ドキュメンタリー映画『薩チャン正ちゃん』まで(1)

映画館で『薩チャン正ちゃん 戦後民主的独立奮闘記』(2015年・池田博穂監督)を上映しているのを知ったが見逃してしまった。薩チャンとは山本薩夫監督で、正ちゃんとは今井正監督である。DVDも発売されていた。購入したが、独立プロ系の映画作品をもう少しみてからにしようとそのままにしていた。

新型コロナで巣ごもり時間も長いのでこの機会にと独立プロ系をみつづけた。そしてそろりそろりと『薩チャン正ちゃん』をみた。そこに小冊子が入っていて独立プロ系の映画一覧がのっている。これは大助かりである。その作品郡のなかから観たものを年代順にのせ、印象に残ったことなど少し紹介したい。

五大映画会社から追い出されたり飛び出した監督ら映画人が、自分たちの映画を撮りたいと作られたのが独立プロ系の映画である。ただ今は映画会社専属の映画監督はいないので映画界はほとんどが独立プロ系とも言える。

1950年(昭和25年) 『暴力の街』(山本薩夫監督)

今回見直した。前回は池部良さんが出演しているので観たが池部さんが主人公ではなく、あれっと思ったが内容から納得した。群馬の銘仙の街で、議員、警察、検事等が権力を握り一部の人たちだけの利益を守る。その悪を報道する新聞記者などが妨害されるが住民も立ち上がり闘う。その新聞記者の一人が池部良さんであった。この映画が独立プロの第一作だったのである。

1951年(昭和26年) 『どっこい生きてる』(今井正監督) 

詳しくは→https://www.suocean.com/wordpress/2020/08/09 

1952年(昭和27年) 『箱根風雲録』(山本薩夫監督) 『山びこ学校』(今井正監督) 『原爆の子』(新藤兼人監督) 『真空地帯』(山本薩夫監督)

箱根風雲録』 詳しくは→ https://www.suocean.com/wordpress/2020/07/17

やまびこ学校』  山形県の農村が舞台で、子供たちは貧しく学ぶ機会も奪われがちである。そんな環境の中で生徒たちは、教育に情熱を燃やす教師(木村功)と共に学ぶことの楽しさを実感していく。古い映画なので音が悪く子供たちの方言が聴きづらいのが残念。音がはっきりすれば、さらに子供たちのいきいきした力強さが増すと思える。

原爆の子』  原爆を扱った最初の映画と言われている。原爆が落とされた時広島にいた幼稚園教師(乙羽信子)がそれから7年後、当時の園児を訪ねて歩き、子供たちのその後の生活が描かれる。この映画出演のために乙羽信子さんは大映を去る。民藝の劇団員が多く参加している。独立プロ系では多くの劇団が協力された。

詳しくは→https://www.suocean.com/wordpress/2016/08/08/

真空地帯』   映画評論家の佐藤忠男さんの言葉。「旧帝国陸軍の新兵教育の野蛮さを描いた力作だが、海軍の少年兵を経験した私は、この、ひたすら新兵を殴るばかりの日本軍隊のありようが本当のことだったと証言できる。」

派閥争いで犠牲になった木谷一等兵(木村功)は、再び上官によって、野戦行きを急きょ変更決定されてしまう。ラストの木谷一等兵が野戦に向かう船の中の場面で終わるのであるが拍子抜けしてしまった。木谷一等兵がもっと狡猾に復讐を試みるとおもったからである。それを期待するのは無理な状況ではある。中に入っている者はその全体像を見極めるのがやっとで気がついた時には死しかなかったということになる。おそいということなのである。このラストの船中ロケには山田洋次監督もエキストラとして参加しておられた。 

山田洋次監督が選んだ映画100選の中に独立プロ系の映画が入っていて、鑑賞できていて助かった作品もある。家族篇では『煙突の見える場所』『にごりえ』『姉妹』『人間の条件』『若者たち』が、喜劇編では『台風騒動記』『にっぽんのお婆ちゃん』がある。

時代と共に生きてきた映画界は過去から今に生きてくれています。そして未来へも。現在は過去になる。そして過去から現在の未来へ。さらに未来へ。

独立プロ系の映画を観始めた時期よりあっという間に権力の横暴さが実感となってしまった。