加藤健一事務所『女学生とムッシュ・アンリ』

フランスのコメディーである。時間が経ったが書いていなかったので。映画『母と暮らせば』を観て思い出した。

ムッシュ・アンリは老人である。老人のところへ女学生がルームメイトとして住み込むこととなる。アンリ老人の息子・ポールが、一人住まいの父を心配して貸部屋の広告を出したのである。

偏屈で頑固そうなアンリ老人(加藤健一)。女学生・コンスタンス(瀬戸早妃)は、部屋を借りたいとアンリ老人を訪ねて来る。断るアンリ老人。コンスタンスは根本に老人は偏屈で頑固という固定観念があるのであろうか、めげずに食い下がる。ついにアンリ老人は条件を出す。

アンリ老人は息子の嫁・ヴァレリー(加藤忍)が嫌いである。そこで、コンスタンスに息子・ポール(斉藤直樹)を誘惑してくれるならと条件を出す。ポールとヴァレリーの間に亀裂を生じさせ、二人を別れさせたいのである。

最初からとんでもない発想が出てくるものである。

コンスタンスは、躊躇するが、引き受ける。誘惑するふりはするが、それで息子夫婦が別れるかどうかは別の問題としている。コンスタンスが誘惑したとしても、それにポールが誘われるかどうかもわからないのである。

ポールがヴァレリーを伴って食事にくる。舅のアンリ老人が嫁のヴァレリーを気に入らないのはポールもヴァレリーも承知している。何んとか食事の間だけでもとおもうがギクシャクしてしまう。

アンリ老人は、コンスタンスに頼んだことに一層執着し、力を入れ、息子の好きなものを教える。

コンスタンスは、ポールの好きな物を有効に使い、ポールは偶然にも自分と同じ好みの女性として、少し心惹かれたようである。喜ぶアンリ老人。

アンリ老人の妻が弾いたピアノがあるが、ピアノの蓋を開けさせない。奥さんは、お酒を飲み窓から転落していたのである。ピアノによって奥さんの思い出にふれるのがいやだったのである。

コンスタンスは本当は音楽関係の学校に行きたいのであるが、父に反対され違う方向に進もうとしていた。自分で作曲した曲をピアノで弾く。

それを聴いていたアンリ老人は、コンスタンスに自分の進みたい道へ進むように進言する。コンスタンスもその気になり音楽学校の試験を受けることにする。

ポール夫妻には、赤ちゃんができた。アンリ老人が、あの嫁の子供などは見たくないとまでいっていたのであるが、ポールは、コンスタンスに誘惑され、その燃える気持が妻の方にいったのであ。

アンリ老人の策略は全く逆作用となってしまったのである。

時間が経過し、コンスタンスがアンリ老人を訪ねると、アンリ老人は亡くなっていて、ポールが荷物をかたずけている。コンスタンスは、試験に落ちたのであるが、受かったと嘘をついていた。アンリ老人は最後は、全てを認め安らかに旅立っていたことを知る。

コンスタンスは、もう一度、試験を受けることを決心するのである。

収まるところへ収まるのであるが、アンリ老人は、最初から妥協はしない。嫌なものは嫌なのである。それに対し思いがけない発想をするが、その逆転の結果に対しては受け入れたようである。いや、結果的には親を乗り越えて進む道を切り開いてやったともいえる。

アンリ老人の荒療法は、若い人たちへの後押しとなったのである。

この荒療法は見ている方は怖い者見たさではないが、ポールが誘惑され次には気分も乘って、若い格好をして現れたり、アンリ老人がしてやったりと喜んだり、コンスタンスが偶然のようにポールの気持ちを引きつけたり、ちょっと嫌われるタイプかなと思わせるヴァレリーなど、コメディーならではの役者さんによってつくられる笑いが沢山である。

アンリ老人の突飛な発想には笑うしか付いて行けないのである。まさか、アンリ老人が亡くなって皆に倖せを残すなどとは考えられなかったのである。

そして、コンスタンスの瀬戸さんが実際に弾かれるピアノ曲(鈴木永子作曲)も素敵なのである。あのピアノ曲で浄化されたのであろうか。

『バカのカベ~フランス風~』もそうであるが、フランスのコメディーは、人の見方が結構きついところがある。グサッときて笑わせるのがフランス風であろうか。

映画『母と暮せば』を観ていても、あの上海のおじさんの戸を閉めてからの一言が加藤健一さんの間だなと思わせられた。あのとぼけた間で笑わせるのである。

作・イヴァン・カルベラック/翻訳・中村まり子/演出・小笠原響

劇中『ケセラセラ』の歌が流れたが、ドリス・ディであろうか。帰り道メロディーを口づさんでいた。紀伊國屋サザンシアターから新宿の南口のイルミネーションが人も少なくおとなしめなのがいい。帰ってからブレンダ・リーのCDで聞いた。

汐留のビルに挟まれたイルミネーションを<闇>歩きで観たが、闇歩きの達人・中野純さんが、実際のけばけばしいイルミネーションではなく、ビルのガラス窓に映る柔らかな光のイルミネーションを見てくださいと言われた。なるほど、実物はよくみると一つ一つの灯りがきつい色をしている。月でも実物よりも何かに映るほうを愉しむ心である。

いろいろ愉しませてもらったり考えさせられた一年であったが、2015年の最期はコメディーで締めるとする。