歌舞伎座10月『三人吉三巴白浪』『大江山酒呑童子』『佐倉義民伝』

  • 10月の歌舞伎座は、十八世中村勘三郎七回忌追善公演である。一階ロビーに勘三郎さんの遺影が飾られている。『三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』は、お嬢吉三の七之助さんとお坊吉三の巳之助さん、味が薄かった。台詞やしどころは教えを受けていればその通りに、あるいは相当丁寧に練習されているとは思うが引きつけられなかった。和尚吉三の獅童さんは勘三郎さんの台詞を練習されたように響き、上手く自分の中に取り込まれたように思えた。和尚吉三がでてきて三角形になったように思う。おとせの鶴松さんは生活からくる哀れさが欲しい。可愛らし過ぎた。

 

  • 大江山酒呑童子(おおえやましゅてんどうじ)』は面白かった。勘九郎さんの酒呑童子がいい。こんな童子のお人形があるなと思わせられる。国立劇場で『舞踏・邦楽でよみがえる 東京の明治』の中に『茨木』があった。録画で歌右衛門さんのと茨木童子、松緑さんの渡辺綱を先に観た。歌右衛門さんが最初の伯母真柴のところで、こちらが茨木童子に変わるのだと知っているのに、そのことを忘れさせるくらい綱を想う真柴であった。国立劇場での花柳寿楽さんの茨木童子と花柳基さんの綱も踊りの心の骨格がしっかりされていて良かった。ただ観る条件として、前の方が背の高い方で視野がさえぎられ残念であったが、こればかりは仕方のないことである。

 

  • 国立劇場で、鬼人などに変わるものは、観る方も先ず最初の役の踊りに没頭し、演者も没頭させてくれなくてはいけないのだと確認できた。勘九郎さんの酒呑童子はまさしくその条件にかなっていた。その稚気さ、気持ちをそらさない動きなど大変気にいった。ただ勘九郎さんは膝大丈夫なのであろうかと気になる。かなり以前ドキュメンタリーで膝を悪くされていたのを見て以来、好い踊りを見せられると気にかかるのである。使い続ける箇所なので大切にされてほしい。舞台にでると無理を承知で動かれてしまうことになるのであろうから。

 

  • 扇雀さんの頼光は、八月の『花魁草』のお蝶とはガラっと変わる声質である。頼光が出れば四天王で、平井保昌の錦之助さんを先頭に颯爽とした四天王であった。童子に捕らえられていた女たちの踊りが花を添える。初めて観るような新鮮な『大江山酒呑童子』であった。

 

  • 佐倉義民伝』は、何回観ても泣かされる。命をかけての直訴。命と引き換えても訴えなければならない窮状なのである。二階ロビーには、御本尊宗吾様像が祀られていた。直訴を決めて最後の家族との別れに向かう白鷗さんの宗五郎。お咎めを覚悟で渡しの舟を出す歌六さんの甚兵衛。家に帰ってみると、子供の着物も困っている同郷の人に持たせ、夫の離縁に抗議する女房おさんの七之助さん。七之助さんが芯のしっかりしたところを見せて白鷗さんの慈愛に満ちた宗五郎と上手くマッチして大きな仕事を支える様子がよい。

 

  • ぱっと舞台が紅葉に赤い渡り廊下となる東叡山の場面。苦しむ農民の生活と余りにも違うこの明るさと赤は、血潮さえ思い起こさせる。そこに現れる将軍家綱の勘九郎さんが凛々しく大きい。宗五郎の直訴文を読む松平伊豆守の高麗蔵さん。上書きは投げつけ、直訴文は袂にしまう。安堵する宗五郎。観ている方も涙する。将軍を囲む武家たちの長袴の裃姿の若手さんも美しくきまっていた。

 

  • 友人が『宗吾霊堂』に行った事がないというので夏、甚兵衛渡しまで行くことにした。半日コースと『宗吾霊堂』まえでお蕎麦を食べてからお参り。境内には『御一代記館』があり佐倉惣五郎の一代記が見れる。人形をつかった場面、場面に音声解説がついている。歌舞伎の場面と相似している。『宗吾霊宝殿』には惣五郎ゆかりのものと、様々な方の色紙などがある。確か、幸四郎時代の現白鷗さんと勘三郎さんの色紙もあったように思う。漫画家やイラストレーターの方の色紙の「義」の文字に対するアイデアがやはりユニークである。

 

  • 『宗吾霊堂』から甚兵衛渡しまで「義民ロード」というのがあり、その地図をダウンロードして検討を付けて行ったのだがどうも違うらしく戻って地元の方にきく。その地図では地元の人も説明できないと丁寧に教えてくれた。途中に『麻賀多神社』があり、そこまでももう一度地元の方に尋ねた。『麻賀多神社』は、なかなか趣のある木々に囲まれた古い神社で気に入ってしまった。ただ常時人がいるわけではなく、御朱印は日にちがきめられていた。空が真っ黒な雨雲発生で、途中で降られては大変とひきかえした。もし行くことがあったらバスで甚兵衛渡しまで行きもどるコースとしたい。道に迷った時、一日一便のバス停があった。一日一便は初めて見た。どんなひとがどんな使い方をするのかと友人と首をかしげてしまった。

 

  • 一階、二階のロビーのことを書いたのですから、三階も書かなくては。三階には、亡くなられた名優たちのお写真がありますが、初世齊入さんのお写真が以前よりかなり近くに感じられます。誰かが思い出せばその人は生きている人の中で生きかえります。でも憎らしかったあいつなんていうのは。う~ん、それもありでしょうかね。人間だもの。(相田みつをさん風締めになってしまった)