『梅笑會』(第二回)

ヒップホップ文化にしばらく触れていたので、気分を変えて日本の芸能へ。『梅笑會』は中村芝のぶさんと市川笑野さんの二人会である。歌舞伎役者さんの個人的な会の観劇は初めてである。諏訪湖と諏訪大社に関連した演目の構成で観たいと思わせてくれた。観ておいて良かった。

芝のぶさんも笑野さんも歌舞伎の舞台では脇をつとめておられ、こんなに華のあるかたであったのかと驚いてしまった。諏訪大明神のバックアップがあったのかもしれない。神様だけではなくこの舞台にたずさわられた方々の人の技というものが一つになって作り上げたと言う意気込みをしっかり感じとることができた。

ゲストは尾上右近さんで、最初の出し物の清元『四季三葉草』では、素踊りの三番叟である。女方の品のある翁の芝のぶさんとあでやかな千歳の笑野さんの中に入って見た目にも新鮮であった。清元なのでお兄さんの斎寿さんも三味線を担当されていておごそかな中にホットな雰囲気も感じられた。演者と音楽が日本の伝統芸能を高めていった要因でもある。そして、舞台装置や小道具なども。

次の演目は諏訪2題の一つ、鼓舞『タケミナカタ』。長野県岡谷市出身の笑野さんが諏訪大社の御祭神・タケミナカタを題材に構成、演出、主演である。鼓舞とは太鼓をたたいて舞うということで、岡谷太鼓保存会の方々と諏訪大社木遣り衆が参加される。

タケミナカタは国譲りの神話に出てきて、オオクニヌシの二子である。力くらべでアマテラスからつかわされたタケミカヅチに負け諏訪湖まで逃れてくる。タケミナカタは先にそこをおさめていたモレヤノミコトを服従させたことにより、諏訪大社の祭神となる。

右近さんは諏訪明神の使いとして口上をのべる。『風の中のナウシカ』での前篇で口上をされていたが、『タケミナカタ』ほうが短時間でのややこしい神話の解説なので慎重に見えた。解らなかった観客は渡されたパンフの解説でさらに補充できた。

笑野さんは、巫女では、岡谷太鼓の会の演奏に合わせ華麗に舞い、諏訪大社木遣り衆のたくましい美声の後には勇壮なタケミナカタとして舞う。古典芸能の調和に満ちた融合であった。

最後の諏訪二題は、義太夫『本朝廿四孝ー奥庭狐火の段』である。歌舞伎三姫の一つ八重垣姫に芝のぶさんがいどむ。『奥殿狐火の段』は狐火に導かれ、氷の張った諏訪湖を渡って許婚の勝頼に危険を知らせるという激しさと愛らしさを持つ姫の内面と行動を現わす場面である。

パンフに、諏訪湖の御神渡り(おみわたり)の伝説から生まれた筋とある。諏訪大社上社の男神が下社の女神のもとに通う足跡で、湖面の氷が三尺ほど一直線に盛り上がるのだそうである。私の中では、姫ということもあり、スケートのようにすーっと滑るように進むイメージである。

狐火ということで、最初に神の使いの白い狐が現れる。人形の白狐でそれを操るのが右近さんで白狐の残像を残してくれる。八重垣姫を行かせまいと力者(中村福緒、坂東やゑ亮)がさえぎるが、姫の勝頼を想う心情は何者にも負けなかった。さらに諏訪法性の兜を手にしているのであるから。

素晴らしい構成であった。芝のぶさんと笑野さん、かなりのハードルを見事に越えられた。第三回は第二回のハードルより高くするのであろうから、なかなか大変であるが期待が持てる。

諏訪湖や諏訪大社下社春宮と秋宮には行ったことがあるが上社のほうは行っていない。行った時からかなり年数がたってしまって、社のイメージが湧いてこない。その時、大きなお風呂も観たなと調べたら『片倉館』の千人風呂であった。今は千人風呂に入浴もできるようで、休憩所や食堂もある。見学した時は殺風景なイメージがあったが、時代とともに変わったようである。次に寄った北澤美術館も健在である。

皇女和宮の降嫁の際に使われた本陣岩波家など見どころの多い場所でもある。岡本太郎氏が絶賛して有名になった万治の石仏にはまだお目にかかっていない。お会いしたいものである。浅草から諏訪湖まで飛ばせてもらった。第三回はどこに飛ばせてくれるであろうか。