川島雄三監督映画☆『箱根山』(俳優・藤原釜足)

藤原釜足さんの脇役で出演されている映画は沢山ありますが、川島雄三監督目的で見に行った『箱根山』に出演されていて、物語の展開からもかなり重要な役どころでした。

箱根山』 加山雄三さんと星由里子さんを主人公にした青春ものといえますが、その周辺の大人たちに演劇力ある俳優さんたちをきちんと配置して、その大人たちをも越える新しさで若い人が自分たちの生き方を目指すというコメディ映画です。

箱根の山は天下の嶮の箱根が観光開発で交通関係会社が二分する争いの中、二つの老舗旅館はもとは血縁同士なのですが150年以上前から犬猿の仲です。玉屋には老齢ながらかくしゃくとした老女将・里、大番頭、若番頭(東山千栄子、藤原釜足、加山雄三)が、若松屋にはアマチュア考古学研究で商売がお留守な主人、女将、女子高生の娘(佐野周二、三宅邦子、星由里子)がおります。

観光開発会社のワンマン社長(東野英治郎)は、箱根にも乗り出し観光化に驀進しています。視察にきた社長に社員が、富士山のすそ野に見える木々を「じゃまですから切りましょうか」と言うと「あれが無くなったらただの山じゃ。そのまま。」と言います。自分は発想が違いそれで成功したのだということを強調しているような発言ですが、富士山をただの山というのが逆説的で可笑しかったです。俺の手に架かればという強気です。

加山雄三さんの乙夫は、父が外国人で本国に帰り、日本人の母は亡くなり玉屋の里に育てられ、里に恩義を感じていますが、今の箱根と旅館の状況をよく分析しています。若松屋の星由里子さんの明日子とはロミオとジュリエットのような関係ですが、明日子は名前の通り、先のことしか考えていません。

なんと乙夫はワンマン社長の会社に就職します。観光化の波に自ら飛び込み学ぼうじゃないかという考えです。明日子も自分も女将業の勉強をして何れは二人で新しい旅館経営を考えようということなのです。

大番頭はそこまでのことを知ってか知らずか、二人の仲を知っていながら里には隠しています。

玉屋が火事にあってしまい里は、若松屋で明日子に優しくしてもらいます。里はお礼を言いつつも、若松屋に助けられた自分が情けなくご先祖様に申し訳ないと寝込んでしまいます。ところが、お金をつぎ込んで温泉を掘っていたのですが、お湯がでましたとの大番頭の報告に、床を上げさせこうしちゃいられない負けてなるものかと闘志を燃やすのです。それを聞いた若松屋の主人も、よしうちも負けられないとご先祖からのいがみ合いはまだまだ続きそうです。

大番頭は、里にごもっともですと仕え、温泉を掘る職人(西村晃)の機嫌をとったり、里の命令通りあちらこちらに気を回しながら忙しく動き回ります。大人たちの思惑とは関係のないところで若い人たちの生き方が、大番頭の苦労をねぎらってくれそうな予感ですが、深く考えてはいなくて、ただその場その場を里のために動く大番頭の藤原釜足さんが番頭そのもの色で好演です。

老政治家の森繁久彌さんがお馴染みの玉屋を訪れ、その扱いかたの東山千栄子さんの老女将がこれまたいい味です。政界から身を引いている森繁さんと東山さんがでてくることで、老舗の格が上がり、老舗旅館の女将とはこういうものであろうという空気が出ています。東山千栄子さんは『紀ノ川』では、孫娘を嫁がせる旧家の祖母としての品ある貫禄で存在感のあるかたです。

ホテルの中で一日遊ぶというリゾート型の新しいホテルの支配人の有島一郎さんなど役者を上手く使う川島雄三監督の手法は、この作品でも生かされています。

原作は獅子文六さんの『箱根山』で、脚本は井手俊郎さんと川島監督です。原作にはモデルがあるようで、場所は箱根の芦之湯で、<芦之湯バス停>から元箱根に向かうバス停一つ先には、<曽我兄弟の墓バス停>があり、されに一つ先には<六地蔵バス停>があり、このあたりは石仏群もある歴史の古い場所です。この辺りのことは 映画『父ありき』 に書いています。

藤原釜足さんは黒澤明監督の常連でもあります。脇役で出られている作品は沢山あります。『天国と地獄』でも、犯人が身代金に入っていたバックを自分の勤めている病院の焼却場で焼きますが、煙突から警察の仕掛けて合った赤い煙があがります。焼却場の仕事をしているのが、藤原釜足さんです。刑事に質問される短い時間ですが、知らないことをマネして演じるというより、そのままの雰囲気を無理なく演じられていて空気のようにふーっと出てふーっと消えます。

黒澤明監督は、今井正監督の『青い山脈』で次のように話されています。

何でも一番最初の作品がたいていよくてさ、すぐ『青い山脈』か『伊豆の踊子』ってなっちゃうんだから。今井監督のこれはとてもハツラツとしているし、釜さん(藤原釜足)の所なんかすごく良いでしょ。 (『黒澤明が選んだ100本の映画』黒澤和子編)

釜さんのでていた所が全然頭に残っていません。録画していないかと探したのですが無いんですよね。釜足さん、濃い色は出されていないと思います。自然にそこにいるんですよ。

『祇園祭』にも、戦いで無くなる大工役で、その意志を息子が継ぐという流れでした。

これからも見る映画のなかで、おっ!釜さん出ましたという出会いがあるでしょう。

監督・川島雄三/原作・獅子文六/脚本・井手俊郎、川島雄三/出演・加山雄三、星由里子、東山千栄子、藤原釜足、佐野周二、三宅邦子、東野英治郎、有島一郎、小沢栄太郎、中村伸郎、藤田進、西村晃、藤木悠、児玉清、北あけみ、塩沢とき、森繁久彌、