6月国立劇場にて

時間があれば映画を見ていて、腰痛になりそうで、さらに、題名を見てもどんな内容だったかすぐに全体像が浮かばない状態でもあります。そんな中記録しておかなくてはと、6月の国立劇場での鑑賞をダイジェスト版で。書く前から残念だったのは、6月民俗芸能公演「高千穂の夜神楽」のチケットを取り忘れたことです。気がついた時には遅かりし由良之助でした。

気を治して『日本音楽の流れⅠ 箏 koto』は敷居が高いかなと身構えたのですが、というより二列目で睡魔がおそったらどうしようと心配だったのですが、解説があり奏者の手をバックのスクリーンで大きくして見せてくれましたので、音は変化に富み美しく、手は優雅であったり激しかったりで堪能させてもらいました。

お箏の音をこんなに沢山楽しんだのは初めてでした。お箏の歴史から、「御神楽」「雅楽」そして近世初期の<筑紫箏曲><八橋流箏曲><琉球箏曲>の三つの箏曲の紹介があり、お箏の形態の違い、奏法の特色などをスクリーンの手を見つつ音を追い駈けました。<生田流><山田流>の演奏、さらに、<京極流箏曲>(明治末)<十七絃>(大正)三十絃(戦後)の紹介、最後は現代曲「過現反射音形調子(かげんはんしゃおんけいちょうし)」の演奏でした。

この現代曲は、箏の楽器の流れ、瑟(しつ・二十五絃)、唐箏(からごと・十三絃)、箏(こと・十三絃)、二十五絃箏(二十五絃)のための曲で、その流れの音は頭の中から消えてしまいましたが、奏者の姿が残っています。

解説は、野川美穂子(東京藝術大学講師)さんで、納得できる解説で箏初心者には大変楽しく興味をもって聞くことが出来ました。眠るどころではなく、この音が消えていくのが悲しいと思いました。

たらららら、ばんばん、ひゅーなどと、曲を作られた方は色々試してその組み合わせを考えたのでしょう。今度どこかでお箏に出会ったときは、前より親しみをもって聞くことができるでしょう。良い企画でした。

今度は三味線のほうで、清元節の名手で人間国宝であられた清元栄寿郎さんが亡くなられてできた清栄会が解散されるため、『清栄会のさよなら公演』でした。全くの部外者ですが、出演される方の中に実際にお聴きした方々の名前が複数ありましたので聴かせていただき見させていただきました。

栄寿郎さんが作曲した曲、「雪月花」「たけくらべ」「月」、そのほか、清元「北州」、地歌「曲ねずみ」、宮薗節「鳥辺山」、新内節「明烏夢泡雪」、女流義太夫「道行旅路の嫁入」、常磐津節「釣女」とそれぞれの分野のそうそうたる方々の演奏と声を聴かせていただき舞いも見させいただきました。

三味線のほうが、箏より歌舞伎などでも聴きなれていますが、演奏だけとなりますと、歌舞伎と違ってやはり音、声、詞に集中しますので時にはこうした中に自分を置いてみて味わうのもいいものであるとあらためて感じました。(司会・平野啓子、演目解説・竹内道敬)

最後は歌舞伎で、『歌舞伎鑑賞教室 毛抜』です。例によりまして「歌舞伎のみかた」の解説がありました。今回は中村隼人さんでした。この観劇前に東劇でシネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛』を見ていましたので、黒子さんが出てくると、何かしでかすのではないかとのトラウマに囚われているせいか、いつ弥次さん喜多さんになるのかと思ったりして心の中で苦笑いしていました。

隼人さん、爽やかに解説され、立ち廻りりと毛振りもされました。一部分携帯、スマホからの写真O・Kで舞台から降りられて写真どうぞでしたので、女学生の黄色い悲鳴があがり、ここは国立劇場なのであろうかと弥次さん喜多さんも真っ青状態となる場面もありました。

『歌舞伎十八番のうち 毛抜』となっていまして歌舞伎十八番は市川宗家のお家芸として選定したもので荒事ですがとの説明もされていましたが、学生さん達にわかったかどうか。歌舞伎は『ワンピース』もやりますのでの言葉には速攻の凄い反響でした。何とかして若い人に歌舞伎に興味を持って貰いたいとの想いが素直にでていました。解説パンフも配られていますので、黄色いお声の若い方も隼人さんを思い出しつつ帰宅後読んでくれるといいのですが。

歌舞伎十八番を選定したのは七代目團十郎さんで、今回の粂寺弾正(くめでらだんじょう)は錦之助さんが演じられ、愛嬌のある、今でいえば結構オタク的な弾正を思い起こしました。もしかすると、ちょっと変わったタイプの人物で、周りがあいつちょっと変っているから、もしかすると上手く解決するかもしれないから、あいつに行かせようと言ったのではないかと想像してしまいました。

お家のためにと悲壮感をもってというタイプでは全然なく、若衆や腰元によろよろっとして困った御人ですが、突然疑問があると考えるんですね。錦之助さんの弾正、現代人の感覚をタイムスリップさせたような弾正で面白いなとおもって観ました。

橘三郎さん、秀調さん、友右衛門さんが脇を固められ、その他が若い面々ですが、皆さん歌舞伎の動きが身についてこられ、隼人さんなど、やはり大星力弥を勤めた経験が大きいと実感します。

孝太郎さんの止めには、秀太郎さんのような気迫が映って見え中堅どころを着々と修業されています。悪役の廣太郎さんはまだもう少しかなと思えましたが、父・玄蕃の彦三郎さんがきっちりした悪役なので悪役親子として引き立ちました。

