劇団民藝公演『篦棒(べらぼう)』

<篦棒>(べらぼう)と読み、はじめて見る漢字で眺めていてもすご~く難しい題名です。1980年代からの現在までの経済のながれも関係しているらしく多少気を重くして観にいったのです。

役者さんの一人が「べらぼう!」と発して気がつきました。その<箆棒>だったのかとあっけにとられました。

辞書によりますと次のようありました。 ①ばかげたさま ②はなはだしいさま 例文「べらぼうに寒い」

「べらぼうめ!」です。

「べらぼう!」の台詞を発した舞台の人物はフレチレストランを始め、それを大きく大きく飲食店グループにまでするのですが、お金の問題、家族の亀裂などがありそれも乗り越え、そこに待っていたものはといった流れですが、きちんとそれを取り巻く社会状況の動きも分かるようになっています。

「べらぼう!」の奥さんの大友凛さんが、夫である大友信勝さんとの出会いから語りはじめます。そして、大友家の応接間兼居間のリビングルームだけの場所で、大友家の人間関係から経済の流れから震災も含めてどう人々が生きてきたのかがわかるようになっています。

大きな動きが実は小さな場所で渦巻いていたのです。そして当然それは大きな渦へとつながっているのです。中津留章仁さん作、演出の『箆棒』は気が重くなるどころか、次はどうなるのかとその展開に舞台上の人々と同じように驚きとこの家族はどうなるのであろうかと好奇心いっぱいで引きつけられていました。

家族だけではなく、事業をし経営するということはどいうことなのか。震災に対し企業や東京に住む人々は本当に真摯に向き合っていたのか、消費するということに思考は必要ないのかというような疑問符がピッピッと弾けていきます。

ごく日常的な会話のなかで、それらが垣間見えてくるのです。ではそのことについて討論しましょうではなく、こういう問題は日常の当たり前の場所でも派生しているのだということが披露されています。

こういう考えの人いますいます。役者さんたちの技量もそなわり、日常のあちこちにいる普通の人々が会話しているように抵抗なく受け入れられ、芝居の流れの思いがけない展開が、芝居に弾みを加えてくれます。

現代を時間差なく展開する中津留章仁さんの作品と劇団民藝の役者さん、特に樫山文枝さんの役をさらに役者を浮き彫りにするかたちとなりました。夫の信勝に意見できるのは妻である凛がもっともふさわしく、その静かながらあきらめの中からうまれた自信に充ちた立ち居振る舞いの樫山さんにその力がありました。

2時間55分。約3時間。全然長いと思いませんでした。

日本の自殺者の数が世界で上位にあるということは悲しいことです。べらぼうめ!

作・演出・中津留章仁/出演者・樫山文枝、西川明、齋藤尊史、飯野遠、みやざこ夏穂、神保有輝美、河野しずか、桜井明美、境賢一、小杉勇二、白石珠江、山梨光國、松田史朗、竹内照夫、山本哲也、吉田陽子、吉田正朗、竹本瞳子

紀伊國屋サザンシアター 9月28日~10月9日(日)

書いていない『二人だけの芝居 クレアとフェリース』『炭鉱の絵描きたち』についても少し。

『二人だけの芝居 クレアとクレアとフェリース』は奈良岡朋子さんと岡本健一さんの題名のごとき二人芝居でした。女優である姉のクレアと劇団を率いる作家でもあり俳優でもある弟のフェリースが、劇団員には逃げられ、劇場に閉じ込められてしまいます。とにかく二人だけでも芝居をしようと練習をはじめるのですが、クレアがなんだかんだと文句を言い始め、幼い頃の話しなどをもちだします。

フェリースは姉に翻弄されないように姉に合わせ、何とか芝居の練習に集中させようとします。その経過のなかで、この二人には、芝居の台詞の中にしか二人をつなぐ言葉がないように思えてきました。もう芝居などやりたくはない文句をいう姉は、やはり芝居の台詞をしゃべりたがって、いやなはずなのにそれしかないのです。そこにまたもどってしまうのです。フェリースは姉を安息させ、自分もその中で安息できるのはお互いが芝居の台詞の中と気がついていて、いつまでもふたりだけの芝居がつづくようにおもわれました。

考えても結論はでないであろうと途中からは、こういう動きをするのか、こういう台詞のいいかたをするのかとお二人のせりふと動きを楽しんでいました。

作・テネシー・ウイリアムズ/訳・演出・丹野郁弓/出演・奈良岡朋子・岡本健一

『炭鉱の絵描きたち』はイギリスの炭鉱に文化部のようなものができて美術を学ぼうというので美術の先生がきて講義をしてくれるのであるが、全然わからないので実際に絵を描こうということになります。

ここで絵の才能を見出される人もいて、展覧会も開かれ、埋もれていたものは石炭だけではなかったということですが、今まで知らなかった世界をみてどんどん楽しくなる明るさがほしかったです。イギリスということもあり、遠さがあり身近にせまってこなかったのが残念です。

映画の『リトル・ダンサー』の作家の作品でもありますが、『リトル・ダンサー』の少年が、ラストでマシュー・ボーン振付の「白鳥の湖」の主役になっていたという驚くべき感動があったので、『炭鉱の絵描きたち』のほうは地味すぎる舞台に思えてしまったとおもわれます。

作・リー・ホール/訳・丹野郁弓/演出・兒玉康策/出演・安田正利、境賢一、杉本幸次、和田啓作、横島亘、神敏将、新澤泉、細川ひさよ、伊藤聡