ドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー』

マンハッタンの小さなアパートに住む普通の夫婦が絵画をコレクターし、全てを美術館に寄贈された。ドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー ~アートの森の小さな巨人~ 』(2010年)がヒットして2作目『ハーブ&ドロシー 2 ~ふたりからの贈り物~ 』(2012年)ができあがる。プロデュース・監督が日本人の佐々木芽生さんである。

ドロシーは図書館司書でハーブは郵便局の仕分け係の仕事をする普通の夫婦である。ドロシーは新婚旅行でワシントンD.C.へ行きナショナル・ギャラリーで絵のことをハーブから教えてもらうのである。ハーブは絵を描いていたことがあり、郵便局で夜中から朝8時まで働き数時間眠って、ニューヨーク大学の芸術学部に通い西洋からアジアまで美術を学んだ。ただハーブは自分の趣味を人に押し付けるのを好まなかった。職場の人は夫婦のことが新聞やテレビで紹介されはじめて知るのである。

ドロシーも絵を学ぶようになり新婚のころは二人はコレクターではなく描く方ほうであった。それが、現代アートの若手アーティストの作品を購入するようになり、アパートのの壁にはたくさんの作品が飾られさらに所狭しといたるところに積み上げられるようになる。

アーティストの所に通いコツコツと交渉し、コツコツとコレクターしていったのである。売るためではないのを知っていて安く購入できるものもあった。自分たちの働いた収入で購入するのである。値段が手ごろで、アパートに収まる大きさであること。

ドロシーの兄夫婦がゆったりとしたソファーに座り、義妹が、あの人たちも絵の一枚も売れば私たちのようにゆったり暮らせるのにとコメントしている。そうなのである。こちらは食卓の腰掛け椅子のゆとりしかないのである。しかし、それはそれぞれの生き方の価値観であり多様性のよさである。

ナショナル・ギャラリーに寄贈することになる。売らないという条件付きである。ナショナル・ギャラリーは観覧無料である。ところが、全てを展示することができない。あまりにも数が多いのである。次のプロジェクトが。全米の50の美術館に50作品づつを寄贈することになる。ハーブは反対だったようである。一人のアーティストの作品が分散されるのをきらったのである。そのことは次の『ハーブ&ドロシー 2 ~ふたりからの贈り物~ 』でドロシーがちらっと話す。

アーティストの中にも分散されることに反対し夫婦から離れ、その後和解する様子も描かれている。ナショナル・ギャラリーの倉庫に眠らせておくのはしのびないという想いからのプロジェクトであった。各美術館がアーティストや夫婦に展示の方法を聴いてそれぞれの展示の仕方を考えていくのもすばらしい。ハーブのこだわりに合わせて展示する様子も楽しい。

ハーブが亡くなりドロシーはさらに全てを寄贈する。そして興味深かったのはパンフレットとか細々した資料を公文書館に送るのである。夫婦が特別な人だからなのであろうか、ドロシーは気軽に送ることを言っている。普通は美術館とかなのではないかと思うが。受けるほうも資料が多く配達する人が大変でしょうと笑っている。

作品を寄贈する時、引っ越しの大型車(日本より大型)一台であろうと予想したら5台であった。作品なので梱包も考慮したのであろうが驚きである。普通の人ってやるときはやるのである。格好いい。頑固にコツコツやっているのがお見事。

ドロシーは、送った美術館にも展覧会が行われているか、送った作品がデジタルで紹介されているかなどもきちんとチェックしている。図書館司書としての仕事が生きているのかもしれない。この映画はハーブとドロシーの生き方にも感動するが、現代アートが観たくなる気持ちにさせる。

http://herbanddorothy.com/jp/

とにかく絵画に対する飢えを感じて上野の芸大の美術館へ。『芸大コレクション展 2020』。久しぶりに『序の舞』(上村松園)、『一葉』(鏑木清方)と出会う。生徒製作(卒業制作)の自画像もそれぞれの画家の違いや、なるほどと思わせてくれる物もあり楽しかった。

上野公園では、路上パフォーマンスの人たちが、ちらほら見受ける。「七か月ぶりなんです。その線からは近づかないでください、すいません。」と気を使われている。

こちらも久方ぶりの散策である。

https://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2020/collection20/collection20_ja.htm