北林谷栄さんとミヤコ蝶々さん

水木洋子さんはエッセイの中でお二人の事を書かれている。

北林さんは映画「キクとイサム」の時 <その最初の打ち合わせに農村漁村の分厚い風俗写真集や、へキ地で老婆から譲りうけた着物や帯や、財布のアカじみた数々をかつぎこんで、どれにしようかと見世をひろげる北林谷栄の土根性は、映画を金かせぎと考える人たちには見られない一本気であり、またヅラ(かつらのこと)一つにしても、予算で意にそわないものは、自前を投じても他であつらえなおすという慎重さは、顔に描くシワひとつにしても背や腰に入れるフトンひとつにも彼女独自のチミツな工夫がある。>

水木さんは映画「喜劇 にっぽんのお婆あちゃん」の北林さんの競演するお婆さん役にミヤコ蝶々さんを希望した。 <映画で北林さんと競演の時、ひそかに8ミリで自分の歩きつきを研究し、北林さんはコンタクトレンズに凝るなど、火花の散る両者であったが、私の目算通り、蝶々さんは創り上げた相手に対し、さりげなく淡々と味を滲み出して天下の婆さん女優に遜色を見せなかった。>

ミヤコ蝶々さんは <それからお婆さん役が続々ときて、音を上げ、イメージがこわれると断るようになったと聞いている。>

「喜劇 にっぽんのお婆あちゃん」のラスト、自殺を考え薬を飲もうとする蝶々さんが見るテレビの中に北林さんが、マイクを突きつけられテレビ局の演出のもっていきたいほうにしゃあしゃあと養老院で上手く行っていると答えている。北林さんは自殺まで考えて飛び出して来た所なのだからバラ色の世界の場所ではない。蝶々さんもそれは解かっている。でもここだけしか自分の居場所が無いと悲観するよりも、同じ行動を取った友もいるということに生きる価値を回復させるのである。したたかな老人にならなければ。

役者としてもそれぞれの個性を貫くしたたかな心意気をもたれたお二人である。

こちらでも少し触れている →https://www.suocean.com/wordpress/2012/12/16/