歌舞伎座八月『土蜘』『廓噺山名屋浦里』

『土蜘』 作・河竹黙阿弥/振付・初代花柳壽輔

『嫗山姥』で名前が出てきた人の登場です。源頼光とその四天王の坂田公時(さかたのきんとき・子供時代が金太郎)、占部季武(うらべすえたけ)、渡辺綱(わたなべのつな)、碓井貞光(うすいさだみつ)で、生まれた金太郎さんは、源頼光の四天王の一人になるのです。

病に伏せっている源頼光(七之助)は、侍女の胡蝶(扇雀)が薬を届けてくれ一時気分も安らぎます。胡蝶が去ると苦しみがもどり、そこへ一人の僧が知籌(ちちゅう・橋之助)と名乗り祈祷を願い出ます。その僧のあやしい影に太刀持ち(團子)が気づき、頼光もすぐさま切りつけますが、僧は土蜘の精の本性をあらわし蜘の糸を放ち逃げてゆきます。

このあとに、番卒三人(巳之助、勘九郎、猿之助)と巫女(児太郎)と石神(波野哲之)の狂言が入ります。番卒は土蜘退治を祈願して石神を敬うのですが、この石神は実は小姓で面をかぶり番卒をだましたのです。面をとられ石神になりすましていたのがばれてしまい、ごめんなさいと手をあわせあやまる姿が可愛らしく、巫女の背中で、「やーいだまされた」とばかりに番卒たちに指をさしつつ逃げてゆき、番卒たちはそれを追いかけるのでした。

独り武者の平井保昌(獅童)と四天王の綱(国生)、公時(宗生)、貞光(宜生)、季武(鶴松)は、土蜘の精を見つけ土蜘の投げる白い蜘の糸を受けつつの大立ち回りのすえ、みごと土蜘を退治するのでした。

頼光の七之助さんに品があり、太刀持ちの團子さんぬかりなくつとめ、扇雀さんの胡蝶もしっかり板についてる感じで松羽目ものの雰囲気をたもってくれます。橋之助さんの花道からの沙門頭巾に黒の水衣の出がよく、見得もしっかり凄味を見せ、そでをかついでの花道の引っ込みもよい。今回は集中力のしどころが上手く働いてよい動きとなってられるのを感じます。

獅童さんは、役としての若い役者さんたちの四天王を引っ張られ、獅童さんもそんな位置にきたのかと感慨深かいものがあり、波野哲之くんは、お面の目の穴だけで怖くないのかなと心配であったが、大丈夫のようで、しっかり大人たちをからかっていた。まわりのサポートもあたたかかった。

『廓噺山名屋浦里(さとのうわさやまなやうらさと)』 原作・くまざわあかね/脚本・小佐田定雄/演出・今井豊茂

<笑福亭鶴瓶の新作落語を歌舞伎に!>とあり、鶴瓶さんのこの落語をきいて勘九郎さんがそくこれは歌舞伎になると思ったとか。面白い作品になりました。

江戸留守居役の酒井宗十郎(勘九郎)は真面目で、しっかり留守居役を勤めようと考えていて、他の留守居役からしてみれば、なにをほざいているか無粋ものめがと鼻つまみものあつかいである。次の寄合いでは、それぞれの馴染みの遊女を伴って紹介しあうこととなる。

宗十郎は、偶然舟に乗る吉原一の花魁・浦里(七之助)に出会い、どうしてもあの花魁を連れて寄り合いにでたいと思い、山名屋に頼みに行く。山名屋の前で店の友蔵(駿河太郎)から浦里花魁が簡単に会えるものではないと、吉原のしきたりを知らない宗十郎は呆れかえられるが、山名屋の主人(扇雀)に会うことができ、さてそのあとはどうなりますか。

この噺は、花魁浦里の格の高さが出せないと、小さな噺となってしまう。そして、花魁と田舎娘時代の素の違いの差があることによって一層面白さが加わるのであるが、七之助さんはそこを上手く乗り越えられ格の高い花魁にしあげられ、さらに人情味をくわえた。勘九郎さんの朴訥さもよく、それに浪花弁でポンポンぶつかる駿河太郎さんもはまっていた。扇雀さんとの場面では上方の柔らかさがほしいが、それは期待しすぎであろう。

意地悪な留守居役の彌十郎さんや亀蔵さんらも手慣れた役のうちで勘九郎さんの融通のなさに上手くからむ。

夢のような噺であるが、『鰯売恋曳綱(いわしうりこいのひきあみ)』のお姫様が遊女になるというのとは反対の、田舎の娘っ子が花魁となる変化をみせることで、同じ位取りの質の必要性が浮き彫りになる作品にしあがった。