能登半島から加賀温泉郷への旅(番外篇)(5)

化生の海』を書かれた内田康夫さんと浅見光彦にありがとうです。そして、この本を置いてくださっていた<北前船主屋敷蔵六園>にもです。

化生の海』は今回の旅をさらに膨らませてくれました。内田康夫さんは歴史的な裏付けをされるので、それを読むだけでもそうなのだと新たな知識を頂きます。浅見光彦は雑誌『旅と歴史』のルポライターということもあり、内田康夫さんに劣らずよく調べてくれ、さらにソアラに乗って動いてくれます。今回も北海道の余市に住む男性が加賀の橋立で死体で発見されるのですから、加賀に話しが移動するであろうし、こちらの旅と重なるのかどうか楽しみでした。

殺された三井所剛史(みいしょたけし)は、家族に松前に行ってくるといって出かけ、発見されたのは加賀の橋立漁港の近くの海中です。娘の園子は余市のニッカウヰスキーの工場見学案内係りをしていて、受付の女性が浅見光彦の友人の妹で、5年たっても進展のない事件を浅見光彦が調べることになるのです。

松前城の資料館で、三井所剛史が持っていた箱に入った土人形と同じ人形を発見します。函館では、三井所剛史が中学2年の時作文コンクールで最優秀になった作文をみつけます。浅見光彦は北海道へは取材旅行としてきていますから、「北前船の盛衰」でもテーマにして雑誌社に一文を送ろうと思っています。そのことから橋立が北前船と関係ある土地だと知るのです。江戸時代から昭和27年まで、「江沼郡橋立村」は、大阪と松前を結ぶ不定期回船北前船の根拠地の一つであると。

函館の「北方歴史資料館」も訪ねていて、高田屋嘉兵衛の記念館でもあるらしく、彼は函館の廻船問屋で財をなした函館の中興の祖なのですが、ニシンを獲るだけ獲ってそれを肥料にして儲けたのです。生の魚(塩づけとか乾燥にもしますが)と違い肥料は日にちがもちます。二代目の時ロシアとの密貿易の嫌疑をかけられ闕所(けっしょ)に処され、所領財産を没収され、所払いとなっていますが、四代目の時闕所が解かれていますので、いいがかりだったとの説もあるようです。こちらは、函館を旅した時、名前だけでしたので、今回その様子を知ることが出来ました。

いよいよ加賀の橋立に向かいます。読みつつわくわくします。そして山中温泉につながっていきます。山中節の歌詞に「 山が赤うなる木の葉が落ちる、やがて船頭衆がござるやら 」というのがあり北前船の帰りを待っているわけです。

土人形は、裏に「卯」の字があり浅見光彦は<北前船の里資料館>で全体の感じが似ている土人形を見つけます。その人形の裏にも「卯」の字がありました。そして光彦の母から、自分が若い頃旅で見た「卯」の字がついた人形は「津屋崎人形」だと教えてもらいます。九州福岡市から少し北の小さな港町で、もちろん、浅見光彦は行きます。ところがその間にまた一人行方不明となり、その車と死体が発見されるのが、九谷焼窯跡の先の県民の森のさらに先なのです。地図をみつつここあたりなのだと確認しました。

いよいよ事件は佳境に入って来て、北海道の余市から、三井所園子と母もやってきます。その後は書きませんので興味があればお読みください。

函館の五島軒のカレー、港の倉庫群、行ってはいませんが山中温泉のこおろぎ橋、無限庵などもチラッとでてきます。九谷美術館、山中塗と輪島塗の違いなどもあり、登場人物の父と兄が船の事故で能登の義経の舟隠しあたりで見つかったなどという話しも出て来て地理的にもわかり、文字が身近な事として生きてきました。そういう意味でも楽しい内田康夫ミステリーワールドを充分味わわせてもらいました。

能登演劇堂は能登の中島町の町民の方達のボランティアが大きな力となっていますが、映画『キツツキと雨』(2011年)は、映画ロケに協力するロケ地の木こり職人と新人映画監督との交流、村人や映画スッタフの撮影現場の様子を描いている佳品です。

真面目一筋の木こり職人・岸克彦(役所広司)は、妻を二年前になくし、息子(高良健吾)と二人暮らしですが、この息子が無職で一人立ちできないのです。そんなことに構わず木を切る仕事をしているとチェンソーの音がうるさいから少し仕事を止めてくれと言われます。何かと思って様子をみますと映画のロケらしいのです。

人の好い克彦は、撮影場所に案内したりするうちに、このロケに次第に協力体制に入ってしまいます。ワッオー、映画のロケだ!などのノリは無く、いつのまにかそうなっていくのが、とぼけているわけではないのになぜか可笑しいのです。よく判らないのだが、助けなくてはならないのかなあの感じです。

新人監督の田辺幸一(小栗旬)は自分の脚本にも自信がなく、ベテラン助監督に引きずられるような感じで、これで映画が完成するのであろうかの様そうです。ところが、克彦が加わってから、すこしづつ空気がかわっていきます。言われたことをするだけなので、自分を主張するわけではないのですが、村の人を巻き込むとなると俄然力を表すのです。

そして、監督の幸一でさえ面白いと思えない脚本を読んで面白いと真面目にいうのです。田辺監督も次第に撮影に自分の意見を言い始め、克彦も監督用の木の椅子を提供したり、ゾンビとなって村人と映画に出演したりして盛り上がっていきます。

ザーザー降りの雨に克彦は木こりの勘で晴れるといいます。さてどうなりますか。

ほのぼのとしていて、克彦に衒いのない真面目さと、監督の幸一の自信の無い影の薄さのコントラストがコミカルさを発散しています。村人がゾンビになって撮影する場面も笑ってしまいます。

どうやら克彦と息子の気持ちにも同じ風が吹き始めたようで、どうなるかと思った撮影も大物俳優(山崎努)から田辺監督は認められたようです。

この映画、役所広司さんが『無名塾』出身だからというわけではありませんが、紹介したくなりましたので書いておきます。

監督・沖田修一/脚本・沖田修一、守屋文雄/出演・役所広司、小栗旬、高良健吾、臼田あさ美、古舘寛治、黒田大輔、森下能幸、高橋務、嶋田久作、神戸浩、平田満、伊武雅刀、リリィ、山崎努