歌舞伎座七月歌舞伎(2)

駄右衛門花御所異聞(だえもんはなのごしょいぶん)』の日本駄右衛門は単なる盗賊ではなく天下取りまでねらいます。それを押さえるために<秋葉権現>の怨霊が現れ、その秋葉大権現の使わしめである白孤が 勸玄さんの役です。

海老蔵さんは、日本駄右衛門、玉島幸兵衛、秋葉大権現の三役です。駄右衛門は天下取りのための足がかりとしてねらうのが遠州月本家で、その月本家の家老・玉島逸当の弟が玉島幸兵衛です。この幸兵衛は女のためにお家のお金に手を出し月本家を出ています。

この幸兵衛が駄右衛門に傷を負わせます。これが重要なポイントで、その場面が駄衛門と幸兵衛二役の海老蔵さんの早変わりなのですが、早変わりの回数が多すぎと思いました。その傷が悪化して駄右衛門はピンチとなり、そのピンチを救うために二幕目で大きな展開があります。ですので、海老蔵さんが二役だなということと駄右衛門が傷を負ったというところを強調すればよいと思います。

駄右衛門は、月本家の家宝で将軍家へ献上の古今集を盗みます。これが月本家のお家騒動の原因となりますが、さらに月本家の内部に協力者である月本祐明を手なずけています。月本家当主・月本円秋は古今集紛失の責任をとり切腹をして責任をとる覚悟ですが、そこで遅かりし由良之助と同じような場面を入れたのには驚きでした。そこへ駆けつけた家老・玉島逸当のとった行動が重要でこのことこそ丁寧に描いたほうが重みがでたと思いますが、いとも簡単に終わってしまいました。ただ家老が妻の松ヶ枝に弟・幸兵衛へと託した秋葉権現の御影のことがはっきりわかったのはよかったです。二幕目でこの御影が重要な役割をしますから。あれだったのかとわかりこの謎ときも、二幕目の面白さになります。

余計なパロディみたいな場面よりも駄衛門と月本家の対峙に厚みを加えてほしかったです。それによって駄右衛門の大きさがでます。駄右衛門は策略家で、利用していた月本祐明も用済みと消してしまいます。さらに駄右衛門は、月本家伝来の秋葉権現の功力を宿す三尺棒も盗んでいたのです。

二幕目は、駄右衛門の子分であるお才の開いているお茶屋が舞台となり、ここで幸兵衛、月本家を追いだされた円秋の弟・始之助と元傾城花月、松ヶ枝、駄右衛門の子分の早飛、お才の兄貴で駄右衛門の子分になろうとしている長六、長六を慕う寺小姓采女が上手く繋がりをもって動き、面白い展開となります。そして二幕めの最後が、秋葉大権現が登場し使わしめの白狐を呼び出し、駄右衛門を降伏させるため飛び立つのです。

「はーい」といって花道からでた白狐は七三で「御前に」といったのかな。拍手でよく聞き取れませんでした。そのあと天狗にひょい、ひょい、と移動させられ秋葉大権現の横に並び消えます。天狗のバク転などを見せ時間調整をして宙乗りの準備です。時間は充分とられています。そして海老蔵さんに 勸玄さんは抱きかかえられる感じで宙乗りとなり海老蔵さんのにらみがあります。ゆっくり静かに同じペースで上がっていきます。このペースが無事維持されますように。 勸玄さんは慣れてきたのでしょう。観客に両手を振っています。二幕目ラストを盛り上げます。

白狐はこのペースが保たれれば体調良好なら千穐楽まで飛ばれることでしょう。お客様のためにも頑張ってくださいな。

三幕目では、題名に<花御所>とあるように、天下人東山義政のもとに駄右衛門が現れ、天下を手中に入れようとしていることがわかります。ここで三尺棒の功力が発揮されます。駄右衛門が天下取りのために月本家をまずねらった理由もわかります。

よく話としては出来ています。もう少し整理して、役者さんの表現力が加わればもっと面白くなるとおもいます。亀鶴さんは出場は一瞬ですが、奴の形になっています。児太郎さんは上方で修業したのでしょうか。どこをとっても形がよく、駄右衛門の手下であるというところを明かすところは、福助さんなら濃く演じるところですが、児太郎さんは味は薄くてもさらっと粋にし、幸兵衛との絡みにも情をだしました。

映画『娘道成寺 蛇炎の恋』がやっとレンタルできましたのでこれから見ます。楽しみです。

新作に等しい作品を上演する場合は、歌舞伎であっても練習時間がもっと必要なのではないでしょうか。数日で仕上げるられる歌舞伎の凄さは演目によっては変えていかなければならない時期にきているのではという想いを近頃感じている次第です。

 

月本円秋(右團次)、月本祐明(男女蔵)、奴浪平(亀鶴)、月本始之助(巳之助)、傾城花月(新悟)、寺小姓采女(廣松)、奴のお才・三津姫(児太郎)、駄右衛門子分早飛(弘太郎)長八(九團次)、逸当妻松ヶ枝(笑三郎)、馬淵十太夫(市蔵)、東山義政(斎入)、玉島逸当・細川勝元(中車)

 

旧東海道の見付宿の見性寺に日本左衛門のお墓があります。東海道五十三次どまん中<袋井宿>から<浜松宿>

静岡県には東海道53宿のうち22宿があり、静岡を抜けるのが長かったです。別の東海道歩きの仲間がやっと静岡を抜けれたと言っていました。わかります、実感です。

追記: 七月歌舞伎も無事千穐楽を迎えたようです。 勸玄さん、立派に舞台を勤めあげられ小さくて大きな一歩にあらためて拍手です。ずーっと先のことでしょうが、海老蔵さんとお子さん二人がこの時のことを語り合う日が来ることでしょう。それまでまだ沢山の涙が必要でしょうが。その親子だけの語らいは成田屋海老蔵夫人の麻央さんが残された宝物の一つでもあると思います。誰も手に入れることの出来ない宝物。(合掌)