12月歌舞伎座『新版 伊達の十役』(1)

イノシシに追い出されたらネズミの妖術につかまりました。

1986年に歌舞伎座にて収録されたDVD『伊達の十役』(歌舞伎名作撰)を観直して予習しておいたのですが、DVDでは3時間のものを今回は1時間50分という短縮で、まさしく『新版 伊達の十役』です。

ということでDVDのほうは人間関係だけを頭に入れておいて、新たに楽しむことにしました。実際に楽しめました。

伊達騒動を題材にしていて鶴屋南北さんが原作ですが、ほとんど台本が残っておらず、猿翁さんが猿之助時代に創作したものです。外題は『慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)』で通称『伊達の十役』といいます。十役早替わりで勤めるからでしょう。

先月は若手歌舞伎役者さんたちの顔見勢でしたが、今月は猿之助さんが紅葉のように顔を真っ赤にしてお見せしますということなのですが、表面上は涼しいお顔で早替りされていました。

時間短縮のため、前半は芝居じっくり、後半は『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』での早替り舞踏を取り入れたのだそうで、この時期ならではの構成の組み立ての発想には今月も感心しました。

この条件ではできないとあきらめないで、ではこうしましょうと切り替えの早いのは当代の猿之助術です。

前半で乳母・政岡、仁木弾正、松ヶ枝節之助の三役で、後半の舞踊は絹川与右衛門、足利頼兼、三浦屋女房、土手の道哲、高尾太夫の霊、腰元・累、仁木弾正、細川勝元で仁木弾正が重なっていますから全部で十役です。全て優劣なくこなされていました。

段取りが整い、これから気持ちの上での起伏が出てきてさらなる変化がでてきそうです。

足利家の奥殿では若君・鶴千代がお家乗っ取りのために暗殺される危険があり乳母・政岡と政岡の子・千松が若君を守っています。沖の井と松島の差し上げる食事にも手を付けさせません。

仁木弾正一味の魔の手はのび、毒入りのお菓子が栄御前からもたらされます。それを千松は毒味のために食べて若君の命を守るのです。ところが毒が入っていたのがバレては困ると、弾正の妹・八汐が千松をなぶり殺しにします。

それを見ていた栄御前は、実の子がこんな目に合えば動揺するであろうはずなのに、政岡が冷静さを保っているので、鶴千代と千松を取り替えていたのだと錯覚し、政岡を仲間と認め連判状を渡します。悪人一味があきらかになったわけです。

皆が引き揚げた後、政岡は千松の遺体によくやったと褒めながら押さえていた母としての悲嘆をようやくあらわします。

それを知った八汐が政岡に切りかかりますが、政岡は八汐を討ち千松の恨みをはらします。しかし連判状はネズミに持ち去られてしまいます。

このネズミを取り押さえたのが、松ヶ枝節之助です。ネズミは節之助から逃れます。弾正はネズミの妖術を会得していたのです。ネズミから姿を変え花道のすっぽんから仁木弾正が現れゆうゆうと去っていきます。いつもであれば宙乗りの場面です。

ここから後半の弾正の悪だくみをどうやってやっつけるかが踊りを交えて展開されていくのです。それも大磯から鎌倉までという移動のなかで行われます。その案内役が尼の妙珍と妙林ですが途中で大山にいってしまうといういい加減さです。

というわけで二人にならってここからは話の筋はやめて役者さんの役柄の感想などに切り替えたいとおもいますが、上手くまとまりますかどうか心もとないです。