映画『ハチミツとクローバー』『ヘアースプレー』

  • 上野の『藤田嗣治展』の後、上野公園を歩いていると、スプレー缶で絵を描くアーティストに遭遇する。音楽を流しながらリズミカルにシュー、シューと吹きかけていく。材質は紙なのであろうか。どうやら海のようである。波かな。上から光が差し込む。できあがった絵も素敵ではあるが、やはりこれは絵の出来る過程が愉しいパフォーマンスアーティストである。

 

  • 次は奥に雪山が顔を出し、手前は木々の森であろうか。木々の葉っぱの感じも細かく描かれていく。あーなって、そーなって、こーなってと早いのである。シューにためらいがない。紙を波型に切ってそれを当ててシュー。直角に板を当てて45度の線にシュー。観ているほうは必死でそのシューを追いかける。描く方はいたって軽やかである。たのしかった。

 

  • 頭の中で思い描いた映画が、『ハチミツとクローバー』。登場人物はある美大の学生たちで、皆どこか変わっている。原作は、羽海野チカさんのコミック。でも美大にはこんな個性的な人がいそうである。天才的な力を持っているが、人と上手くコミュニケーションがとれない転入生の女子。ヘッドホンで音楽を聴きながら絵を描く。(はぐみ) その娘に恋心をいだく正当な青春派の建築学科生。(竹本佑太) その娘の才能を理解し、その娘をうろたえさせる、突然もどってきた才能ある先輩の自称芸術家。(森田忍)

 

  • 好きな人の建築デザイン事務所でアルバイトをし、ストーカー的行動に出てしまい首になる建築学科生。(真山巧) その学生を好きでふられてしまうが、彼を応援し、再びアルバイトに復帰させるべく手助けする陶芸科の彼女。(山田あゆみ) この五人の物語で、この五人とつながっているのが、多くの学生に慕われている美大の教師で、彼の自宅は、時々飲み会の会場となる。(花本修二)

 

  • 主なる登場俳優。蒼井優さん、櫻井翔さん、伊勢谷友介さん、加瀬亮さん、関めぐみさん、堺雅人さんとなれば、この順番をバラバラにしても、なんとなくキャラがわかってこの役はこの俳優さんと結び付けられると思う。青春物でドロドロした人間関係にはならない。美大の教師たちの年代のほうが何かあったような雰囲気であるが、そこは少し匂うぞで終わらせている。

 

  • 一人は少し年上であるが、気持ちは青春で、まだ学生ということもあってそれぞれの才能の浮き沈みははっきりしない出発点で、それが青春物の基本ともいえる。こういう個性的な面々と一時期過ごしたくもなる良きキャラの面々である。(2006年・監督・高田雅博/脚本・河原雅彦、高田雅博)

 

  • シューのスプレー缶とくれば映画『ヘアースプレー』。ぽっちゃりタイプの女子高生が毎日元気に青春を謳歌している。歌とダンスが好きで、歌とダンスのテレビ番組を観るのが一番の楽しみである。番組のホスト役の名前をとって「コ―ニー・コリンズ・ショー」。場所はアメリカ・メリーランド州ボルチモア。1960年代で人種差別の強いところらしい。主人公のトレーシーは、授業時間中に先生から注意を受け居残りの紙をもらってしまう。

 

  • 居残り組の教室に行ってみると黒人の生徒たちが、ダンスを踊っている。新しいステップを教えてもらいトレーシーは彼らと踊るのが大好きになる。そして、「コ―ニー・コリンズ・ショー」のダンスメンバーに欠員が出来、トレーシーはそこに加わることができる。人気者になったトレーシーは、お母さんが巨体で家に引っ込んでいるため、自分の楽しさをお母さんにも味わわせたいと外に引っ張り出す。

 

  • お母さん役がジョン・トラヴォルタで特殊メイクで、あのトラヴォルタだからこそ、あの巨体でダンスが出来てしまうのであろうと、その違いがたのしい。父親がクリストファー・ウォ―ケンである。あの渋さを崩さずにトラヴォルタとの組み合わせにはさすが役者さんとおかしくなる。ミュージカルで歌とダンスがたっぷりで、歌の歌詞を追っているとダンスがよく見れず、大忙しである。

 

  • 人種問題や偏見などがテーマとなっているが、明るく乗り越え、好い方向に進んで行く。1988年に公開され、それがブロードウェイでミュージカルとなり、そのブロードウェイ版が再び2007年に映画となったらしく、監督も違う。とにかくトレーシーはキュートに踊って前へ前へと進む。それを阻止しようとする側にミシェル・ファイファーと脇の堅めもしっかりである。主人公役は、オーディションで射止めたニッキー・ブロンスキー。恋人役のザック・エフロンは『グレイテスト・ショーマン』の劇作家役だったらしいが、ちょっとそちらの顔が思い出せない。

 

  • ヘアースプレーは当時の髪型を決めるための必需品でもあり、「コ―ニー・コリンズ・ショー」のスポンサーがヘアースプレーの会社なのである。テレビのなかでもむせ返るほど、シュー、シューとスプレーしている。というわけで、この二本の映画の登場となったのである。