映画『幕が上がる』

昨年の『近代文学館 夏の文学教室』で平田オリザ(劇作家・演出家)さんの講演の後、平田オリザさん原作の映画『幕が上がる』をDVDで見ていたのですが、書く機会を逸してしまいました。

映画『幕が上がる』は、高校演劇全国大会を目指す高校生の話しです。監督が『踊る大捜査線』の本広克行監督と「ももいろクローバーZ」の5人が主役です。「ももいろクローバーZ」というメンバーは知りませんでした。ですから「ももいろクローバーZ」の5人というより、その役を受け持った俳優さんとしてみました。

彼女たちが住む場所は静岡の岳南鉄道の通るところで、岳南鉄道の吉原駅と比奈駅のホームがでてきました。岳南鉄道吉原本町駅をでたところが、旧東海道の吉原宿ですが、ここは新吉原宿で、かつては、田子の浦そば、駿河湾近くに吉原宿がありました。波風が強く、津波も被害もあり、中吉原宿、新吉原宿と移転したのです。場所によっては旧東海道でも富士山がすそ野までの姿を表わし、歩いているところなので、ここが舞台なのと親しみがもてました。

一年前ですので再度見直しました。今回は全国大会を目指す演劇部長が、『銀河鉄道の夜』を脚色した台本でもあったので、一年前に見た時より深さを感じとることができました。

もうひとつは、今回、平田オリザさんが全国高等学校演劇大会について触れられたことにより全国高等学校総合文化祭というのがあるのを知りました。

2017年の全国高等学校演劇大会は歴史が古く第63回で、全国高等学校総合文化祭は第41回です。今は文化祭の演劇部門として重ねて開催されているようですが、演劇部の生徒にとっては、全国大会決戦の場なのです。今年は宮城県の仙台が会場でした。

演劇部の全国大会は厳しく、地区大会、県大会、ブロック大会があり、全国大会となります。ブロック大会(9ブロック12校が決まる)は11月から1月の間に行われ、さらなる全国大会は次の年の夏なので、ブロック大会に出た三年生は全国大会には出場できないのです。

このあたりのことも今回知りましたので『幕が上がる』も演劇部員の行動もよくわかりました。

地区大会で負けた富士ケ丘高等学校の力量のない演劇部は、先輩の三年生がいなくなり部長は高橋さおりときまります。顧問の溝口先生は頼りにならず、新入生のオリエンテーションで『ロミオとジュリエット』の抜粋をやりますが観る人もまばらで相手にされません。そんな時、新任の美術の吉岡先生からアドバイスをもらい、自分たちの家族を紹介しつつ自分の肖像を描く『われわれのモロモロ 七人の肖像』を外部の観客を呼んで公演します。これが評判がよく、自信がでてきました。

かつて学生演劇の女王と言われた吉岡先生の口から、全国大会を目指すことを提案され、東京での合宿へと怒涛の展開となっていきます。しかしそのために台本の作成の重荷を部長のさおりは担うことになり、実力演劇部の高校から転校してきた中西に相談します。中西は、さおりに全国高等学校演劇大会へのボランティアスタッフとしての参加をすすめます。それが2014年の<いばらぎ総体>です。

上演時間は60分。その中に20分のしこみ(上演舞台の設置)時間がありますから上演は40分です。高温度の高校生の演劇への情熱を体感したさおりは中西に演劇部への入部を誘います。その場面が岳南鉄道比奈駅の夜のホームなのです。その時さおりは、『銀河鉄道の夜』の脚本を書くアイデアを中西からもらいます。

二人の旅の岳南鉄道は車両が一両で、車窓からの風景などが印象的です。富士山もですが、この地域は水が豊富なので、製紙工場など工場群でもあるのです。そして、演劇部の全国大会の様子も興味深いです。

東京合宿へは中西も参加しました。吉岡先生は東京で演劇を目指す人が星の数ほどいることを教えてくれます。練習の甲斐が合って地区大会で県大会への参加校3校に選ばれます。県大会へ向けてさおり部長のもと練習が続きます。そこには吉岡先生はいません。そして県大会の今を、富士ケ丘高校の演劇部員は味わっています。

現実の全国高等学校演劇大会を軸に、その代表として一つの高校演劇部が紆余曲折して県大会の今に行きつく映画です。昨年見た時は、よくある青春映画と思っていましたが、今回は演劇部とさおり部長の脚色した『銀河鉄道の夜』の練習場面や大会での舞台の切れ切れを見ながらその関連性と<ももクロ>メンバーの俳優への一歩一歩も重なりました。

幕が上がる、その前に。彼女たちのひと夏の挑戦』というメイキングDVDも出ていて、これも二回目ですが、平田オリザさんのワークショップもあり、アイドルを払拭した俳優一年生から挑む彼女らの真面目さも、一層気持ちよく受け止められました。編集のためでしょうか、本広克行監督が<ももクロ>メンバー一人一人の特性を生かし、彼女らと一緒に作り上げていくのが印象的です。監督からの強い語調の場面がなく、カットしたのと思うほどです。それほど、彼女たちの演技の感性の良さに、彼女らの力の出る状況を作り出す配慮をしておられました。

演劇世界の果てしなき先を目指す高校演劇部員の映画です。

監督・本広克行/原作・平田オリザ/脚色・喜安浩平/音楽・菅野祐梧

頼もしくなっていくさおり部長(百田夏菜子)、お姫様から実力派に変身のユッコ(玉井詩織)、ひょうきんでがんばり屋のがるる(高城れに)、演劇を捨てなかった中西さん(有安杏果)、失敗も多いが可愛がられる二年生の明美ちゃん(佐々木彩夏)、頼りないが語りたがる顧問の溝口先生(ムロツヨシ)、いつも毅然として部員のあこがれ吉岡先生(黒木華)、抜群の声の持ち主滝田先生(志賀廣太郎)、オジサン演出家の名前は知っているさおりの母(清水ミチコ)、演劇部の杉田先輩(秋月成美)、演劇部員2年生(伊藤沙莉、大岩さや、吉岡里帆)、演劇部員1年生(金井美樹、芳野京子、那月千隼、松原奈野香)、最後にやっと登場(松崎しげる、笑福亭鶴瓶)、ちらっと映る(平田オリザ人形)

 

全国高等学校総合文化祭で選ばれた「演劇・日本音楽・郷土芸能」の三部門の最優秀校、優秀校は、東京の国立劇場で発表会があるのも知りました。(今年は8月26日、27日ですがチケットぴあでの予定枚数すでに無し。残念。)

スーパー歌舞伎にたずさわり、さらに、スーパー歌舞伎II(セカンド)『ワンピース』の脚本を担当されている横内謙介さんは神奈川県立厚木高校演劇部時代、全国高等学校演劇大会に出場され優秀賞と創作脚本賞を受賞されています。経歴としては知っていましたが、全国大会の実態が今回わかりました。全国の高校演劇部員、頑張れ!