『仮名手本忠臣蔵』 (歌舞伎座11月) (3)

主君の関係でありながら、男と男の誓いのせつなき思い(四段目)の後は、男と女の道行である。<道行旅路の花婿>。京都南座12月公演には昼の部に<道行旅路の嫁入>があります。こちらは嫁入りの旅路です。種明かしになりますが(歌舞伎を見られている方はご承知ですが)誰が誰の所に嫁に行くのか。加古川本蔵の娘・小波が、大星由良之助の息子・大星力弥のもとへお嫁入りである。その母に付き添われての道行である。その先どう考えてもすんなりとはいきそうにない。それを知りたい方は京都から東京へ起こし下さり九段目『山科閑居』をどうぞということか。さらに、国立劇場では12月は、「知られざる忠臣蔵」として、私はまだ観た事のない演目が並ぶのである。

さて<道行旅路の花婿>は、塩冶判官のそばにいなくてはならない早野勘平(梅玉)は恋人のおかる(時蔵)と逢引をしていて、刃傷ざたとなり館の中へ入れなくなる。大失態である。おかるの勧めで彼女の郷里に身を寄せる事となり、その旅路の舞踏である。おかるは勘平と所帯を持てると何処か浮き浮きしているが、勘平は切腹しようとまで考え、おかるに止められおかるの郷里へと向かうのである。この男と女の気持ちの違いなどを梅玉さんと時蔵さんが形よくしっとりと踊られる。

この二人にも、幸せとは成らぬ運命が追いかけてくる。おかるとその両親は勘平が仇討に参加したい気持ちを察し、そのための軍資金を得るため、勘平に内緒でおかるは遊女となる決心をする。そのお金を受け取ったお軽の父親は家に帰る途中、盗賊にお金を盗られ殺されてしまう。この悪い男が斧定九郎である。この短い出の悪役を中村仲蔵は工夫を凝らしたのである。今回は松緑さんである。形は良いが、顔の目の化粧の作りが好みではなかった。目の周りの線が濃過ぎていた。松緑さんの目は凄味がきくので化粧の力に頼らなくても良いと思った。この定九郎を猟師になった勘平(菊五郎)が猪と間違って撃ってしまう。暗闇の中、人を殺したと知り勘平は驚くが、お金を何とかしたいため、その懐から財布を盗んでしまう。その財布は舅の財布である。(五段目)

家に帰りつきおかるが遊女となることを知り止めるが、事の次第を聞き、自分の盗んだ財布が舅のものとわかる。自分は舅を殺しおかるが遊女となってこしらえたお金を貰いに行って受け取ったお金半金50両を盗み、そのお金を同志に仇討のための資金として渡してしまっていた。おかるは遊女屋の迎えの駕籠の人となる。苦悩する勘平。一夜の内に勘平の人生は変っていた。その心理の流れを鉄砲撃ちから勘平の思い違いの苦悩までを菊五郎さんは丁寧に演じられる。この場の出で鷹揚に構えていた勘平がどんどん追い込まれていく。姑(東蔵)に血のついた舅の財布を見られ、責められ尋ねてきた同志にもなじられ、ついに勘平は切腹するのである。しかし、舅の傷口は刀傷であることから犯人は定九郎と判明する。早まりし勘平。身の潔白が分かり連判状に血判を押し、死出の仇討参加となる。(六段目)