辻邦生さんの小説「西行花伝」をもとに、NHK・FMでラジオドラマを制作放送
「西行花伝・その一/花の巻」 平成九年(1997)1月2日(木) 21時~22時45分
「西行花伝・その二/雪の巻」 平成九年(1997)1月3日(金) 21時~22時45分
「西行花伝・その三/月の巻」 平成九年(1997)2月11日(木)23時10分~午前1時
合わせると5時間20分の放送である。幸いにもこのドラマはCD化され販売されていた。西行の名前というより声の出演者に引き付けられ購入したのである。
CD・Ⅰ/序の巻 青年義清の青春から出家の動機を探る発端篇。
CD・Ⅱ/破の巻 出家を許され西行と名のり歌と共に自分の道を捜しあぐねる若き僧西行の激動篇。
CD・Ⅲ/急の巻 西行高野山に籠り、<保元の乱>勃発。崇徳院の配流と崩御に悲哀 の乱世篇。
CD・Ⅳ/寂の巻 崇徳院の眠る讃岐白峰陵に詣で、その後心穏やかに歌と仏の道を歩き 73歳の春、望みどうり満開の桜の下で永眠する黄金の晩年篇。
<願はくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月のころ>
<仏には桜の花をたてまつれわが後の世を人とぶらはば>
声の出演 西行(佐藤義清)/竹本住大夫
藤原秋実(西行の弟子)/阪東八十助(現三津五郎)
西住(鎌倉二郎・西行の親友)/日下武史
堀川尼(待賢門院の女房の一人・歌人)/川口敦子
寂然(西行の師藤原為忠の四男・歌人)/鈴木瑞穂
寂念(西行の師藤原為忠の次男・歌人)/北村和夫
兵衛佐局(待賢門院の女房の一人・堀川尼の妹・歌人)/白坂道子
玄徹(宋伝来の医術の心得がある聖)/津嘉山正種
登場人物の表現技術に優れた方々の声の出演である。西行の半生を、西行の出合った人々の事を語りつつ、あるいは西行の生き様を語りつつはなしは綴られていく。西行を軸にした磁場は時には激しく、時には諦念を持って、時には穏やかに広がりを見せる。
「西行花伝」では、鳥羽院が崇徳帝を白河法皇の子であると思い込んでいるとしている。鳥羽院・崇徳帝・待賢門院の孤独と悲しみが大きな渦となって嵐となるのを西行は予感し、なんともし難い人間世界を越えるものとして歌の心を追い求めていく。生涯を終えるまで西行の道にも悟りの道が開けたのであろうか。生きている間、皆人はそれを望みつつ死を迎えるような気がするのだが。
凄く贅沢なラジオドラマである。ラジオを聴く時間を持てない者にとってCDに出会わなければこんな大きな作品があったことなど知らずにいたわけである。先ずは出会えた事に感謝!