映画館「銀座シネパトス」有終の美 (9) 「如何なる星の下に」「銀座の恋人たち」

「如何なる星の下に」(1962年)

監督・豊田四郎/原作・高見順/脚本・八住利雄/撮影・岡崎宏三/美術・伊藤熹朔

出演・山本富士子、池部良、加東大介、三益愛子、乙羽信子、植木等、池内淳子、大空真弓、森繁久彌

スタッフの字幕に撮影の岡崎宏三さんと美術の伊藤熹朔さんの名前を見つける。見る目が違ってくる。伊藤さんは新劇や映画の舞台で活躍していた方で、 腕に抱え込んだ継続 (2013年1月1日)に出てくる小村雪岱さんが古典的仕事をしていた頃、伊藤さんは現代的仕事をされていた。演劇人の千田是也さんのお兄さんで幅広く活動されていた。<寅さん記念館>で美術という仕事はセットの全体図を把握して描き、それに基づいて大道具さん小道具さんが作り上げていくのだそうである。

タイトル字幕の川面の映像から目が離せなくなり、山本富士子さんが切り盛りしているおでん屋のセットの隅々までが気になってしまった。少し開いていた襖が閉められると、すうーっと閉められた襖を右にした部屋の映像となったり、お店のカウンターをお客側から映していたのが調理場の入り口から縄暖簾越しに映したりと手が込んでいる。

山本さんが池部さんをお店から上がれる部屋に、お店の入り口ではない調理場を右手にした入り口から入らせる。その時はお客としてではない特別の意味合いがあるわけで上手く使っている。そして、その部屋の隣には、右半身不随の父親(加東大介)と酒乱の母親(三益愛子)がいる。その前からこの両親と家族に縛られていた主人公・山本は一層負担が大きくなり、池部に微かな期待をするのであるが、池部はその現実を受け入れることが出来ず、涙の横顔を見せるだけである。その時の山本さんが凄い。「あんた帰んなさい。」それまで嬉しそうに浮き立っていた彼女の変化。お見事である。役としても役者としても。山本富士子さんは単なる美人女優ではない。身体の中を流れている血のその時その時の流れの状態を表現できる役者さんである。

汚れた川の前に立っていても、綺麗な川の前に立っていてもその現実から目をそらさずみつめられるヒロインである。それゆえに美しさも際立つのである。ラスト雪がうっすらと積もり、池部さんは黙って肩を落とし立ち去る。こういうダメ男でも池部さんの場合はどういうわけか絵になるのである。芸人崩れの父親。その場を調子よく乗り換える男(植木等)。手の込んだ騙しかたを見せる山本さんの元夫・森繁久彌さん。役者も揃っている。

佃の渡し、佃島、日劇、銀座の喫茶店、夜の三吉橋周辺、その近くのホテル等監督が残して置きたかった当時の街の様子もしっかり捉えている。この映画は銀座シネパトスで2回見た事になる。

「銀座の恋人たち」(1961年)

監督・千葉泰樹/脚本・井手俊郎/出演・団令子、草笛光子、原知佐子、宝田明、三橋達也、小泉博、加山雄三、水原弘

銀座の洋品店、喫茶店、小料理屋の二代目世代の恋愛劇である。上手く収まっていたと思ったら、一つ壊れると次々崩壊して行き、別々の結びつきが出来上がり、目出度しめでたしのハッピーエンドである。銀座っ子らしく皆お洒落な大人である。店が閉まると住居は別で車に乗り合わせてアパートや自宅へ帰る。小料理屋さんなどの使用人さんはお店に泊まるところがあるのか、夜遅くまでお店の前の道路でキャッチボールなどを楽しんでいる。キャッチボールのごとく軽い明朗映画である。

柴又・寅さんの旅

「寅さん記念館」が出来てから一度も訪れていなかったので柴又へ寅さんに会いに行く。京成高砂駅で京成金町行きに乗り換え一駅で京成柴又駅である。駅前で寅さん像に迎えられ帝釈天参堂のお団子屋さんなどお店を眺めて歩くとすぐ帝釈天願経寺に到達する。

今回驚いたのはお寺(帝釈堂)の建物に彫られている彫刻一群がさらなる透明ガラスの建物で蔽われ、雨風に晒されること無くそばで見れるようになっていたのである。彫刻の高さまで階段ができ近くから細かい部分まで鑑賞できるのである。「彫刻ギャラリー」と銘打ち有料であるが面白い試みである。一周見終わると回廊を渡りお庭拝見となる。暖かいので黄色の小さな蝶々が楽しそうに遊んでいる。

お寺を抜け山本亭へ。地元ゆかりの山本工場(カメラ部品製造)の創立者が建てられた書院造と洋風建築の和洋折衷の建物であるがそこを通り過ぎ、江戸川の土手に向かう。途中、さくらさんの住んでいそうな場所を通る。たんぽぽや芝桜がちらちら目に映る。長閑である。遠くに鉄橋が見え電車が気持ち良さそうにすうーっと動いていく。矢切の渡しは一度舟で渡ったことがある。向こう岸から「野菊の墓」の舞台を歩いたのである。1955年木下恵介監督の映画「野菊の如き君なりき」(回想シーンを楕円型にトリミングしてあった)を思い起こす。

「寅さん記念館」は美術・大道具・小道具さんやメイク、衣裳さんの仕事の小さな映像もあり参考になった。くるまやの撮影スタジオでは、お店と皆が食事をする部屋の間に階段があり寅さんの二階の部屋の隣にもう一部屋ある。この階段は映画では解からなかった。台所から寅さんが上がる階段だけだと思っていた。映像など見ていたら結構時間がかかる。寅さんのグッズ売り場で、雑誌を発見。「旅と鉄道」(寅さんの鉄道旅)鉄道好きの山田監督と川本三郎さんの対談あり。ゲット! 「山田洋次ミュージアム」では寅さん以外の山田監督の世界が。

時間切れで山本亭はパス。観光地で写真を撮っている人がいるとちょっと避けてしまう。一番良い位置で撮りたいのはわかるが、占領されてしまうと周囲が興ざめする事もある。せっかくの旅の風景の流れが悪くなるときがある。ツアーの時などは、目の付くカップルやグループは避ける。そうでない時は親切気取りでさっさと写してあげるのである。お寺の庭などではボーっとしていたいのに動きまわられるとガクッとなる。時間差でなるべく避けるのであるが。