映画『ペンタゴン・ペーパーズ』

  • 映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書 』を観た。アメリカ主要新聞社で初の女性発行人・キャサリン・グラハムのメリル・ストリープの演技が光る。キャサリンは、父から夫へ受けつがれたワシントンポスト紙を、夫の死後、娘である自分が受け継ぐことになる。主婦で子育てだけをしてきたキャサリンは、何んとか新聞社の経営を上手くやっていこうと努力している。

 

  • 編集主幹のベン・ブラドリーのトム・ハンクスは、他の新聞社のスクープが気になる。特にニューヨーク・タイムズの動きには神経をとがらせている。ベンが机に足を乗せる姿は『大統領の陰謀』のベン・ブラドリー役のジェイソン・ロバーズのほうが様になっていて、個性が強い。身体のつくりがしっかりしたトム・ハンクスは体ごとぶつかるような熱血編集者で、結果的には、最高機密文書掲載のGOサインを出した社主のキャサリンの決断の凄さを反映させる役回りをも担う。

 

  • キャサリンはあちらにもこちらにも気を使い、ベンと食事をしつつこうではと意見をいうが、ベンに記事に関しては意見を挟まないでくれと釘を刺されてしまう。そんなとき何か動きがおかしいとベンが思っていたニューヨーク・タイムズが、政府のベトナム戦争に関する最高機密文書を公表するのである。即、ニューヨーク・タイムズには政府から記事差し止めの圧力がかかり裁判となる。そんな時、ワシントン・ポストにも同じ最高機密文書が手に入る。ベンは燃える。

 

  • キャサリンは最高機密文書が手に入らなければいいがという思惑もあったと思う。キャサリンの表情にその不安がみてとれる。そのあたりのメリル・ストリープの表情の変化が観ている方にもどきどきさせる。キャサリンは国防長官のマクナマラと、夫が生存中から友人関係であった。ベンもJ・F・ケネディとは友人関係である。しかし、新聞人としては別に考えることであると認識する。30年間政府が隠し続けてきたことを国民に知らせなければならない。ベトナムで戦争でこれ以上若者を死なせてはならない。

 

  • ベンの妻は夫の正義感を認めつつ、キャサリンの凄さを夫に告げるが、それが一番キャサリンを正確に評価している台詞となっている。さらに、ワシントン・ポストも裁判にかけられその判決の知らせの電話を受けて、新聞社の仲間に報告するのが女性記者である。6対3で無罪。こういうところも、女性を中心に据えていて上手いと思った。

 

  • キャサリンは、父でもなく、夫でもなく、私の新聞社であると言い切る。キャサリンが、腕を組むと、それを見てベンも同じように腕を組むのが、なんとも好いツーショットである。ニューヨーク・タイムズが最高機密文書を掲載したとき、ワシントン・ポストの一面はニクソン大統領の娘の結婚式の写真だった。それも、ある記者は取材拒否されて代わりの記者に取材させたのである。ベンが熱血感に燃えるのも当然である。

 

  • この映画はキャサリン・グラハムという女性が、きちんと新聞の報道という役目を間違わずにワシントン・ポストを守ったというキャサリンに主眼が置かれている。それを同士として支えたのがベン・ブラドリーで、最後は、民主党本部に部屋のドアが細工されていて、それを、警備員が見つけるという場面となり、ウォーターゲート事件へのつながりを予告するのである。そしてなぜFBIの副長官・マーク・フェルトがワシントン・ポスト紙に情報を流したのかも納得できるわけである。メリル・ストリープとトム・ハンクスの共演もそれぞれの演技のキャッチのしかたも垣間見せてくれる。アメリカの成熟度がわかる映画でもあった。

 

  • 最後のクレジットに「ノーラ・エフロンに捧ぐ」と映された。ノーラ・エフロンとはどんな方かなと検索しましたら、脚本家で映画監督でした。彼女の作品観てます。メグ・ライアンのロマンティック・ コメディ映画。メグ・ライアンは好い意味でキュートでした。『恋人たちの予感』(脚本)、『めぐり逢えたら』(脚本・監督)、『ユー・ガット・メール』(脚本・監督)、『電話で抱きしめて』(脚本)。その他『奥さまは魔女』(脚本・監督)、『ジュリー&ジュリア』(脚本・監督)。俳優中心で監督など気にしてませんでした。申し訳ない。

 

  • ノーラ・エフロンは『大統領の陰謀』で活躍した実在のワシントン・ポストの記者・カール・バーンスタインと結婚していたことがあったのです。そのことをモデルにした映画が『心みだれて』(脚本)でした。メリル・ストリープとトム・ハンクスとも仕事をしています。驚きました。こんな方向に行くとは。

 

  • ペンタゴン・ペーパーズ』の脚本はリズ・ハンナとジョシュ・シンガーで、リズ・ハンナは初めての脚本の映画化のようです。ジョシュ・シンガーは『スポットライト 世紀のスクープ』で数々の脚本賞を受賞。音楽がジョン・ウィリアムズで、サスペンスのような臨場感がある。スティーブン・スピルバーグ監督が、新人のリズ・ハンナの脚本を読んでこれだと思った出会いも凄い。監督の中にキャサリン・グラハムへの想いがあって、これならきちんと彼女を時代の中で描けると確信したのでしょう。その想いは成功した。待たるる映画『ペンタゴン・ペーパーズ』