歌舞伎座十月 『伊勢音頭恋寝刃』

『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』<油屋店先><同奥庭>

伊勢神宮の参拝客で賑わう古市の遊郭で多くの人が殺された実際の事件を芝居にしたものである。お伊勢まいりには、御師(おし)という神職でお伊勢まいりの斡旋をしていた職業の人がいて、主人公の福岡貢(ふくおかみつぎ)はその御師でもとは武士で、旧主の刀折紙(鑑定書)を探している。その折紙を油屋にいる旅行者が持っているとの情報がはいる。油屋には恋仲の遊女お紺がいる。このお紺は折紙を手に入れるため、貢に愛想尽かしをして、折紙を手に入れる。もう一つ事態を複雑にするのが、旧主の今田万次郎が探している名刀青江下坂(あおえしもさか)を貢が手に入れ、それを油屋で鞘と中身を取り替えらてしまう。それを知った貢の元家来で今は油屋の料理人となっている喜助が、貢が帰る時、名刀のほうを渡すが、鞘が違うため油屋に引き返した貢は、逆上しているため、些細なことから大量殺人となってしまう。

その最初の犠牲者が仲居の万野である。まあこの万野が憎たらしいのである。万野にしてみれば、貢はお金にならない客である。もろに仲居の仕事上の意地悪さが出る。もともと万野は貢をよく思っていないらしく、貢に恋するお鹿に貢がお鹿のことを思っているように細工していたのである。本当に憎らしい仲居の万野。仲居の万野は誰?玉三郎さんである。貢を苛めるのが楽しみで、玉三郎さんが出てくると待ってましたである。こういうのは芝居であるだけに楽しい。しぐさ、声、台詞の調子、憎たらしさがそろっている。貢の勘九郎さん煽られるだけ煽られる。お紺の橋之助さんはしこめなのだが、顔のつくりも大袈裟にせず、おふざけも押さえて、お紺そのものという感じがいい。

お紺の七之助さんは自分は、折紙を手に入れるのが私の仕事とその事に集中しているらしく、貢の腹立ちなど何のそので愛想尽かしをある。この時観客はお紺の気持ちを知らないから、そのさっぱり感が今回は効を奏す。ますます貢は怒り心頭にたっするのである。

料理人喜助の仁左衛門さんは、予定通り中身が本物の刀をしっかり貢に渡す。お客が自分の刀ではないと騒ぎ、取り替えてくるよう万野に言われるが、貢に本物を渡してあるので落ち着いて追いかける。ところが、行き違いとなる。

そもそも、はじめに、貢は旧主の万治郎と行き違ってしまうのである。ここで会って刀を渡していれば、事は起こらなかったのである。その万治郎の梅玉さんの品を表す柔らかい出はいつもながらのさすがさである。

<奥庭>のしどころの多い場面も、押さえていた怒りが名刀と共に狂い舞い、勘九郎さん見せ場を一つ一つ決めていく。白かすりがよく映える。