柿葺落四月大歌舞伎 (四)

【第二部】 二、忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの) <将門>

平将門は実際に登場しないが、将門を中心に据え、それにまつわる常磐津の舞踏劇である。この演目は観た印象が薄く、暗くて重いという印象が残っている。今回は常磐津の詞だけは目を通しておいた。

花道スッポンから玉三郎さんの傾城如月が上がってくる。指し照らされるロウソクの灯りがなんとも如月の怪しい色香を撒き散らす。髪の大きなくしかんざしがロウソクの灯りによって顔に影となり、それが遠目には髪が乱れて顔にかかっている様に見え、如月の心の内の複雑さを表しているようで妖艶でもある。実はこの傾城如月は将門の娘の滝夜叉姫で彼女は蝦蟇(がま)の妖術を使うのである。

大宅太郎光圀(松緑)は将門が住んでいた相馬の古い御所に不審を抱きやってくるが、そこでまどろんでしまう。目を覚ました光圀は如月に怪しいと思うが如月は、<嵯峨や御室の花盛り 浮気な蝶も色かせぐ 廓の者に連れられて 外めずらしき嵐山>そこであなたを見染めて追ってきたとクドクのである。

光圀はわざと将門の最期の戦話をする。松緑さんの見せ場である。もう少し大きさが欲しい。同年代の方たちではなく玉三郎さんが相手となるとどうしても小さく見える。玉三郎さんは最初は若手の方に合わせるが、その次からは玉三郎さんの位置まで上がるように要求するように思える。玉三郎さんと組める嬉しさと同時に苦しさも皆さん味わっておられると推測する。

将門の話に如月が涙するのを見咎めた光圀をそらして、如月は廓話をする。話の途中で如月は相馬錦の旗を落とし、二人で取り合いとなるが如月はついに将門の娘滝夜叉姫の正体を現す。そして蝦蟇の妖術を使い古御所が崩れ(屋台崩し)大屋根の上に大蝦蟇と滝夜叉姫が姿を現し赤旗を翻す。これは、出の花道で白い巻紙の手紙を手に舞うのとは対称的で光圀を油断させ仲間にしようとしての白旗にも思える。それが赤旗で光圀との対峙で終わるあたり上手く出来ている。常磐津の詞を頭に入れてもう一度観てみたい。

平将門を小説で読んでからと思ったが時間が無く進まない。平清盛の前であり、将門の頃は藤原時平と菅原道真との政略争いの後である。将門の最期はこれから自分で読み進めるとする。

東京の大手町のビルの間に将門の首塚があるという。将門の首は京で晒され、その3日目に故郷に向かい空を飛びここに落ちたという事らしい。

これは首塚というより将門塚で平将門公の御首(みしるし)をお祀りする墳墓であるらしく、将門公の所縁者たちにより、この地に納められ墳墓が築かれたそうだ。ここは神田明神創建の地でもあり、色々な経緯から神田明神が将門公を合祀し、江戸時代になって神田明神が現在の地に移る時、墳墓はそのままにして毎年9月の彼岸には将門塚例祭をこの将門塚で執り行い、神田祭の時には鳳輦・神輿が将門塚に渡御して神事が行われているようである。今年5月には4年振りに神田祭が行われる。