《満天姫》の周辺と大滝秀治さんの事など

舞台『満天の桜』の脚本家・畑澤聖悟さんは、民藝への書き下ろしはこれが二作目で、一作目『カミサマの恋』では、奈良岡朋子さんが津軽弁で演じられたので観たかったのであるが残念ながら時間が取れなかった。奈良岡さんは女学生時代弘前に疎開されてて、きちんとした津軽弁であったようだ。

畑澤さんは青森県立青森中央高校の演劇部顧問でもあり震災の被災地からの転校生を巡る作品『もしイタ~もし高校野球のマネージャーが「イタコ」を呼んだら』をつくり、第58回全国高等学校演劇大会で最優秀賞を受賞している。被災各地を部員とともに無償で上演してもいるらしい。

満天姫に関しては、歴史小説「満天姫伝」(高橋銀次郎著)があり、ネットで「満天姫旅日記」を検索すると、作者の取材の旅を辿ることができる。チラッとのぞかせてもらったが思いがけない地にも満天姫の足跡があるようで再度ゆっくり読ませてもらう。

劇団民藝の長老・大滝秀治さんが役者人生を全うされた。最後に観た『巨匠』の最後まで俳優を貫いた役と重なる。ありがたい事に『浅草物語』『喜劇の殿さん』『座漁莊の人びと』なども観させてもらった。思うに、三演目とも小幡欣治さんの脚本で奈良岡朋子さんとの競演である。

『浅草物語』では、吉原の花魁あがりの20歳年下の奈良岡さんに惚れて結婚を考える大滝さん。結婚などさらさら考えていないさっぱりの奈良岡さんに対し、ルンルンの大滝さんが可笑しかった。『喜劇の殿さん』は喜劇役者ロッパさんの話。一世を風靡したロッパ(大滝)さんも晩年は日のあたらない場所に。ミヤコ蝶々(奈良岡)さんが、自分の劇団に招くが演技になら無い。楽屋でこれだけをしてくれればいいからと指導するがそれも覚束なくなっていた。『座漁莊の人びと』では西園寺公望(大滝)の別荘・座漁莊にもと奉公していた新橋の芸者・片品つる(奈良岡)が執事に懇願され女中頭として7人の女中を束ねていく。これは西園寺公望さんがどういう方かよくわからないので困ったが、つるさんが西園寺さんの為に女中さんたちをまとめていくところは面白かった。西園寺さんは偉い方でも、日常的にはつるさんに任せるしかない。何か奈良岡さんがいつも大滝さんをしっかり支える役で、それがお二人の演技に合っていて、その兼ね合いをいつも楽しませてもらっていたような気がする。その掛け合いがもう観られないのは淋しいことである。合掌。