源氏物語 『末摘花』 (1)

ブログを読んでくれている友人が、どこで紹介したのか忘れたが、円地文子さんと白洲正子さんの対談集 『古典夜話 ーけり子とかも子の対談集ー 』が面白かったと言ってきた。ちなみに勝海舟の『氷川清話』は半分で閉じたそうである。

『古典夜話』を読むとやはり<源氏>を読まなくてはと思わされ、どこから入ろうかと思案し、『末摘花』から入る事とする。なぜか。歌舞伎の『末摘花』がパッと浮かんだからである。勘三郎(十八代目)さんの末摘花と玉三郎さんの光源氏である。友人は歌舞伎を観た事がなく、かなり鄙びたところに住まいしているため簡単には観劇できないので、『末摘花』は録画してあり、それをダビングして送ることとした。

そんなこんなで、本のほうは、読みやすい村山リウさんの 『源氏物語 ときがたり 』とする。村山源氏 と古本屋で出会って1年と3ヶ月がたち、やっとひも解くこととなる。<末摘花>というのは<紅花>のことである。<紅花>といえば高畑勲監督のアニメ『おもひでぽろぽろ』である。紅花は棘があり茎の先についている花を上手く摘まなくてはならないので<末摘花>とも呼ばれるのだそうで、『おもひでぽろぽろ』の主人公はその紅花を摘みたくて自分探しの旅にでるのである。

『源氏物語』の末摘花は旅にでることはない。彼女の鼻は紅花のように赤いのである。彼女はじっーと光源氏を待つのである。

夕顔を忘れられないでいるのに珍しい話を聞くと心動かす源氏である。亡き常陸宮(ひたちのみや)の姫君が荒れた大きな屋敷に一人寂しく暮らしていると聞き、その屋敷に出入りしている女官の命婦に手引きさせ姫のお琴を聞く。上手とはいえないが、手筋は良いと源氏は思い想像をたくましくさせ、次に歌を送る。ところが返事が来ず、頭少将も求愛者と知り、源氏は積極的な行動に出て、次に訪ねたときは、ふすまをあけてなかに入ってしまわれた。その後、返歌も面白味がなく、再度の訪れまで時間がたち、気になって朝の雪見をしましょうと姫を誘いだされた。その時、姫の姿と赤い鼻を見てしまう。源氏はこの時、自分しかこの姫の面倒をみる者はないと自分に言い聞かせるのである。それでいながら源氏は自分の鼻を赤くぬり、若紫に色が取れなくなると心配させ、たわむれるのである。紅梅の色に常陸宮の姫君を思い出し、< なつかしき色ともなしに何にこのすえつむ花をそでに触れけむ >としてこの姫を<末摘花>と呼ぶのである。

末摘花はこの後、『蓬生(よもぎう)』で再登場する。『紅葉賀』『花宴』『葵』『賢木』『花散里』『須磨』『明石』『澪標』の後である。源氏は住みづらくなった自分の周辺の様子を察し自ら須磨へ身を引く決心をする。青春真っ只中の源氏はここで身を引くことにより、青春と別れ大人になって行く時期でもあった。人の結びつきのはかなさも分かり、再び京にもどった源氏は末摘花の事を思い出し、もう居ないであろうと訪ねてみると、朽ちた屋敷で末摘花はじーっと待っていたのである。源氏はそれから2年後二条東の院へ末摘花の君を引き取るのである。この<末摘花>は出てはこないが『末摘花』から『蓬生』までを<末摘花>の完結として考えた方が良いとの意見がある。私も読んでいて、源氏の人としての成長が<末摘花>を扱う考え方に変化を与えたと思うし、紫式部も<須磨>の前に意識的に<末摘花>を持ってきたように感じる。

さてさて、歌舞伎の『末摘花』は原作とは違う、これまた素敵な<末摘花>なのである。

友人からのメールを本人の了解を得て紹介しておきます。

「昨夜、『末摘花』見終わりました。旧勘九郎さんの末摘花は、私が勝手に想像していた姫の姿とぴったりで、楽しく見ました。光源氏の玉三郎さんも、はまり役だね。末摘花の女性としての可愛らしさと切なさが、なんとも言えないものがあるねぇ(笑)。」