太田記念美術館 『葛飾応為』

<父は北斎 知られざる異才の女絵師>

葛飾応為(かつしかおおい)は北斎の三女でお栄(阿栄)とされている。太田記念美術館で2月1日から26日まで、応為の「吉原格子先之図」が公開されていてぎりぎり間に合った。吉原和泉屋の張見世の夜の場面、張見世の格子中の様子とそれを眺める外のお客の様子が灯りの<光と影の美>として捉えられている。

格子中も明るいところと影になる部分があり、外は外で、提灯の灯りと照らす部分と影となる部分の立体感が絶妙である。この浮世絵(肉筆)が応為の作品と判明するのは、三つの提灯に<応><為><英>と書かれているので応為の作品であると分るのだそうで、これまた味なことをされる方である。

北斎は数えるのが大変なくらい引っ越しをしていて暮らしも大変だったらしい。北斎と応為の姿が描かれている「北斎仮宅図」を見ても、北斎は布団をかぶり、どう見てもお二人とも絵師としての才と生活の才が均等ではないように見受けられる。

応為の「夜桜美人図」は江戸博物館の『浮世絵展』に展示されていたようであうが、あの広さの作品の多さに対峙する元気がなかったので行かなかった。それと、この作品はメナード美術館が所持しているので、そちらでお会いしたい。ただ、ボストン美術館所蔵の「三曲合奏図」は『ボストン美術館浮世絵名品展 北斎』で9月に巡回で東京にくるらしいのでそれは見ようと思う。市川猿之助さんが音声ガイドナビゲーターであるからして、楽しみが増えた。

今回の太田記念美術館での浮世絵は夜の作品に主眼があって、こういう限定された展示はそこに視点が集中して、浮世絵師の夜の作品への取り込み方の違いや、こういうふうに夜を表現するのかと大変楽しく見ることが出来た。そして、引き返して応為の<異才>を改めて味わった。

北斎の「深川万年橋下」のカーブした万年橋の間から見える富士もよかった。ちょっとここで歌舞伎につながるが、二月歌舞伎座の『心謎解色糸』の米吉さんと廣松さんの芸者の雰囲気の違いが面白かった。米吉さんの小せんは菊之助さんの芸者小糸の動きや台詞によく反応するが、廣松さんのお琴はでんと構えている。そしてお琴の台詞の時思ったのである。廣松さんは辰巳芸者を意識しているのかと。筋書で米吉さんは小糸の妹分として世話を焼く立場と考え、廣松さんは(粋と侠気で知られる)辰巳芸者を工夫する考えを述べられている。なるほどである。

辰巳芸者と言えば、『梅ごよみ』の芸者仇吉の玉三郎さんと芸者米八の勘三郎さんである。あの意地の張り合いがもう観られないのかと思うと、目が潤んでくる。でも若い人たちが一つ一つ学んでいってくれれば花開く日は来るであろう。

応為にも辰巳芸者のような、女絵師としての張る意地を感じてしまう絵師である。