映画 『京都太秦物語』

〔NHK教育テレビ「知るを楽しむ・歴史に好奇心」<映画王国・京都~カツドウ屋の100年>〕(2007年12月)のテキスは中島貞夫監督が書かれている。その中で<大阪芸術大学で教えている教え子に、中国人の向陽という青年がいて、満映をテーマに取り上げた実録風な映画製作に取り組んでいて、私も協力している。>とあり、この映画は『キネマの大地(記録黎明)』のタイトルで2008年に公開されたようである。

更に中島監督は映画の衰退により、撮影所を全く知らない新人監督も増えていることを危惧されている。そして、2007年に立命館大学に映像学部が開設され<学生には松竹京都撮所で実習もやってもらおうと準備を進めている>として<マキノ省三が最初の劇映画を作ってから百年。><先人が残した宝物、偉大な遺産を、どう活用していくか>問題提起をされている。

この立命館大学映像学部の学生と山田洋次監督が共に作ったのが『京都太秦物語』である。嵐電の走る太秦。広隆寺から帷子の辻に至る商店街を大映通りという。ここを歩いた時、この商店街を映画にすると良いのにと思ったのであるが、すでに2010年に映画になっていたのである。そういえば太秦と名前の入った映画があったと思い出し、レンタルショップで手にすると、<大映通り><立命館><山田洋次監督>が目に張り付く。かなり遅れているが、どうやら繋がってくれたのである。

嵐電の車窓も広隆寺も大映通りの商店街もたっぷり映される。さらに実在の商店街の方々も出演である。遅れてはしまったが、余りにもはまり過ぎの映画で嬉しくなってしまう。『京都太秦恋物語』だったのが、恋を取り『京都太秦物語』としたそうで、ラブストーリーであるが<恋>はないほうが<太秦>が活きる。

大映通りのクリーニング店の娘さんが、恋仲のお笑い芸人を目指す豆腐屋の息子さんと結ばれるのかどうかというお話である。娘さんは立命館大学の図書館で臨時で働いている。そこへ、白川静さん系統の文字学を研究している短期研修の青年が現れ、娘さんに猛烈にアタックする。恋と縁のない研究一筋の青年のためその一途さは可笑しいやら、応援したくなるような真面目さである。この青年が『さらば8月の大地』で中国人の脚本家を演じた田中壮太郎さんで、どちらも熱い役どころである。声も魅力的である。<太秦>の語源や命名の謎も解いてくれる。この専門家に対して豆腐屋の息子のUSA(EXILE)さんはダンスを披露してくれる。バイト先のデパートでの夜警巡回中にマネキンに誘われての踊り出しも素敵である。特典の映像によると立命館大学の大学祭の場面など多くのエキストラの移動など学生さんのスタッフは一苦労のようであった。

映画の企画も映像も意味あるものとなり、こちらも遅まきながら、映画のロケ地の発想は当たりであり記念すべき映画の一つである。

監督・山田洋次、阿部勉/企画、原案・山田洋次/脚本・山田洋次、佐々江智明/出演・海老瀬はな、田中壮太郎、USA、西田麻衣、北山雅康、ボレボルズ弓川、アメリカザリガ二、田中泯/ナレーション・檀れい/立命館大学映像学部スタッフ