浅草散策から「いわさきちひろさん」(2)

  • 木馬館』浅草でここへ何回も来るとは思っていなかった。浅草そのものが観光ガイド的な場所であった。毎月一回は大衆演劇を楽しむため『木馬館』を訪れる。予定はたてずその時の気分だったり、友人に声をかけて決まったりする。今回は浅草公会堂での前進座『ちひろ ー私、絵と結婚するのー』の夜の部の観劇を入れていたので昼は『木馬館』と決まった。

 

  • 大衆演劇の芝居小屋によって違うこともあるが、整理券を出すところもあり『木馬館』も出している。その時によって入場者の波があるのを知る。友人を誘い私は予定がありぎりぎりにいくので先に入っていてと言ったところ彼女らしい見やすい席に座っていたので安心した。こちらもほど良い席に座れた。一度など友人と時間を潰してから行ったら整理券がでていて並んでいる。座れたのは一番後ろの丸椅子であった。どこでも観やすいのでそうこだわらないが、先に覗いて整理券のあるときはそれを受け取ってから散策にでかける。要領がよくなってきた。

 

  • サトウハチローさん自身の<木馬館の恋>がある。当時の『木馬館』はジンタが流れ乗り物の木馬が回る小さなメリーゴーランドであった。今もその木馬が建物の外から見えるように展示されている。ハチローさんはこの木馬に乗り続けた。身体の大きなかたであるからあの小さな木馬に乗った姿は想像しても恰好よいものではないが、木馬館の女の子に恋をしてしまったのである。お金は父・紅緑さんに「乗馬をやっている」といってお金をもらっている。おしィちゃんには全然通じていない。告白などできない。

 

  • 以前、今戸の渡し場で船頭の手伝いをしたことがあった。渡しの船で向島から浅草を決まった時間に往復する美しい娘さんに恋をしてしまう。ある日、向島から後をつけると浅草金魚飼育所の看板の家に入った。数日後ハチローさんは意を決し娘さんをお嫁さんにしたいと申し込みことにいく。金魚屋を訪れ兄貴らしい人に、いつも渡しで浅草に行くあの娘さんをお貰いしたいと申し出る。兄貴が言った。あの娘ですか。あいつは俺の女房なのですが。

 

  • そのことがあり今度は木馬館でラムネを売っているお婆さんに仲介を頼むことにした。木馬に乗り過ぎてズボンの内股はすり切れ、両方の手のは手綱のタコが出来ている。喉が渇くのでラムネを日に何本も飲むためラムネ売りのお婆さんとも顔みしりである。お婆さんは、毎日木馬に乗っている人に嫁はこないだろうとあっさり拒否する。このお婆さんはあの女の娘の母親であった。コントになりそうな実体験である。

 

  • 木馬館』の大衆演劇も楽しく大笑いの場面もあった。大衆演劇には笑いのセンスの良い役者さんが多い。何が飛び出すか分からないところがお化け屋敷さながらで、突然変な人が現れる。初めての人は、皆の笑いについていけず何事かと思い、もしかしてあの美しい役者さんがこの人なのかと3歩ぐらいおくれて気が付く。そのうち芝居の笑いに吸い込まれる。ただこの変な人は、恰好良い人に居場所をとられてしまう。そして形が決まって幕となる。まあこれは一つの例で、様々のバージョンがあるので何とも出たとこ勝負である。珍しく、昼夜同じ演目で役者さんが代わるという。残念ながら夜は<ちひろ>さんである。

 

  • 歌舞伎座12月夜の部はAプロ、Bプロとややこしい組み合わせになっているがどうせなら『あんまと泥棒』の松緑さん(泥棒権太郎)と中車さん(あんま秀の市)も入れ替えて演じて欲しかった。それぞれの色があって面白かったと思うが残念である。

 

  • 大衆演劇、舞踊ショーも含めて、またまた楽しませてもらった。東北の友人が、お得な電車の切符のときにそちらに行きたいから計画してほしいと言ってきた。こちらの旅に合わせるというが大きな病気もしているしそうもいかない。温泉かなと思っていたが、そうだ大衆演劇に行こう!というわけで大衆演劇付き宿泊と決めた。よろぴ~!と返信がくる。こちらも手続き簡単で助かった。喜んでもらえるかどうかは出たとこ勝負である。まあおしゃべりだけでもいいわけであるから楽しもう。そしてもう一つ浅草で実行できた。

 

  • 人力車。ついに乗った。大したことではないがなかなか予定もあったりで好い状態でつかまえられなかった。『木馬館』の送り出しは混んでいるであろうと裏から抜けて路地を出たら車屋さんがいた。ラッキーである。乗り心地と目線の高さを知りたかった。そして人の少ないところを。こちらの要求をわかってくれた。車輪はタイヤで座席のクッションもよく乘り心地が良い。観光はいらないと思っていたが、さすがプロである。知らない事を教えてくれる。

 

  • 実際に走って乗るなら樋口一葉さんの『十三夜』や『無法松の一生』の時代の人力車よりも現代の人力車である。特に時間が長いと快適さが違うであろう。車屋さんは説明しつつ、こちらの質問に答えつつスイスイ進んでくれる。路地の四つ辻なども人をよけ上手く回ってくれる。今日は人が少ないということである。江戸通りも停っている車をよけつつ走行車の横を走る。人に対しては邪魔かなと思うが車に対してはなぜか優越感である。高いせいもある。家並みもいつもより高い目線なので古い家並みとして映る。桜の時期の墨田川沿いがお薦めという。いいだろうな。その時は人力車の日として考えなければ。

 

  • 人力車のあとは、車屋さんに聞いた沢山の芸能人などのサイン色紙が飾ってある洋食屋さんへ。壁全面に飾ってある。たまたま座ったところに大杉漣さんのサイン色紙が目に入った。(合掌)浅草でというのが心ならずもうれしかった。さてまだ少し時間があるので駒形橋を渡り吾妻橋からもどることにする。駒形橋の真ん中でカメラを据えている若い男性がいる。気になってずーっとここで撮っているのか尋ねると朝から20分置きにシャッターをきっているという。一つの風景の時間の経過を追っているらしい。別の場所で映して一枚に編集したのをみせてくれた。編集が大変らしい。この風景なら時間の経過がはっきりして素敵な作品になるであろう。写真関係の学生さんだった。吾妻橋に近づくと尾形船の灯りもあって浅草と隅田川の相性のよい風景となる。ではこれからちひろさんに会いに行く。