『仮名手本忠臣蔵』 (歌舞伎座11月) (2)

塩冶判官が腹切り刀を腹に刺す、遅かりし由良之助ついに現れる。別の部屋に控えていた家来たちが摺り足で塩冶判官の後ろにサァーと控える。こちらも由良之助は何時来るのかと待っていたわけで、この辺りの場面設定もさすがである。ここで家来たちの主君に対する忠儀心は一段と増すのである。

国家老・大星由良之助(吉右衛門)は、塩冶判官(菊五郎)の仰せに従い主君の傍による。塩冶判官はやっと心中を吐露出来る人物が現れ苦しさの中から、由良之助に伝える。「憎っくきは加古川本蔵・・・」そこで由良之助はその言葉を全部まで言わせない。この場に及んでそのことは言われるなと止める。塩冶判官もそうだなと納得する。今回初めてである。この台詞から二人の身に添う交流を感じたのは。そしてここでまで出てくる本蔵は芝居的には九段目に繋がるのである。ここにも伏線はあったのだ。この九段目は今回は無い。一月の歌舞伎座での演目となっている。この本蔵がどうなるかは来年新春のお楽しみである。

塩冶判官は腹切り刀で師直の首を取る事を暗示する。この時の塩冶判官の気持ちを汲み取るまでの由良之助のわずかな間。上使に気取られないように分かりましたと自分の腹をポンと打ち、目で伝え、塩冶判官はそれに安堵し息を引き取るのである。このお二人のやりとりは見せ場である。空気が熱かった。この主君の意思をしっかりと血刀とともに懐にした由良之助は、家来達の気持ちを押さえ敵討することを伝え、屋敷明け渡しとなる。この若き役者さん達の家来が一点に気持ちが集中しているのが分かり、この勢いを押さえる役者の大きさを見せる立役者であることが分かった。吉右衛門さんは大きな役者さんであるが、相対する力関係も必要な条件である。そして、その勢いが去ったあと、由良之助は一人屋敷の門前で主君の形見の血刀の血を手に受け口に含み性根を見据え、家紋のついた提灯のじゃばらの部分をたたみ袖にしまい屋敷を後にするのである。場面的には城明け渡しである。

評定の場で家老の斧九太夫(おのくだゆう)はお金の配分のことから我さきにその場を立ち去ってしまう。この<お金>もこれから、様々な人の人生を狂わしていくのである。賄賂といい底辺にはお金がうごめいてもいるのである。中村仲蔵が演じた斧定九郎はこの斧九太夫の息子である。やはりお金が絡む。