歌舞伎座 2月 『積恋雪関扉』

『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』。常磐津の大曲である。様々な錯綜があり、桜の精が現れるなど、物語性の強い作品である。それを舞踊で見せると言う難解でありながら、ここはどういうことなのかと分け入りたくなる世界である。あらすじを押さえて観たほうがより深く味わえる演目である。

登場人物は、良峯宗貞、関守の関兵衛、小野小町姫、傾城墨染(小町桜の精)である。場所は雪の逢坂の関である。雪が積もっているのに、この関に満開の桜が一本ある。この桜は、仁命天皇崩御に伴い薄墨桜となったのが、小野小町の和歌の徳によって色を増したとされ、小町桜と呼ばれている。

良峯宗貞は、天皇陵を守りつつのわび住いで、そのそばにある逢坂の関には関兵衛が関を守っている。そこへ宗貞の恋人・小野小町姫が現れる。当然、関守・関兵衛と小町姫との問答となり、その後、宗貞と小町姫の馴れ初めの二人の恋話の踊りとなる。ところがここで、二人の仲を取り持つ関兵衛の懐から割符が落とされ、三人は探り合いとなるが関兵衛は引っ込む。

鷹が、血で<二子乗舟(にしじょうしゅう)>と書かれた片袖を足に結びつけて飛来する。それは、宗貞の弟・安貞が兄の身代わりとなって死んだことを意味し、その袖の落ちた石から、大伴家の宝鏡が見つかり、割符は小野篁(おのたかむら)が奪われた割符と判明。関兵衛を怪しみ宗貞は、ことの次第を篁に知らせるべく、小町姫を送り出すのである。

小町姫の化粧蓑をつけた赤姫の菊之助さんの花道の出が、何んとも愛いらしい。薄墨色の桜が、赤姫の赤を受けて、元の桜色に戻ったと思えるほど、赤が映える。無骨な関守・関兵衛の幸四郎さんとの問答も対照的で面白い。ここでの関兵衛の振りは、初代中村仲蔵が工夫したところで、「天明振り」あるいは「仲蔵振り」と言われるのだそうである。見どころである。宗貞の錦之助さんと菊之助さんの踊りも二枚目と赤姫の踊りとして息が合っている。鷹の出現は、中国の故事に因むんでいて、関兵衛の素性を探る引き金となっているが、幸四郎さんは、朴訥な愛嬌も見せ、素性は現さない。

酔って現れた関兵衛は、さらに一人大杯を飲み干そうとすると、大杯に北斗七星が写り、それが、謀反の時と、小町桜を祈りのための護摩木として切り倒すため斧を研ぐ。桜の木を切ろうとするが、何かによってそれが遮られてしまう。桜のウロには、宗貞の弟の安貞と契を交わした、傾城墨染が写る。そして、墨染が姿を現し、関兵衛との問答がある。墨染は関兵衛に会いに来たと告げ、二人で廓話の踊りとなる。墨染が血文字の肩袖を見て涙するのを見て関兵衛は怪しむが、墨染は、これは関兵衛が女から貰った起請であろうと焼きもちを焼く振りをしてごまかす。

ラストは、関兵衛は実は、大悪党の大伴黒主であり、傾城墨染は小町桜の精が人間の墨染となって現れたのである。桜の精の力を借り現れた薄墨は、安貞の仇をとるべく、黒主と激しく争い、二人それぞれの形がきまり幕となる。

赤姫から今度は、桜の精でもある傾城の怪しい色香で菊之助さんは出現し、廓話はひょうきんさも加わった関兵衛の幸四郎さんと艶っぽさも加えて踊られる。とにかく常磐津の詞と語りとあいまって、そこのところもう一度聴き直したいと何度も思ってしまった。

流れとしてはまだ捉えられないが、部分部分の踊りや駆け引きが、ぽんぽんと思い出される。ぶっかえりの黒主になってからの幸四郎さんに悪の大きさがあり、『関の扉』は今までより好きな演目さを増した。

もう少ししっかり、常磐津と踊りを見直したいと、DVDを購入した。幸四郎さん、菊之助さん、錦之助さんの『関の扉』を思い起こしてから、観ようと思っていたので、これでDVDを観ることができる。

さらに、京都東山の六道珍皇寺での、<小野篁>の名前が出てきて、やっと篁さんが少し身近になった。