬焼の紹介で知った。名前に左馬助とか左馬之介などとあるのはそういう思いを込めてつけられたのであろう。相馬焼も不屈の精神で震災から立ち上がられて頑張っておられる。

 

織田信長関連映画・テレビドラマ(2)

  • 織田信長  天下を取ったバカ』、映画は『若き日の信長』、『風雲児 織田信長』三作品は観た時間が経過してしまい記憶の曖昧さが出て来て再度観る必要が生じてしまう。

 

  • テレビドラマ『織田信長 天下を取ったバカ』(1998年/原作・坂口安吾『信長』/織田信長・木村拓哉)。父・信秀とは心が通じていたが、実母・土田御前からは行動の粗野さからうとまれ、母は弟の信行を寵愛し織田家の跡目は信行と決めている。父の突然の死。信長は、ますます疑心暗鬼になり肉親をも信用しなくなるが弟とは心を通わす。そんな中で、一人心許していた教育係りのじい平手政秀が信長をいさめるために自刃する。内だけでなく外にも敵がいる信長は、濃姫の父・斎藤道三との対面にのぞむ。道三は、信長の供の兵の数の配分と衣服を正して舅の自分と会う振る舞いにただのうつけでないことを見抜く。

 

  • 美濃の道三に認められながら身内の弟を殺さなければならぬ運命を、信長は変えることができなかった。若くして内と外に敵のいる環境に生まれ、優れた軍略家信長の悲哀と爆発の基盤の時期である。桶狭間で今川を倒す前の信長の若き日の姿であり、信長役の木村拓哉さんの年代との合わせ方が功を奏している。原作が坂口安吾さんというのが目をひく。『桜の森の満開の下』『夜長姫と耳男』を書いた坂口安吾さんの信長の歴史小説である。原作と脚本(井上由美子)の相違を探りたくなる。

 

  • 映画『若き日の信長』(1959年/監督・森一生/原作・大佛次郎/織田信長・市川雷蔵)。モノクロである。映画的には市川雷蔵さんはモノクロが似合う俳優さんで森一生監督なのでかえって面白く観れた。歌舞伎『若き日の信長』の初演は1952年である。織田の家臣日高城主・山口左馬之助は、娘・弥生を信長の清洲城に人質として送るが今川義元と手を結でいる。映画ではここから始まるので弥生の立場がよくわかった。ここでの信長はうつけだけではなく、山口左馬之助の文字を真似させ、左馬之助が今川を裏切るニセ手紙が今川に渡るように仕組む。今川はニセ手紙に踊らされ左馬之助を斬ってしまう。信長は弥生に温情の眼差しをなげつつ、同時に自分の冷徹さに目をむけている。

 

  • 父が信長をいさめるため自刃したことから、信長に仕えながらも混乱してしまう平手政秀の三男・甚三郎(二代目白鸚)。織田家では信長の弟・信行を擁立しようと林美作守が策謀しており、信長に恨みを持つ小萩を弥生の世話係とする。その小萩に恋する若き甚三郎。信長は孤立しつつも全てに目を凝らし手をうち林美作守を逆臣として討ち果たし、信長は弥生の鼓で幸若の「敦盛」を舞い桶狭間へ馬を走らす。もちろん平手の三兄弟も後に続く。映画前半では白鸚さんも「敦盛」を舞う。雷蔵さんらしい派手さを抑えた術策権謀家の信長を見せる作品である。

 

  • 歌舞伎の『若き日の信長』は、2015年に海老蔵さんが信長、左團次さんが平手政秀、孝太郎さんが弥生、松緑さんが藤吉郎で上演している。わかりやすいようでいて難しい作品であると思った。うつけの信長が観る者の周知のことなので、芝居の出にこのうつけは何をやらかしてくれるのかという期待もある。その観客の気持ちをどう運んでくれるのか。海老蔵さんの信長の完成度は次に期待している。

 

  • 映画『風雲児 織田信長』(1959年/監督・河野寿一/原作・山岡荘八『織田信長』/織田信長・中村錦之助)。1955年に河野寿一監督は『紅顔の若武者 織田信長』をモノクロで撮っている。原作も山岡荘八さんの作品で重要な配役も同じです。織田信長・中村錦之助さん、平手政秀・月形龍之介さん、斎藤道三・進藤英太郎さんで残念ながら観ていませんが、この組み合わせは『風雲児 織田信長』でも光っていますからもう一度と思ったのでしょうか。月形龍之介さんのあの独特の声の台詞が、信長を想う気持ちを奥深く抑えているのが伝わる。左團次さんの平手もよかった。

 

