12月歌舞伎座『新版 伊達の十役』(2)

とにかくチームワークがいいです。安心して観ていられました。

普通であれば幕開きは腰元たちがいて状況を説明しつつ会話をするということでしょうが、短縮ですので局・沖の井の笑也さんと局・松島の笑三郎さんが座られていて、一気に事の重大さを感じさせ二人の心構えもみせてくれます。

そうした中での猿之助さんの政岡の登場。きりっとしています。

1986年には右團次(右近)さんと笑也さんはともに高尾付きの新造でした。小米時代の門之助さんが沖の井で先代の門之助さんと共演されているという珍しい舞台映像です。松島が錦之助さんで信二郎時代です。見間違いでなければ笑三郎さんが腰元で出られています。

腰元ですが、栄御前がお見舞いに来たことを告げるのが腰元・澄の江の玉太郎さん。政岡に皆に知らせるようにと言われ舞台を横切りますが、いい姿と動きです。お姫様役では解らなかった女形のうごきです。

米吉さん、新悟さん、玉太郎さんのリレーインスタライブで、米吉さん、新悟さんは澄の江を経験済みで奥殿は特殊な状況なのですごく緊張したと言われていました。新悟さんが腰元の立場で演じるようにと教えられたそうで、そのことが頭にありました。

腰元は本来、状況にすぐ対応できる立場にいるわけです。そのリアルさ、心構え、敏捷さなど、その場その場で臨機応変に美しく表現できる身体能力が必要とするわけです。だからといってわさわさしていては美しくありません。注目してしまいました。

長刀を持った時の緊張感とその形など。笑野さんの長刀の構えが美しかったです。友人は栄御前についてお菓子をもってきた腰元がよかったといっていました。どなたでしょうか。

玉太郎さんはネズミもやっております。ネズミが化けた若衆姿で三浦屋の女房の猿之助さんと踊ります。猿之助さんと対でこんなに軽やかに踊れることに驚きました。三浦屋女房のゆとりにどちらが遊ばれているのかわからない雰囲気で観ているほうを愉しませてくれました。ネズミさんの着物の文字にもご注目。

着ぐるみのネズミさんの動きも抜群でした。いつもは荒獅子男之助がネズミを踏み押さえているのですが、今回は松ヶ枝節之助でした。初めて聞く役なんです。男之助よりも若々しくきらびやかで猿之助さんにあっていました。文楽では松ヶ枝節之助のようです。

吉右衛門さんが本(『物語リ』)のなかでとんぼのことを書かれていて、30歳すぎまでよくとんぼをやっていたそうです。着ぐるみをかぶってネズミになったことも書かれています。おじさんである十七代目勘三郎さんの舞踏『鳥羽絵(とばえ)』にネズミで出たとき、頭までかぶると頭が重く高くなり、とんぼを切るのが難しいので、顔は出してお化粧をして出たそうです。

今回のネズミさんはそんな難しさを感じさせない動きで、猿之助さんの出番までの楽しい時間を作ってくれました。このネズミの動きで、巨大ネズミとなるのが納得いきます。それぐらいのことはやりそうです。

このネズミさんはどなただったのでしょうか。先月の間者さんかな。先月のとんぼをきる瞬間見逃しているのです。歌昇さんと尾上右近さんの演技に気をとられていて、猿之助さんが当身か何かをしてやっつけるのであろうと思いましたが、立ち上がって消える姿をチラッとみましたがとんぼはみれませんでした。女形でのとんぼです。見逃して残念。

さて栄御前は中車さんです。出に貫禄があります。希望を言えば舞台に上がって客席に向って立つときもう半呼吸じっと立っていただきたかった。歌舞伎の衣装は格を出してくれる役目もしてくれます。裾が富士山のように美しく開いていてその白が立つ人の大きさをあらわしてもくれるのです。そういうものまでも利用することによってより効果を生みます。

お菓子を拒む政岡との対決は面白かったです。栄御前は自分の権力を知っている底意地の悪い典型です。

一方巳之助さんの八汐の憎々しさは、もろに表面にだせる役どころです。仁木弾正の妹だけあります。忠義な千松の市川右近さんがかわいそうでした。それがお芝居のねらいですが。

追記: 玉太郎さんのインスタで、ネズミの着ぐるみの役者さんが判明。尾上まつ虫さんでした。名コンビ!! 名変身かな。