尾上右近さんの若殿は平安時代風の少しなよっとしていて、梅丸さんは可愛いさいっぱいでした。

今月も歌舞伎鑑賞教室があり、先月の学生さんの中で、もう一回歌舞伎観て観ようかなと来てくれるといいですね。お若いの、お安い席もありますから国立劇場へ涼みにいかれてはいかがでしょうか。

 

映画『アメイジング・スパイダーマン』『大いなる陰謀』『ソーシャル・ネットワーク』

映画『ハクソー・リッジ』の主人公・デスモンド・T・ドスを演じたアンドリュー・ガーフィールドさんは、気弱そうでいながら意志を貫く強さをじわじわと納得させていくところが好演でした。

アメイジング・スパイダーマン』(2012年)では、主人公ピーター・パーカー役で、その恋人・グウェン・ステイジーが『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンさんです。『スパイダーマン』より面白かったです。同じスパイダーマンを主人公にして、作り方によってこんなにも変わってしまうのかと興味深いです

ピータ―・パーカーは、子供の頃叔父さん夫婦に預けられ両親は行方不明となってしまいます。高校生となり父の残した古い鞄から父が研究していたことを知りたくなり父の勤めていたオズコープ社へ様子を見に行き、そこで研究していたクモに刺されて、身体の組織構造が変わりスパイダーマンとなるのです。

手が触れた物に接着力が出現し、スケボーに乗りながらその力を高め、自分の身体から発するクモの糸の粘着力と強靭さから空を飛び悪と闘っていくわけですが、一部の人には素顔をみせ、ピーターがスパイダーマンであることをしらせます。

スパイダーマンになる経過も面白く、クモの糸一本でビルの間を飛び回るスパイダーマンの身体が美しいのです。一瞬止まったり次の動作にいくときなどの身体の反り具合などの表現が見事です。父の同僚であったコナーズ博士との闘いとなりますが、そこに恋人グウェンとの関係がほどよく加味され引っ張っていきます。

グウェンの父親が警部で、パーカーがスパイダーマン擁護の意見をいうと「私がゴジラの街、東京の知事に見えるかね。」「君は戻って東京の人々の心配をしてろ。」との台詞が飛び出し楽しかったです。その父親が娘が巻き込まれることを心配して娘に近ずくなと言いのこして亡くなってしまいます。

その言葉がパーカーの心に残りグウェンから離れるのですが、教室の前の席のグウェンにパーカーが後ろの席から「守れない時もある」というと、グウェンの表情が静かに笑顔に変わる印象的な終わり方でした。

アメイジング・スパイダーマン2』は残念ながら、この二人の恋物語の部分の割合が強くなりそれでいながらグウェンは死んでしまい、前作の謎が解かれていきますが新鮮さに欠け中途半端な感じがありました。『アメイジング・スパイダーマン3』はどうするのかと思いましたら『アメイジング・スパイダーマン2』の人気が伸びず、中止になってしまったそうです。2を3でどう盛り返すのかなと思いましたので、そうなってしまったのかの感があります。

アンドリュー・ガーフィールドさんは、遠藤周作さん原作でマーティン・スコセッシ監督の『沈黙ーサイレンス』にも出演していますが、この映画は原作を読んでいるので重すぎて見れませんでした。篠田正浩監督も映画にしていますがこれも見ていません。外国の方が日本の小説から深く考えてくれることは素晴らしいことです。遠藤周作さんには狐狸庵先生としてユーモアな随筆作品があり、シリアスな作品とユーモア作品とを交互に読みました。

遠藤周作さんの夜中の電話の犠牲になった作家のかたもおられたようで、いたずらなところもあった方でした。

アンドリュー・ガーフィールドさんの映画デビュー作品が『大いなる陰謀』(2007年・ロバート・レッドフォード監督)で、共和党上院議員のトム・クルーズさんとジャーナリストのメリル・ストリープさんとの対峙する会話に対し、政治学の教授であるロバート・レッドフォードと生徒であるアンドリュー・ガーフィールドさんの対峙する会話の重要部分に4人の一人としてアンドリュー・ガーフィールドさんが参加しているのですから凄いデビューとなったわけです。

この2対2は直接関係するわけではありません。アフガニスタンの軍事上の新作戦を押し進める共和党上院議員が、そのことを好意的に発表して欲しいとジャーナリストに依頼し、情報操作を目論むわけです。教授は優秀なのに講義に出て来ない生徒に、止めるのも効かず志願兵となった生徒二人のことを話し、君はそれでいいのかと考えるきっかけを作ろうとします。

この志願兵は、アフガニスタンの高地作戦に参加していて簡単に制圧できるとした作戦の真っただ中で二人取り残されるかたちとなり戦死してしまいます。映画としては、この三組の状況と語る言葉から見る人がどう受け止めますかという投げかけをしている映画で、それぞれにゆだねられています。

ソーシャル・ネットワーク』(2010年)では、<Facebook>の創設者であるマック・ザッカ―バーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)の共同経営者であるエドゥアルド・サベリン役がアンドリューさんで、ハーバード大学在学中に<Facebook>は作り出され、そこからエドゥアルド・サベリンが法的にマック・ザッカ―バーグを訴え、共同経営者として返り咲くまでの話しです。

<Facebook>に興味のあるかたはその裏話として見るのも楽しいかもしれません。莫大なお金を生み出す新しい事業の誕生ですから色々ないほうが不思議でしょう。

映画『ハクソー・リッジ』のアンドリュー・ガーフィールドさんによって、こんなところにまで運ばれてきました。

容姿から繊細な感じが出せて、それが反対に強さとなるという変化が彼の強みでもあります。その他やる気のなさ、いい加減さも出せるので、作品によってまだまだ変化するでしょう。