  • 平手政秀は信長をいさめての自刃だが、この映画では信長が平手の手腕に甘えていて自分は放蕩していても大丈夫なのだという気持ちが信長の中にあるのを知って自分は消えることを決意。父が亡くなり、自分を支えてくれていた平手が亡くなりその悲嘆が大きな山場だが、もう一人味方がいました。濃姫です。香川京子さんの濃姫が賢い。平手の死は、信長に斎藤道三に一人立ち向かう機会を作ったことになり、衣服を正しての信長の押し出しは、さすがスターとおもわせる。娯楽時代劇のよさを加味して見せ場を楽しませる映画である。今川義元との戦いも、古きを破る新しい風を感じさせる。

 

  • 錦之助さんの映画で『反逆児』というのがある。ずーっとこれも信長を主人公にした映画と思っていた。同じような映画をまた撮ったのかと手にしなかったが、この際と手にしたら信長ではなく、家康の子・信康が主人公であった。これがなかなか面白かった。

 

  • 映画『反逆児』(1961年/監督・脚本・伊藤大輔/原作・大佛次郎の戯曲『築山殿始末』。主人公の中村錦之助(萬屋錦之介)は、家康の嫡子・松平信康の役で、織田信長は月形龍之介さんである。家康の正室で信康の母である築山殿は今川義元の血を引き、今川の人質として家康と結婚する。子の信康は、信長の娘・徳姫と結婚する。築山殿にとって、今川を倒した信長など認められず当然、徳姫のことも気に入らない。今川の血をもう一度と願っている。

 

  • 信康は戦にも長けていて、戦勝の宴の場で、舅・信長に請われてひとさし舞う。それが、信長が好む小唄の「死のうは一定 しのぶ草には何をしょうぞ」を、若い者には若い者の歌があるとして、替え歌にする。男は「死のうは一定 ただひとすじに死するばかりぞまことなりける われおのこよ」で、女は「生きるも一定 ただひとすじに恋するのみぞまことなりけり われおみなえや」と唄い舞う。ところが、この唄とは反対に、信康は、自刃することとなり、徳姫の想いは信長とすれ違い父・信長に訴状を送る結果となってしまう。

 

  • 信長は娘徳姫の訴状などよりも、信康が自分に似てい過ぎると若き芽を摘むのである。今川の血を引く築山殿が武田家と通じていた疑惑を、家康の家臣は信長の前で簡単に認めてしまい、家康の迷う気持ちをわかっていて築山殿と信康の命を絶たせるのである。信長の娘徳姫と今川の血の築山殿の確執など、複雑な人間関係の中にあっても、自分の力で未来を切り開いていけると何の疑いもなく才気を発揮する信康。若々しい力にみなぎって前にすすむまぶしいくらいの錦之助さんの信康である。

 

  • 家康が佐野周二さん、築山殿が杉村春子さん、徳姫が岩崎加根子さんで、このあたりを時代劇スターにしなかったところが、壁に囲まれた信康の無念さが映し出される。最後に上手く介錯できない信康を慕う家臣に「あわてるな」と声をかけ腹をみせ、信長が芽を摘みたかった冷徹な眼のたしかさを想わせる信康の最後である。(天正7年)

 

  • 獅童さんが初代錦之助さんの十三回忌に大阪松竹座で『反逆児』を演じられていたのを近頃知る。映画『反逆児』を観て、もし、初代錦之助さんが歌舞伎を続けていたなら、荒事も似合う役者さんになったのではとふっと思う。新春浅草歌舞伎の『義経千本桜 鳥居前』では、隼人さんが狐忠信の荒事をやり、これが似合っていた。タイプとして違うのではと思っていたので驚き。二代目錦之助さんが『操三番叟』の翁では、品があり年代を感じる。我當さんの風格ある翁も浮かび、二月歌舞伎座では、お元気なお姿を舞台で観られ嬉しかった。

 

  • そろそろ、新幸四郎さんの染五郎時代の、信長関連映像にいきますか。その前に、信康のお墓は遠州二俣城址、清龍寺内にあるが、信康関係が東京にもあった。東京の日本庭園の紹介冊子を見ていたら、最後に『京王百草園(けいおうもぐさえん)』が載っていて、行っていないなあと眺めていたら「江戸時代の享保年間(1716年~)、小田原城主大久保候の室であった寿昌院慈岳元長尼が徳川家康の長男・信康追悼のため当地に松連寺を再建しました。その後、時代を経てつくられたのが京王百草園です。」と。さらに信康の妹・亀姫が「宇都宮城釣天井事件」の黒幕だったという説もある。