映画監督 ☆川島雄三☆ 『還って来た男』『東京マダムと大阪夫人』(2)

『東京マダムと大阪夫人』は、芦川いづみさんの映画デビュー作品で、川島監督が撮影の高村倉太郎さんと組んだ最初の作品でもある。月丘夢路さんの妹役を松竹少女歌劇に探しにゆき、芦川さんに決まる。高村さんによると「ずいぶん少女歌劇に通いましたよ。それで何日か通ってあの子がいいんじゃないかと目星を立てて彼女を口説いて俳優さんに転向させたんです。」とのこと。

川島監督の映画『純潔革命』で初めて主役をもらった三橋達也さんは、川島監督を「これはただ者ではないな」と思ったのが『東京マダムと大阪夫人』で、ストーリーは覚えてないが川島さんの才能に舌を巻いた記憶があるという。この映画の感じが大船調喜劇だそうで、<大船調喜劇>と言われていた映画があったのを知る。ストーリーは覚えてないと言われているが、確かに退屈な部分がある。そこをリズムと台詞と映像で引っ張て行く。

東京の郊外の社宅でのてんやわんやの話しであるが、場所はあひるヶ丘と名付けられ、奥様達とあひるが交互に映されてその喧しいこと。ところが、社宅はモダンで、隣り合わせの社宅に江戸っ子の奥さんと大阪生まれの奥さんが住んで居る。それが東京マダム(月丘夢路)と大阪夫人(水原真知子)で、マダムはお洒落な洋服に白いフリルのサロンエプロンで、夫人は和服である。二軒長屋形式で庭の境目に洗濯用の水道がある。共有で使うのである。大阪夫人が洗濯機を買ったから大変である。東京夫人もさっそく夫に要求する。

会社では、東京マダムの夫(三橋達也)と大阪夫人の夫(大坂志郎)の机が隣り合わせである。課長宅には電話があり、皆さんその電話を使わせてもらうので、家庭も会社も筒抜け状態である。あひるヶ丘夫人連合の先頭は課長夫人(丹下キヨ子)である。東京マダムのところへマダムの妹・康子(芦川いづみ)が、古い下駄屋の暖簾のために店の職人さんと結婚を決められ嫌で家出してくる。大阪夫人のところへも飛行機乗りのずぼらな弟・八郎(高橋貞二)が来ていて、お互いに好い雰囲気である。

さて、専務社宅もあり、専務夫人は大阪出身で大阪夫人は専務宅へ挨拶に。専務の娘・百々子(北原三枝)は、八郎が気に入り積極的恋愛主義で進む。消極的恋愛主義の康子は諦めて家にもどるが、百々子は八郎が好きなのは康子と知ると、積極的恋愛応援団長として康子と八郎との仲を取り持ってしまう。

課長(多々良純)は栄転で引っ越すこととなり、あひるヶ丘は新しい課長夫人が早くも先頭に立って、あひるの合唱が始まっている。

川島監督は北原三枝さんと芦川いづみさんの持ち味を決定づけた監督でもあるように思える。日活にいってからの北原さんと芦川さんの『風船』の役にしてもそうである。北原さんは常に前進し、芦川さんは一歩引いて芯を見せるといった風である。

川島監督は、高橋貞二さんの操縦するセスナを宙返りさせてくれと要求し、セスナは実際には宙返りできないので、高村さんはキャメラを回転させる手法をとる。川島監督は高村さんに、「おれとおまえの間では“できない”ということは言わない。」と約束させた。そのコンビも川島監督が東宝に移り終わってしまう。

高村さんのところへ川島監督が亡くなる数日前に突然電話があった。『渡り鳥』シリーズをやっている頃で、「お前は最近堕落している」「おまえはああいう作品をやってはダメだ」と言われれる。高村さんは言い返す。「ダメだって言ったって、おれは会社の人間だから会社にいわれればやらざるを得ない。そんなことより、おまえはおれを見捨てて行っちゃったじゃないか。」川島監督の返答。「いや、そうじゃない。次はおまえとやるんだからスケジュールを空けてまってろ。」

高村さんは、ずーっと会っていなかったのに「おまえはダメだ」と警告してくれたのはやっぱりうれしいなと思い、その後も川島監督のお墓参りのときは、「おれはまだ待ってるんだよ」と話しかけると語られた。