映画『めぐり逢わせのお弁当』『聖者たちの食卓』

映画『めぐり逢わせのお弁当』はインドのムバイが舞台である。世界のそれぞれの国には、思いもよらないシステムがあるのだと驚かされる。

イラは夫のために腕をふるいお弁当を作る。ところが、夫の反応はいつも同じ。戻ってきたお弁当にある日手紙が入っていて、お弁当の批評が書かれている。お弁当は、夫ではない人に届きその人からの手紙であった。イラはその人のためにお弁当を作り、手紙を待つようになる。相手のサージャンは、早期退職を前にした単調な日々に楽しみを見つけるのである。二人は次第に相手に好意をもつようになり、愛を感じ始めるのである。

このお弁当を届ける仕事がある。<ダッバーワーラー>と呼ばれ、各家にお弁当を取りに行き、それを自転車で貨車に運び、貨車が着いた所にそれを受け取る人がいて、自転車に積み、会社の働く人の机の上にお弁当を配達するのである。飲食店にお弁当を頼んでいる人もいて、<ダッバーワーラー>は、飲食店にお弁当を(自分用のお弁当入れを預けているらしい)取りに行きそれを届けるのである。5千人の<ダッバーワーラー>が一日20万個のお弁当を届けるのである。その様子がドキュメント映像のようで、まず驚いた。ハーバード大学の分析によると、誤って配達されるのは600万分の一だそうである。あり得ないような確率を突破して生じた誤配によって生まれたロマンスということである。

イラのお弁当入れの容器は四段重ねで、一つにはイラが焼いたチャパテが入っており、残りの三つに手をかけた料理が入っている。イラがこの料理を上階の年配者の意見を窓から聞きつつ作る様子は無関心の夫の関心を曳こうとする気持ちが伝わる。ところがその一途さは手紙の返事のために使われることとなる。

恋愛映画としても面白い発想で、心あたたまるが、<ダッバーワーラー>とインド料理ってこんなに種類があるのかと、そのことに興味が奪われた。そしてその時手にした『聖者たちの食卓』のチラシである。

ドキュメンタリー映画『聖者たちの食卓』。黄金寺院(ハリ・マンディール)での、毎日豆カレーを10万食作っている無料食堂である。インド北西部バンシャープ州の都市アムリトサルにある、シク教徒の神聖なる寺院<黄金寺院>で500年以上伝わっている習わしである。

この習わしの意味は、宗教、カースト、肌の色、年齢、性別、地位などに関係なくすべての人が平等だというシク教の教義によるのだそうで、巡礼者、旅行者のために無料提供しているのである。その舞台裏を公開し映像を許可したわけである。ひたすらニンニクの薄皮をむいたり、豆をさやから出したり、チャパテを焼いたり、巨大なべをかき混ぜたり、当たり前の行為として、粛々と執り行われていく。皆で食べ終わると、その後かたずけも圧巻である。食器は上手に投げ入れられ、洗い場では人々が一枚一枚洗い、次の人は綺麗に磨き、それらに使うふきんが鋏で綺麗に切られ畳まれ、あらゆる作業が一つの流れとなってどこかでつながっていくのである。分業なのであるが、工場の分業作業の冷たい感覚とは違う空気である。音楽は時々聞こえてくる、シク教のコーラスの声だけである。後はその場で起こる音だけでありそれもこのドキュメントには合っていた。

映画のあとで、建築家でインド建築の研究家である神谷武夫さんのトークイベントがあり、<黄金寺院>の解説があった。映画でも映されたが、廻りを白い建物で囲まれた中庭が池になっていて、門をくぐって橋を渡ると池の真ん中に<黄金寺院>が建っているのである。

眺められているだけではなく、この建物の中で一度に五千人の人が豆カレーを食べるのである。10万人とすると、一日20回の食事である。陽が白々と明けるころから、陽が沈むまで、この寺院の無料食堂は、お腹を満たす幸福の食器の音を奏でている。

インド映画は幾つか観ているが、またインドの違う面を見せてもっらった。

〈 神谷武夫と黄金寺院 〉 で検索すると、<黄金寺院>の様子が探しあてられるでしょう。