映画 『夢』

黒澤明監督・脚本の映画 『』(1990年)を見直した。

浅草にある 布文化と浮世絵の美術館「アミューズ ミュージアム」で <美しいぼろ布展>を開催している。青森の厳しい自然のなかでは綿花の栽培は無理で麻布が主で綿布は大事に大事にされ、布というものは繕われ、重ね合わされ、さらに刺し子をして身を守る物として代々伝えられていった。さらに使い古しの着物は細く切り裂かれ、それを織り上げ新しい布(裂織・さきおり)として再生させるのである。

その青森の本物の野良着を使ったのが、映画『』の最後の夢、水車の村のお葬式の葬列に出てくる村人たちの衣装である。その衣装集めを頼まれたのが<美しいぼろ布展>の中心的人物、田中忠三郎さんで一人こつこつと江戸~昭和にいたる衣服や民具をあつめ生まれ故郷の衣服に対しては母親の言葉「布を切るのは肉を切るのとおなじこと」を胸に集められていて、寺山修司さんの映画『田園に死す」でも協力されている。

民族学者、民族民具研究者でもある田中さんの集めた膨大なコレクションの786点は国の重要有形民族文化財に指定されているという。(「物には心がある」 田中忠三郎著より)

映画『』の水車の村で笠智衆さんや村人が被っている帽子(端折・はしおり)は映画『馬』(1941年)を撮影していたとき、山本嘉次郎監督と助監督だった黒澤監督が津軽のその風俗の美しさに目を見張りその記念として買い求めた帽子で、それから50年後に映像の中でいかされるのである。

すげ笠を帽子のように形つくり前の部分が顔が見えるように美しい折り返しとなっている。この映画『夢』のコーナーも「アミューズ ミュージアム」にはあって、裂織の前掛けの美しさとともに目を楽しませてくれる。

そんな事から『』を見直したのだが、黒澤さんの先を見通す眼力には驚いた。そして水車の村を最後にした『夢』は人間の自然の姿を現しており、<夢>ではなく自然の摂理にかなった人の生き方でそうありたいと思う姿である。

この水車の村は、安曇野の大王わさび農場で撮影されている。撮影の時は水車を幾つか新たに設置している。JR穂高駅から自転車で大王わさび農場へ向かう風景は自然に抱かれているようで素晴らしい。駅の反対側には「碌山美術館」もあり、黒澤監督とは違う自分だけの<こんな夢を見た~>と言える『』の映像を創ることができる。

「アミューズ ミュージアム」は浅草寺の二天門に隣接していて、美術館の屋上からはスカイツリーも見え、なんといっても浅草寺を上から真近に見られるのが嬉しい。浮世絵の大胆な構図で眺めている気分になる。

追記: 残念ながら「アミューズ ミュージアム」は建物が老朽化のため閉館してしまいました。