関西春の旅『生駒』『大阪』『京都』『湖西・湖北』(2)

2日目の午前中は北野天満宮方面へ。先ずは『大報恩寺』(千本釈迦堂)。 東京国立博物館『京都大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ』 かなり早い実行である。本堂が鎌倉初期に開創された当時のままで、応仁・文明の乱にも両陣営から保護されて残ったのである。開祖の義空上人は、藤原秀衡の孫にあたるそうである。

 

本堂の建立には棟梁・高次の妻のおかめさんが貢献している。高次は上棟式を目前にして大切な四天柱の一本をあやまって切り落としてしまった。替りの柱を探したがみつかりません。おかめさん、仮堂に安置されているご本尊に自分の命とひきかえに夫を助けてほしいと必死に祈りました。ご本尊の膝元に光り輝く「斗栱(ますぐみ)」が目にうつります。そして、柱を短い柱に切りそろえ、「ますぐみ」で高さを補えば良いと夫に提案したのです。高次はそれを取り入れゆるやかな屋根、安定感のある本堂の骨格を生み出したのです。

 

上棟式に、義空上人署名の棟木棟札があげられその上部に末広を円形に組み「おかめ」の面をおさめます。高次は本堂が妻の「おかめ」の心とともにいつまでも伝承されることを祈りました。集まった人々も生前の「おかめ」さんが帰って来たと手を合わせました。(ということはおかめさんは亡くなったのでしょう。)義空上人はおかめさんの女徳を顕彰し境内に塚を建て、その塚を誰言うともなく「おかめ塚」と呼ぶようになりました。

 

江戸時代には「おかめ多福招来」の信仰が全国に広がる。商人には増幅繁栄の功徳とされたのです。なるほど、熊手におかめさんが飾られるのはそういう信仰のつながりだったのですか。今は境内におかめさんの銅像があり、本堂の中にもたくさんのおかめさんの人形が飾られています。阿亀桜(おかめざくら)と呼ばれている枝垂れ桜もありましたが硬いつぼみでした。

 

みほとけさまたちは、霊宝館に納められています。上野の国立博物館では、照明などで幻想的な雰囲気の中での拝観でしたが、霊宝館ではもっと明るく身近で、お顔の表情もよくわかる。仏師の彫刻刀がいかに繊細な動きをしてこのお姿を創り上げっていったかが想像できる。見守られているというより反対にいとおしく感じられる。十大弟子もリアルさが増し、修業の過酷さと一心さが伝わってくる。

 

その場所、その場所で、どこにおられても新たなお姿を見せてくれるとは、仏師の手を離れて何かが宿られ、それが放出されているのであろう。

 

上七軒通りを歩く。静かな落ち着きのある通りである。上七軒歌舞練場では3月25日から4月7日まで「北野をどり」が始まるらしい。来年はこれに合わせて再来も考慮しようか。歌舞練場には喫茶室もあり普段も中に入れるようである。

 

上七軒通りは北野天満宮につながっているが、天満宮の裏を通って先に『平野神社』へ。昨年の台風21号で拝殿の柱が折れ屋根が崩落していた。拝殿のみ囲われ周囲は綺麗にかたづけられていた。ここには多種類の桜が植えられていて名前が紹介されていた。咲いていたのは「10月桜」(冬桜)。釘隠しなどに使われる金属の装飾があるが、それがハートの模様で「猪目(いのめ)」というのだそうで、「ハートを見つけましょう」との案内があり見つけることができました。

 

「菊花紋、ハート、桜の神紋の三点セットは、京都中、いや、世界中で、ここ平野神社だけです。」とありました。今年も拝殿の再建を願って多種類の桜が咲くことでしょう。

 

北野天満宮』はまだ梅が咲いていて、末社『文子天満宮』というのがありました。道真公が亡くなられ40年を経て、現在の京都下京区千本通り七条あたりに住む巫女の多治比文子に菅公の神霊より、わが魂を現境内地に祭れとのお告げがあり、文子はとりあえず自宅に菅公の御霊をお祭りしたのが北野天満宮の発祥で、その後お告げの場所に移された。文子邸跡には神殿ができ『文子天満宮』と呼ばれ、それが明治に入って現在地に移されたのだそうである。

 

興味を引いたのが「豊臣秀吉公の都市遺構 史跡 御土居(おどい)」。御土居というのは秀吉が戦乱で荒れ果てた京を外敵の来襲や、鴨川の氾濫から市街を守る堤防の土塁のことで、御土居を築くにあたりこの清浄なる境内に水が溜まらないように、この地にだけ御土居を貫通する約二十メートルの暗渠(あんきょ・悪水抜き)を造り、境内の神域を守ったとある。ただ場所がよくわからなかった。

 

梅苑が公開されていたが入らなかった。どうもそこから御土居の散策道がつながっていたようである。知っていれば梅がなくても入ったのであるが。紅葉と青もみじの時期も公開するようである。地図を見たら北野天満宮の北門と平野神社の間の天神川(紙屋川)沿いにも史跡御土居が記されていた。心残りである。御土居を知っただけで良しとしよう。南座観劇前の充実した時間であったのだから。