歌舞伎巡業公演『獨道中五十三驛』映画『超高速!参勤交代』

猿之助さんと巳之助さんダブルキャストの『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』の巡業公演が埼玉県の入間市市民会館から始まりました。

この演目を巡業で、さらにダブルキャストで、さらにそのひとつを受け持つのが巳之助さんでと少し心配なのと、猿之助さんがこれをどう仕切るのか興味津々でもありました。

観たのはAプロのほうで、巳之助さんが十三役早変わりで、早変わりのたびに大きな拍手があり気持ちよかったです。巳之助さんを激励する意味を含んだ拍手だったとおもいます。もちろんこちらも拍手しつつ一役一役確認するように観ていましたが、巳之助さんは芝居に入り込んで下半身もしっかり安定させ声も出ていました。

歌舞伎座などでの赤っつらの役の時なども誰なのかと思うほど大きな声を出していましたから、意識して声をだすようにされていたのでしょう。この巡業での経験がなにかの形で身体に残るのではないでしょうか。

役者さんもそうですが、裏方さんも大変なことです。入間市民会館はかなり年数を経た建物で、楽屋裏が広いとはおもえませんので、あれだけの道具をよくスムーズにだせたとおもいます。そして背景幕の降ろし、宙乗りと、これだけの舞台装置は地方ではなかなか観れないと思います。

前半は岡崎の古寺での化け猫の場が見せ所で、Aプロでは宙乗りは猿之助さんです。後半の小田原からの浄瑠璃お半・長吉『写書東驛路(うつしがきあずまのうまやじ)』は巳之助さんの早変わりと同時にどんどんどんどん宿場が進んで行き背景も変わります。

昼の部よりも息が合ってきたという弥次さん(猿三郎)と喜多さん(喜猿)は、その速さにまけてはならじとお先にと江戸をめざして行ってしまいました。

そして紛失した九重の印も、由留木家にもどり、めでたしめでたしと無事終わりました。最後は、裃姿の猿之助さんが今日はこれにてと幕となります。休憩をいれて2時間35分という超高速でしたがよく収め切ったものです。

人使いが荒いとぼやく最高齢の寿猿さんをはじめ、笑也さん、笑三郎さん、春猿さん、猿弥さん、門之助さんの息の合った澤瀉屋一門のチームワークのよさの巡業公演です。

入間市民会館での初日は温かい拍手のなかでおわり、気持ちよく観劇できました。

この超高速に、そうだ映画『超高速!参勤交代』を観て見ようと思い立ちました。今映画館でやっているのは『超高速!参勤交代リターンズ』ですが、遅れていますが前作のほうです。

こちらは東海道ではなく、今の福島県のいわき市から江戸までですから奥州街道ということになるのでしょうか。湯長谷藩に参勤交代から帰ったばかりなのに、幕府から再度5日で江戸に参勤するようにとのお達しがとどきます。

民を想う優しいお殿様で、今回の参勤交代でお金は底をついているのにどうすればよいのか。知恵をだす家老、武勇に優れた家来などの結束によって、難関を突破します。虐げられたものが勝つという最後はめでたしめでたしの痛快時代劇で、次はどう乗り切るのかとそのアイデアを楽しめる作品です。

スパー歌舞伎Ⅱ『空ヲ刻む者』に参加した佐々木蔵ノ介さんが気が弱そうでいて情があり家来を信頼するお殿様で、猿之助さんが徳川吉宗になって出ております。悪役老中の陣内孝則さんが悪役を一気に引き受け、悪役系の石橋蓮司さんが良いほうの老中で画面を締めています。

正規のルートの街道をいったのでは間に合わないと大きな宿場だけは人を集めて行列で通り、あとはひたすら走ります。勧善懲悪ものですから突っ込みはなしで、気楽にたのしむのが前提です。

水戸の斉昭公は若い藩士を、水戸八景の景勝地役80キロを一日一巡させて鍛錬させたというような話もありますから、そこまでしなくても、藩の存続にかかわればこの映画に近い力は実際に発揮できたのかもしれません。

監督・本木克英/脚本・土橋章宏/他の出演・深田恭子、伊原剛志、寺脇康文、上地雄輔、知念侑季、柄本時生、六角精児、神戸浩、西村雅彦